第2話ノアール
紫苑と揃ってマンションに帰ってくると隣の住人、白桜院雲母に遭遇する。
雲母は僕らを確認するとお辞儀をする。
「本日は随分個性的な格好の女性とご一緒なのですね…」
「ちょっとわけありでね…」
「わけあり?その女性に何かあったんですか?」
「実は…」
そこから紫苑の身に起きたことを掻い摘んで話して聞かせる。
雲母はそれを黙って頷いて聞いており思案気な表情を浮かべた。
「ちょっと良いですかね…私の部屋に来てくれませんか?」
雲母からの謎の誘いに僕らは首を傾げる。
紫苑に目線を向けると彼女は一つ頷く。
「今更一つ隣の部屋に行くことぐらい拒んだりしない」
紫苑からの了承も得たので僕らは三人揃って雲母の部屋に入っていく。
雲母の寝室は相変わらず写真だらけで気味が悪かったのだが彼女が何処か真剣な表情をしていたので僕からは触れずにおく。
「なんだ。お前の恋人なのか?」
紫苑は僕に問いかけて来るのだが首を左右に振って応えると驚いた表情を浮かべていた。
「じゃあこの写真は何だ?」
「それは…」
無害なストーカーであることを簡潔に伝えると紫苑は納得したのか何度も頷く。
「分かるな。お前ってそういう女をホイホイと捕まえてきそうだしな…私もその一人ってわけか…」
紫苑はその事実が余程ショックだったのか項垂れると後頭部あたりを掻いていた。
「まずは紫苑さんのお風呂が先ですね。私の新品の下着で良かったら使ってください。お風呂に案内しますね」
雲母は紫苑を連れて脱衣所まで向うと数分で戻ってくる。
「葵さん。今から突拍子もない話をしますが信じてください…」
雲母はそう言うと話を始める。
「多分ですが…私の推測が正しければ…紫苑さんは何処かのご令嬢かと。私の両親や叔父も亡くなった知らせの入る数ヶ月前によく言ってました。あの船がやっと来るって。船に乗って楽園に行くんだって。私は幼いのもあってそこに連れて行かれることは有りませんでした。叔父も私を巻き込もうとはしませんでした。でも私はその船の存在を知っています。そこで何が行われているのかは知りませんが…紫苑さんはその船の唯一の生き残りなんです。ちなみにですが両親や叔父の遺体は見つかっていません。旅客船の事故で海底に沈んだのではないかと未だに消息不明です。ただし死亡扱いなのは間違いないのですが…。多分ですが…いえ、きっと紫苑さんは何かを握っています…今は記憶がないのかもしれませんが…私も両親や叔父の死の真相を知りたい。だからお願いです。葵さんどうかこの問題に付き合ってもらえませんか?」
突如として発展した不可解な問題に僕は突然巻き込まれてしまう。
これに首を左右に振ると人でなしと言われるのは僕のほうかもしれない。
だから僕はどうしようもなくその問題に首を突っ込むこととなる。
「ありがとうございます。紫苑さんがお風呂から上がったらまた話をしましょう。それまで…」
雲母は僕にゆらゆらと近づいてくると明らかに異様な目つきをして迫ってくる。
(やばい…!襲われる…!)
そんな事を思ったのだが雲母はそのまま部屋を出てリビングに向かった。
「バイト終わりでお腹空いているんです。料理でもして時間を潰します」
雲母に着いていくと僕らは紫苑の帰りを待った。
彼女はキッチンで料理を始めて僕はリビングのソファで寛いでいた。
しばらくすると紫苑はさっぱりとした格好で戻ってきて雲母に感謝を告げていた。
そこから料理を終えた雲母は紫苑に先程の話を言って聞かせる。
「私が令嬢?そんな訳あるか。こんなに荒ぶったご令嬢が居るわけ無いだろ?」
「いえ、ですから何らかの方法で記憶を封じられていて本来の紫苑さんの性格すらも忘れてしまっているのですよ。もう一度その船に行ってみませんか?」
「行こうって言ったって行ける場所じゃないだろ?何か案内が来るか…」
そんな話をしていると雲母のスマホに通知が届く。
「楽園行きノアール船への切符を得ました。白桜院雲母様。以前ご家族様の参加も確認されております。同伴者は4名まで。最大5名様でご参加可能です。どうか良き返事をお待ちしております。楽園行きノアール船」
話しをしていた所に偶然通知が来るなんてありえない。
きっと何かしらの条件下で参加資格を得たのだと推測される。
だけど…どのようにして…?
それが全く理解できないので僕らは完全にフリーズする。
「とりあえず…後二人集めますか?」
「その方が良いだろ。女を二人ほど呼べないか?男はこいつだけでいい」
「葵さん。頼めますか?私はストーカー活動で忙しくて友達も居ませんし。バイト先の人間がこんな怪しい話に乗るとは思えません。葵さんの話になら乗ってくれる女性が二人いるじゃないですか」
それを耳にして僕はその場で水色と光に連絡を入れる。
彼女らはノータイムで了承の返事をくれる。
というわけで雲母はノアールからのメールへ返事を送る。
これからヒロインたちとの絆が深まる不可解な物語は始まろうとしていた。
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