第4話ストーカー発見

お隣に住んでいる女子大生は訳ありである。

白桜院と言う名家に生まれながら小学校一年生にして誘拐にあう。

なんでも送迎の運転手と執事がグルになって誘拐を企てたんだとか。

そこから数年後、混乱に陥った一家で両親は不幸な事故に合う。

気味悪がれ疎まれた彼女だが親戚の叔父さんの家で預かられて育てられた。

高校を卒業する頃に叔父が亡くなり彼女は現在マンションで一人暮らし。

それが僕のお隣さん。

白桜院雲母はくおういんきらら21歳。

大学四年生の彼女は歳の近さからもあり、お隣である僕とはご近所付き合いも良好だ。

そんな彼女から相談を受けたのがことの始まりである。

チャイムが鳴り玄関に向うと彼女は焦った表情で僕にその名を告げた。

「アレが出たんです!葵さん!助けてください!」

女性がアレが出たと言って焦っている場合のテンプレートは言わずもがななわけで…。

「わかりました。待っていてください」

玄関に置いてある殺虫剤を持つと隣の彼女の部屋に向う。

「おじゃまします」

簡単に挨拶をして中に入ると彼女は玄関の鍵を閉めた。

「ん?何で閉めるんですか?」

疑問に感じて問いかけると彼女は気まずそうに口を開いた。

「誘拐されてから鍵のある部屋じゃないと怖くて…。どんなに短い間でも鍵をするようにしているんです…」

「そうですか…戸締まりは大切ですね」

そんな話を持ち出されたら何も言えない。

(僕が警戒する必要はない…よな…)

疑念を払いながら彼女の部屋に入っていくと問いかける。

「何処で見たんですか?」

「えっと…キッチンで見て。その後はお風呂場の方へ向かっていきました」

それに頷いて応えると殺虫剤を持ったまま風呂場に向う。

しかしながら見える所にヤツの姿はなく…。

「居ないですね…」

「じゃあキッチンに戻ったのかも…退治してくれないと今日は眠れなさそうで…」

そんな事を言われたらやるしかないだろう。

「大丈夫ですよ」

などとは言えない。

僕の部屋にヤツが出たとしたら退治するまで眠れない自信がある。

それなので全力で退治に向かう。

キッチンの方へ向かい部屋中を見て回るのだが何処にも存在せず…。

最後に残されたのは寝室だけだった。

「寝室…」

その言葉を耳にした彼女は激しく首を左右に振る。

「ここだけはダメです!絶対に入らないでください!」

気圧されてしまうほどの勢いで発せられた言葉にたたらを踏んでいると、彼女は背に腹は代えられないと思ったのか眉間にシワを寄せた後に寝室のドアを開けた。

「明かりはつけないでくださいね?」

「そう言われても…暗かったらわからないじゃないですか…」

「じゃあ…部屋を見ても引かないでくださいね?」

それに頷いて応えると彼女は部屋の明かりをつける。

そこに…。

そこにあったものを目にして僕は絶句する。

部屋中に貼られた僕の盗撮写真。

何処で撮ったのかもわからない僕のプライベート写真が部屋中にぎっしりと貼られていた。

「え…えっと…」

寝室に入り絶句していると彼女は部屋のドアをゆっくりと閉める。

寝室に取り付けてある鍵をガチャりと閉めると彼女はゆっくりと後ろから僕を抱きしめる。

「やっと…捕まえたっ♡」

その言葉を耳にして僕の背中にはツゥーっと冷や汗が流れる。

「誘拐されてから武術を習う様になったんです。身体も鍛えて…叔父さんにも異性と闘うコツを教えてもらえたんです。葵さんぐらいなら…簡単に押し倒せますよ♡」

彼女は妖しく美しく笑うと耳に熱い吐息が触れる。

「ずっと…こうしたかったんです…」

「えっと…アレは嘘だったの?」

「はいっ♡騙してごめんなさい♡」

「なんでそんな嘘吐いたの?それにこれが僕にバレても良かったの?」

「寂しかったからです。あとは私の気持ちに気付いてほしかったので…」

「そう。じゃあ僕は帰るけど…また何かあったら言ってね?今度は騙すこと無く」

それだけ告げると雲母から離れて僕は自分の部屋に戻っていく。

布団に潜り込み非日常的な夜の出来事に悶々としながら明日を迎えるのであった。


職場に向うと水色は僕のデスクを訪れてスンスンと匂いを嗅いでいた。

「違う女の匂い…誰と遊んだのかしら」

ギクリとするが素知らぬふりをする。

「何がですか?シャンプー変えたからじゃないですかね…」

その様に惚けてみせると水色は鼻で笑う。

「浮気したらどうなるかって教えたよね?」

「してない…です…そもそも別れてますし…」

「別れてないけど。まぁ信じてあげてもいいかな」

水色はそれだけ言い残すと自分のデスクに向う。

その様子を見ていた隣のデスクの星野光はコソッと僕に耳打ちする。

「今度詰め寄られたら私の名前出していいよ。私と食事に行ってたとか嘘言ってくれたら合わせるから」

「悪い。本当にありがとう」

「いいって。同期じゃん」

光の眩しい笑顔に充てられて心が和むと本日も仕事に励むのであった。

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