第二章 楽園行き激闘ノアール船編
第1話新ヒロイン?登場で話は動き出す
社員旅行から帰ってきたその週の帰り道。
残業を数時間やり遂げると一人寂しく帰路に着く。
電車を乗り継いで最寄り駅に辿り着くと自宅までの帰り道にソレに出会う。
彼女の見た目はどうにも薄汚れている様に映る。
服の至るところが破れていたり丸く燃えた痕があったり…。
長く伸び切った髪をたなびかせ彼女はコンビニの前で項垂れていた。
(そう言えば腹減ってるんだよなぁ…でもあのコンビニ入りづらいしなぁ…)
そんな思考に至るのも明らかな不審人物の存在が僕の足をその場に止めていたからだ。
少しでも動けば、足音を鳴らせば、そいつは今にも僕に襲いかかってくるのではないだろうか。
そんな思考さえ脳裏をよぎる。
目の前の女性は言葉では言い表すことが出来ない、形容しがたいほどに僕の目には異様に映る。
ゴクリと生唾を飲み込んだ音が聞こえてきたのかその女性は顔を上げた。
その顔面を目にして僕は生きてきた中で一番の衝撃に襲われる。
目の前の女性は服装などの身なりは薄汚れているが顔面が圧倒的に美人だった。
圧倒的、絶世の美女。
そんな女性が何故薄汚れた服を着ているのか…。
そんな事が気になり気付いたときには足が前に進んでいた。
彼女に話しかけるわけでもなく、ただ夕食を買うという体でコンビニに入店しようと前へ足を進める。
「あ…スーツ着てるマトモな大人発見。頼む。負けてマジで金ないの。このままだとヤニ代と酒代も無くなる。おにぎり一つで良い。恵んでくれ」
その女性は初対面の僕に対して懇願するような言葉を口にする。
「タバコとお酒を我慢すれば…」
そこまで言いかけて僕は口を噤む。
彼女は既にポケットからタバコを取り出すと口に咥えて火を着けていた。
ふぅーっと煙を口から吐き出すともう一度項垂れ状態に戻る。
「もうええってその説教。あんたで30人に言われたわ。後の20人には家泊まっていく?だぞ。そんなに安くねぇっての。はい。行った行った」
彼女は僕を手で払うような仕草を取ると興味が失せたのか遠い目をしていた。
しかしながら僕は下心もあって彼女に食料を買っていく。
おにぎりを3つとからあげのホットスナックを一つとお茶を一本。
それを別の袋に入れてもらうとコンビニの外に出る。
「良ければどうぞ。貰ったからって家に来い。なんて言いませんから」
僕の言葉はどうにか彼女に届いたらしくこちらを確認する。
「マジで言ってのか…?お人好し過ぎる…そんなんで大丈夫か?よし!代わりに人生相談ぐらいは乗ってやるよ!コンビニにはもう用はねぇから公園行こうぜ」
彼女は美しすぎる笑みを浮かべると着いてこいとでも言いたげに前を歩いた。
そのまま彼女の後を着いていき近くの公園のベンチに腰掛けた。
二人並んでベンチに腰掛けるとお互いがコンビニ袋の中の物を取り出した。
「そんじゃあいただくわ。ありがとさん」
彼女はそのまま食事を手早く済ませるとお茶を豪快に飲み干してものの10分程で食事を終えてしまう。
「ごっつぉうさん」
ベンチの脇にあるゴミ箱に袋ごと捨てると彼女はその場でタバコに火を着けようとする。
「あ…ごめんなさい。何さんですか?とりあえずここでは吸っちゃだめですよ。喫煙可能スペースに…」
その言葉を耳にした彼女はタバコを一度箱に戻してポケットにしまった。
「まぁ命の恩人の言葉は聞かんとな。私は
紫苑は意味深な言葉を口にすると面倒くさそうに頭を掻いた。
「この後、どうしてですか?みたいな質問が来るのは理解できるから先に説明しておく。意識が戻ったとき私は船の上だった。何も理解できなかったけど薄っすらと知識はあった。これは漁船ではなく旅客船だと理解できるぐらいの知識はあった。でもどうして私はその船に乗っていたのか…それは全く理解できない。その旅客船の客は私だけだった。後は船員だけ。船員に何を尋ねても答えは貰えなかった。私は自分自身の記憶すら失い名前も住んでいた場所も思い出せない。ただ分かるのはこの船の上で何かが行われていたこと。私はそれに巻き込まれたのか自ら参加したのか…。とにかく私はその船の生き残りのようなものだった。船を降りるとき大量のお金を貰った。自分が誰かもわからない私がマトモな仕事に就けるはずもない。少しずつでもお金を増やそうとギャンブル生活。ねぐらは決まってネットカフェか公園のベンチ。だから一円たりとも日々減らすことが出来ない。負けた日はああしてコンビニの前で項垂れるんだ。気長に話しかければ三日に一回ぐらいは飯を奢ってくれる人がいる。以上が私の全てかな。信じなくてもいいけど」
それを耳にして僕は信じられない事柄だったのだが何度となく頷いた。
「大変でしたね。今までよく生きてこられました。尊敬します。僕がその立場ならきっと無理です」
そんな言葉を口にすると紫苑は美しく笑う。
「信じてくれてありがとう」
紫苑は礼を口にするとその場から立ち上がる。
僕は思わず彼女に声を掛けてしまう。
「行くところないなら家に来ますか?お風呂に着替えの服ぐらいなら用意できますよ。その…下着はコンビニで買ったほうが良いかと…お金は僕が出しますから」
僕の言葉を耳にした紫苑は驚きのあまり絶句していた。
「あんた…逆にヤバいやつなんじゃないか?今の話聞いて助けようと思う?普通は虚言癖のヤバいやつとか違法な薬使って記憶も曖昧になっている人間だとか思わないか?何もかも信じていたらいつかきっと痛い目見るぜ?」
紫苑の言葉を耳にして僕は彼女が悪い人間ではないと何故か直感的に理解する。
「いつかは見るかもしれないけれど…それは今日じゃないでしょ?」
そんな風に言ってみせると紫苑は鼻を鳴らす。
「かっこついてねぇっての…」
紫苑は呆れたような言葉を口にすると、
「じゃあ案内してくれ。世話になる…」
それを耳にした僕は軽く微笑むと自宅に向けて歩き出すのであった。
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