最終話 記憶を消されても一緒に…
寝ない。
何があっても寝ない。
きっと先程飲んだ薬は眠剤の類だろう。
異様な眠気と浮遊感、幻視の類まで見えてきた。
酔ったときにも似た視野の狭さ、くらくらする浮遊感も相まって気分が悪かった。
内ももを強くつねって正気を保つとそのまま横にはならずに立った状態で時間を過ごす。
それでも足元が覚束ない。
初めの数時間は薬の効果になれるまで必死だった。
耐えて耐えて耐え忍ぶ。
その結果12時間が過ぎた辺りで薬の効果が切れたらしく異様な眠気は消えていた。
起きている状態と変わらないのであれば後の半分の時間は起きていればいいだけ。
しかしながら何もせずに残りの時間を過ごすのも退屈で苦痛な時間だった。
それでも命を天秤にかけているのだ。
起きていないといけない。
そこから立ちっぱなしの状態で時間が過ぎていくのだが…。
何処かで気が抜けてしまったのかウトウトとしてしまう。
室内に警報のようなものが鳴り響き不知火は室内に入ってくる。
「試験不合格です。客室にお戻りください」
残酷にも思える言葉を耳にして僕と不知火は客室に戻る。
「佐川葵様の試験不合格のため特別措置としてあなた方のノアール下船をお知らせします」
その言葉を耳にした紫苑は軽く嘆息していた。
「紫苑さんはこちらへどうぞ」
不知火は紫苑を手招くと部屋の外に誘導した。
「あなた方はあちらへ」
不知火の案内によって僕らは甲板の方へ連れて行かれる。
「皆様のこれまでの記憶を消して下界へ放り投げます。これからのことは私達は関与しません。紫苑さんだけはいただきます。ではさようなら」
不知火がふっと手を持ち上げると僕らは今までの全ての記憶を消された状態でそれぞれの部屋に落とされる。
僕は自分が誰であり何をしてきた人間なのか思い出せない。
何もかもの記憶が封じられているようで何一つ思い出すことが出来ない。
何も出来ない状態で時間だけが過ぎていく。
数日間室内に籠もっていた。
しかしながら食料が底をついて外に出る。
そこで僕は心の底から思える運命の出会いをする。
以前何処かで出会ったような気がする女性とコンビニで出会ってしまう。
その女性も食料を買いに来ているようようだった。
同じおにぎりを手に取ろうとしたところで手が触れて…。
「ごめんなさい。どうぞ」
「すみません」
彼女も謝罪を口にするとおにぎりを手にしてレジに向かった。
僕も会計を済ませて外に出るとその女性は僕を待っていた。
「先程はすみません。譲っていただきありがとうございます」
それに一つ頷くと僕らは揃って歩き出す。
「変な話をしてもいいですか?」
彼女の言葉に頷くと不思議な話は始まった。
「私記憶がないんです…」
「実は…僕もなんです…」
そんなおかしな偶然はあり得るのかと少しだけ疑ったが何故か信じることが出来た。
「一応名前は水色って名乗っています。あなたは?」
「葵…ですかね…」
「変な偶然ですね。よかったらこれから仲良くしてくれませんか?」
「是非」
ここから僕と水色の恋愛は再びスタートするのであった。
完
「どうしても別れるっていうのなら童貞だけでも貰っていくね♡」別れたことで本格的に始まった僕らの泥沼ダークラブコメ ALC @AliceCarp
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