第5話光属性は好きな人の前だけで

22歳で童貞を奪われたわけだが…。

僕の正直な感想は、

「幻想を抱いていただけだった…こんなものか…」

概ねこの様なものだった。

そんな事を誰かに言えば、

「愛がないから…」

云々と耳心地のいい言葉で説得されるかもしれない。

経験人数は一人だが僕はあまりその行為にハマらないかもしれない。

そんな答えに簡単に行き着いてしまうのであった。


そんな答えを昼休憩に星野光に相談してみると彼女はカラッとした笑顔で答える。

「愛がないからと言うのもあるだろうけど…体の相性が良くないんじゃない?」

光の答えを耳にして何度か頷く。

「なるほど。でも相手は癖になったとか言ってたんだよね…光ちゃんって経験豊富なんだね。意外に大人だ」

「え?経験ないけど?聞いたことある話を適当に言ってみただけ」

「なんだ…」

軽く嘆息して答えると昼食を進めていく。

「でも相手は体の相性が良いと思ってるんだ…それで愛が芽生えたってこと?」

「多分そうかも。わからないけど…」

「う〜ん。葵くんが他の人と経験積んでみたら?」

「いや…それは無理かも…」

「どうして?」

その疑問の言葉に以前、水色から言われた脅迫の言葉を伝える。

光は何度か頷くと口にしていた食事を飲み込んでから一言。

「それはないでしょ」

「どうして?」

「だって葵くんとの行為が癖になってるんでしょ?使えなくするわけないじゃん」

「でもなぁ…有り得そうだから怖いんだよな…」

僕の答えを聞いた光は首を左右に振るとなんでもないように食事を進めていった。

それに倣うように僕も食事を済ませると昼休憩は終わっていくのであった。


食事を終えてデスクに戻ると水色は意味深な微笑みを僕に向けてきた。

それに背筋が凍りつくような感覚がすると目を逸らす。

そのまま仕事に励むと恙無く終業時間を迎える。

「今日、家に行っても良い?」

水色は一応僕に尋ねてくるのだが問答無用で来るのだろうと思われた。

「いや…今日は…」

一応断りの言葉を口にすると意外なことに水色はしおらしい態度を取った。

「そうなんだ…じゃあまた今度ね」

思わぬ返事がきてホッとした表情を浮かべていると水色はそっと耳打ちだけして帰路に着く。

「浮気は…分かってるよね?」

ゴクリと生唾を飲み込むと一つ頷く。

水色が帰っていくのを確認すると遅れて帰路に着くのであった。


帰宅してシャワーを浴びていると部屋のチャイムが鳴り響く。

「ピンポーン」

無機質な音が一度鳴るのだがシャワーを浴びていてすぐには出れない状況だったので居留守を使う。

だが相手も中々諦めてはくれないようで何度もチャイムを鳴らしてくる。

(水色さんだったら合鍵があるし…誰だろう…?雲母さんかな?)

そんな事を思うと手早く脱衣所に向かい着替えを済ませる。

訪問者が誰かも見ずに玄関を解き放つ。

「はいはい。ごめんなさい。シャワー浴びてて…」

玄関の扉の前に立っていたのは意外なことに光だった。

「光ちゃん。どうしたの?とりあえず上がる?」

いつも元気な光ではあるのだが今は何処か影のある雰囲気を漂わせていた。

光はそのまま部屋の中に入ってくるとリビングのソファに腰掛けた。

とりあえず温かいお茶をキッチンで用意すると彼女に差し出した。

「ありがとう…」

光は湯呑を両手で持つとそのまま口に運んでいく。

ゆっくりと一口飲むと大きなため息を吐いた。

「どうしたの?」

そんな質問が自然と口から漏れる。

「好きな人に気付いてもらえなくて…結構積極的にアピールしてるんだけどね……」

何となく何処かで聞いた話だと思った。

だがあまり深く考えもせずに言葉を発してしまう。

「酷い男性だね」

その言葉を耳にした光は死んだ魚のような瞳で僕を見ていた。

「え…?何…?無神経なこと言った?」

「うん。無自覚に凄く言った」

「ごめん」

とりあえず謝罪を口にすると光は僕に向けて頭を向けてくる。

「じゃあよしよしして?それだけで上機嫌になるから」

理由はよくわからないが、それならばと思い光の頭を撫でてあげる。

光は嬉しそうに頭を撫でられていた。

僕も何処か幸福感に包まれながら光の頭を撫でた。

数十秒それが続くと光はいつもどおり元気になった。

「よし!これで満足!じゃあ今日は朝まで飲み明かそう!」

光はそう言うと来る時に買ってきたであろうアルコールをスーパーの袋から取り出すとテーブルの上に広げた。

「じゃあ飲み明かすか〜」

軽いノリでそれに答えると光との宴は始まるのであった。


深夜二時頃に光は完全に酔っ払ったのか素面ではない状態でこの様なことを口にした。

「葵くん!今でも水色さんのこと好きなの!?」

それに何とも言えない表情を浮かべると首を左右に振った。

「どうして別れたかったの!?」

「なんだろう…。何か思っていた恋人関係とは違うって思ったからかな。僕を見ている気がしなくて…それが水色さんが言っていた本気じゃなかったって事だと思うんだけど…なんかそれが誠実じゃない気がして嫌だったんだよね…だから別れた」

光はそれをどうにか聞いているようで、すかさず質問を返してくる。

「でも今は本気になってくれたんだよね!?じゃあこれからまた二人は始まるの!?」

それにも何とも答えられずに首を傾げていると光はその言葉を口にする。

「私は葵くんが好きです…!」

光はそれだけ言うとソファに倒れるように横になりそのまま眠ってしまう。

(言いっ放しはずるいな…)

そんな事を思いながら目が覚めても光が何も思い出さないことを願うのであった。

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