第7話サイレントハピバ
後日の休日のこと。
水色との本当のデートの日がやって来る。
駅前で待ち合わせをしてそのまま少し離れた街までやってきていた。
水色は随分と気合の入った服装で本日のデートに賭けているのが見て取れる。
それを嬉しくも思うのだが少しだけ複雑な気分だ。
(僕を欲してくれるのは良いけれど…目的が行為だけっていうのはなぁ…)
そんな事を軽く思考するのだがどうやら水色の本日の目的はそれでは無いようで…。
「新しく出来たカフェに行きたいのと話題の映画鑑賞!あと時間があったら水族館も行きたいな!それで最後は食事!予約しておいたんだ♡」
それを耳にして僕は何とも言えずにただ頷くだけ。
(水色さんも色々と考えてくれているんだな…本気になったってそういうことなのかな…)
そんな事を軽く思考すると二人揃って街を歩く。
「何処から行こうか?映画の時間は何時からなの?」
「13時。あと30分もないよ」
「じゃあ映画からだね」
ということで僕らはショッピングモール内の映画館に向う。
スマホでチケットを購入してあるのでスムーズに入場すると飲み物とポップコーンを買って入館する。
そこから映画は恙無く始まり二時間弱の映画を黙って鑑賞することになる。
上映中、きっと製作者が意図した場面でもないところで水色は涙を流しておりそれがすごく意外だった。
水色にそっとハンカチを渡すとそのまま映画を楽しむ。
のだが…。
少々のノイズが走る。
(何処か愛おしいような…不思議な感じだ…変な気分…)
自分の中の変化に驚きを覚えるがそれには直視しないで映画に集中する。
二時間弱の上映時間は思いの外、早く過ぎ去っていき僕らは揃って映画館を出る。
「カフェで軽く食事にしない?」
それに頷いて応えると僕らは水色がチェックしていた新しく出来たカフェへと向う。
外観からかなりおしゃれな場所で内装まで上級者向けの作りだと思われた。
軽食にパスタとコーヒーを注文すると贅沢な時間は過ぎ去っていく。
少量のパスタを軽く食べるとコーヒーを飲み干して水族館へ向う。
「それじゃあ歩いて行こう」
店の外に出ると水色は僕の手を握った。
それに少し驚いて水色の方を眺めると彼女は薄く微笑む。
(こうしていると普通の恋人っぽいな…)
思考にノイズのようなものが走りながら目的地の水族館を目指した。
そのまま手を繋いだ状態で水族館へ向かった。
チケットを買って入館すると様々な水生生物を鑑賞しながら僕らの他愛のない会話はいつまでも続いていく。
二時間弱で一周を終えてしまうとそろそろ街には夜の帳が下りてきていた。
「そろそろレストランの時間だよ」
「何処のレストラン?」
「ここなんだけど…」
水色はスマホの画面を僕に見せるのだが…。
「マジで言ってる?」
彼女はそれになんでもないように頷く。
スマホに表示されていたのは社会人なら知っているような有名レストラン。
なにか大事な日にしか行けないような高級レストランだった。
僕らはそこに向かうと慣れない手付きで食事を進めていく。
コース料理が終わるとウエイターが僕にだけケーキを持ってやって来る。
「なんですか…?これ…?」
ウエイターはお辞儀をするとその場を後にする。
ケーキの上のプレートには、
「23歳のお誕生日おめでとう」
とチョコペンで書かれていた。
「あ…水色さん…覚えていたんですね…」
何とも言えない感想が口から漏れると彼女は軽く微笑む。
「おめでとう。それとこれ」
水色はバッグの中からプレゼントらしきものを取り出して僕に差し出す。
「開けても?」
彼女はそれに頷いて僕は包装を丁寧に破いていく。
中にはブランドの名前が書いてある箱が入っていてそれを開けると…。
中には銀のブレスレットが入っていた。
「よかったら身に着けててほしいな♡」
それに頷いて応えると水色は美しく微笑む。
そのままケーキを食していくと本日のデートは終了を迎える。
(この後、家に行きたいとか言われるのかな…)
そんな事を思っているのだが水色は電車に乗り込むと別れの挨拶をしてくる。
「じゃあ今日はこのへんで。またデートしようね?おやすみ」
肩透かしを食らうと僕らは自宅の最寄り駅で別れて別々の場所に帰っていく。
帰宅するとお隣さんの白桜院雲母が僕を待ち伏せていた。
「デートだったんですか…?」
それに頷いて応えると彼女は不貞腐れたような表情を浮かべた。
「何か良い雰囲気でしたね…妬けます」
「尾行してたの?」
「はい♡ばっちりと写真に収めました♡」
それに苦笑を浮かべると自分の部屋のドアを開ける。
「今日は一緒に居てもいいですか?」
雲母の言葉に首を左右に振ると一言。
「今日はこの気持ちのまま眠りたいんだ」
雲母はそれに何とも言えない表情を浮かべながら最終的には納得してくれる。
「では。また今度。おやすみなさい」
「おやすみ」
自宅に入ると幸せな気分に包まれたまま本日は眠りにつくのであった。
ちなみにだが翌日から右手首には水色からもらったブレスレットを着けて生活するようになるのであった。
それを快く思わない人物が隣りにいることに気付かないまま…。
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