砂場の記憶

ロイド

第1話


 夏の日差しにも負けず、公園では子供達のはしゃぎまわる声が響く。

砂場では、いくつもお山を作ってトンネルを掘っている。

母親達はにこやかにベンチで語らっている。



深夜


 古びた街灯には蛾達が群がっている。

わずかな光に照らされた砂場では、微かな音が響いていた。


 「キィー、キィー、キィー、」


 砂場のお山のトンネルから埴輪の様な頭が、ひょこっと顔を出し辺りを見渡している

目と口に当たる部分には、小さなまん丸の穴が三つ、かわいらしく空いている。

やがて3頭身の、なで肩の小さな砂人形達が次々姿を現した。


「ひょこ、ひょこ、ひょこ、」


 一回り小さな砂人形達は更に高い音を立てて現れ、辺りをせわしく走り回る。

腰の曲がった砂人形は、手を取り合って、ゆっくりと砂場の縁に行き腰を下ろした。

ゆっくりとした時間が流れていた…

やがて、いくつかの砂人形は手をとりあい、幾重もの輪になって楽し気に踊りだした。


「ドガシャーン」「ピカッ!」


 突然の雷鳴、辺りが一瞬明るくなった。

驚く砂人形達。

小さな雨粒が砂人形にあたる。

砂人形は慌ててトンネルへと逃げ込む。

徐々に強まる雨足。

腰の曲がった砂人形は諦めた様にその場に佇む。

いくつかの砂人形の目と口は正円が崩れ、歪んだ楕円形へと、ただれた様に変形していく。

 更に強まる雨足。

倒れこんだ大切な仲間を助け起こそうとする砂人形。

その砂人形も雨足が襲う。

肩、手足、は徐々に形を失い、崩れ、その場にいくつもの小さな山を形成していく。


やがて雨が止み、再び街灯に蛾が集まりだした。




砂場には、そこには何もなかったかの様に平らになっている。

日付は8月6日

公園の時計は8時15分を回っていた。

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砂場の記憶 ロイド @takayo4

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