第5話命を賭けた三時間のご遊戯

私達三人は不知火に連れられて試験会場である大広間に通される。

「あなた方はイレギュラーですので試験の内容も異なります。通常の乗客には案内係が親となり乗客が子となってグループの全員が勝負をします。イカサマは無し。一人でも勝つことができればその時点で第一試験クリアです。ですがあなた方にはそれではぬるすぎます。それなので遊技機を使ったギャンブルをしてもらいます。三時間のご遊戯で全員がプラス域であることがクリア条件です。台選びも大切な要素ですのでよく相談しあって台をお決めください。もちろん台移動は何度でも可能です。ただしメダルまたは玉の共有は不可です。あくまで全員の収支ではなく一人一人がプラス域に持っていくことがクリア条件です。何か質問はございますか?」

不知火の言葉を最後まで聞いた紫苑は話に割って入る。

「遠隔操作なんかの類は無いものと考えて良いんだよな?」

紫苑の言葉に不知火は頷く。

「もちろんでございます。ですがもちろん釘を開けている台、閉めている台。低設定の台、高設定の台。それらはございますが不正はしません。あくまであなた方の運を図るための試験でございます。遊技機を適当に選んだ場合の勝率をご存知ですか?」

不知火の言葉に私達は首を左右に振る。

「およそ30%です。それが高いと思うのか低いと思うのかは人それぞれですが…」

「そんなのは机上の空論だろ」

紫苑が話に割って入ると不知火は首を左右に振る。

「いいえ。毎日30%の確率を引き続ける事ができればギャンブルで生活を送ることことも可能かと。まぁ毎日30%の勝利を掴み続けるなんて言うのは天文学的確率ですが…。ただ、今回は三時間のうちに30%の方に居れば良いと言うだけの話です。最後に。プラス域の状態をキープするため明らかに遊戯の手を止めていた場合はペナルティを与えます。注意、警告、執行。の順番で罰は下りますのでご注意を。以上で話は終了です。ではこれから20分間の台選びを行ってください」

不知火はそう言うと手元の時計で時間を測っていた。

「紫苑さん。ギャンブルに詳しいんですよね?」

雲母は紫苑に質問をし光もそれに便乗するように話を待っていた。

だが…。

紫苑は首を左右に振る。

「いいや、詳しくない。私は毎日ギャンブルをしていたが、それはお金を増やすためだった。一万円でもプラス域になったらその日は即ヤメしていた。もっと追って大量に勝利するのではなく少しの勝ちを拾い続けた。だが逆を言えばプラス域に行かない日は閉店まで打つ。そんな日の負け額は想像つくだろ?だから総合的に言えば私の勝率は30%ぐらいなものだ。適当に打っている人間と変わりはない」

頼みの綱である紫苑はどうやら頼りにならないらしい。

「じゃあ台選びはどうすれば…?」

光が口を開くと紫苑は戯けた表情を浮かべて適当と思える言葉を口にする。

「自分の心に従え。これだって思える台があったらそれに座れよ。私はずっとそうしてきた。そんなんで30%は勝てるんだ。それを引けばいいだけの話だろ。難しい話じゃない」

紫苑はそこまで言うと面倒くさそうに歩を進め一番近くにあった台に適当に腰掛けた。

雲母は紫苑の隣に腰掛けて見張りの役を全うする構え。

光は慎重にじっくりと20分掛けて台を選別した。

「それではご遊戯開始です」

不知火のアナウンスが流れると私達は揃って遊戯を開始する。

玉貸ボタンを押してハンドルを握り適当に時間は過ぎていく。

打ち始めてものの数分で雲母が当たりを引く。

「うぜぇ。隣が当たるとこっちは当たらない気がすんだよな…移動しよ」

紫苑は早々に台に見切りをつけて台移動を選択する。

「ちょ…紫苑さん!勝手にどっか行かないでくださいよ!」

雲母は大当たり中なので台から離れることも出来ずにその場で困り果てていた。

移動した先の台で紫苑は単発の当たりを引く。

「んだよ。単発かよ…もう少し粘るか…」

紫苑が単発を引いた直後に光の台に激アツのリーチが掛かる。

光の台の確定音が大広間に鳴り響くと紫苑はうざったそうに舌打ちをする。

「二人はプラス域行けそうだな…。足引っ張るのは私かよ…」

紫苑はらしくもなく台の釘を見て選別を図るのだが…。

「普段釘なんて見ねぇからわからん…!」

雲母と光は着実に玉を増やし続けている。

しばらくの間、紫苑の投資額は増えていき彼女は困り果てていた。

雲母と光が当たり続けているのを目にした紫苑は何処か吹っ切れた表情を浮かべると一番最初に座っていた雲母の隣の席に腰掛けた。

「連チャン吸い取ったる」

「そんな事出来るんですか?」

雲母は紫苑の言葉を真に受けたのかそんな言葉を口にする。

「いいや。オカルト。連チャン続いている時に隣に誰か座ると高確率で終わるんだよな。そんで隣に当たりを吸われていく。そんな気がするって話。だからただのオカルト打法」

そんな話をしていたところで本当に雲母の台の確変は終わる。

「本当に終わっちゃったじゃないですか!どうしてくれるんですか!」

雲母は焦ったように紫苑に詰め寄る。

だが紫苑は落ち着いた表情で口を開く。

「残り時間一時間で持ち玉20000発だろ?もうお前は確ってるんだよ。適当に遊んでな。残り時間でどうにかプラス域にしないといけないのは私だけなんだ。あの女も大丈夫そうだし…ってそんな話している間にバイブった。これで当たらんかなぁ〜」

紫苑が何を言っているのか雲母は全く理解できずに居た。

そこから紫苑の台は当たりを引き、終了時間まで確変を途切れさせなかった。


「遊戯終了です。では収支を確認致します。まずは白桜院雲母様。投資500玉。回収19500玉。+19000玉です。次に星野光様。投資3750玉。回収12000玉。+8250玉です。最後に紫苑様。投資10000玉。回収10500玉。+500玉です。これにて第一試験合格をお知らせします。客室に戻り第二試験の知らせをお待ち下さい」

不知火は恭しく頭を下げると再び私達を客室に案内した。

部屋に戻った私達を残りの二人は信頼していたのか安心して眠って待っていた。

私達の命を賭けたハラハラした三時間の出来事など知りもせず完全に安心して眠りについている二人に嘆息する三人なのであった。

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