第2話光属性と闇属性。守る、死んでも離さない
翌日。
恐る恐る出社すると水色は何でも無いような表情で挨拶をしてくる。
「おはようございます」
簡単に挨拶を交わすと僕はデスクに向かい椅子に腰掛けた。
「葵くん!おはよう!新作のお菓子出てたから買ってきたんだぁ〜!お一つどうぞ!」
隣の席の
「光ちゃん。ありがとう。今日もいつもどおり元気だね」
別に嫌味ではなく星野光は毎日元気な光属性の女性。
落ち込んでいるところや他人の愚痴を吐くところを見たことがない。
新人研修で仲良くなった僕らはお互いの名前で呼び合うぐらいの仲だ。
「ふふっ。そうだね!私は葵くんの前ではいつも元気だよ」
光の意味深なその言葉が少しだけ気になったが僕は微笑むだけだった。
「そうだ!久しぶりに仕事終わったらご飯行かない?」
「いいけど。二人で?」
「そう!二人で!」
今までも二人で食事に行くことは無くはなかったので別段警戒することもなく了承の返事をすると仕事に向かうのであった。
午前の仕事を終えて昼休憩の時間がやって来る。
節約のため自前で作ってきたお弁当を休憩スペースで広げると食事を開始した。
とは言っても冷凍食品を温めてお弁当に詰めただけの簡単な食事だ。
中々に広い休憩スペースでは他の社員も昼食を取っている。
一人で食事をしている人間のほうが少数だった。
光も先に休憩に入っており今は他の女性社員と食事をしていた。
僕が一人なのを見越して訪れるのは元彼女である水色以外ありえない。
「一人?隣良い?」
僕の了承を得ることもなく水色は隣の席に腰掛けた。
「自分で作ったの?」
僕の自前のお弁当を目にすると水色は唐突に口を開く。
それに頷いて応えると水色は鶏の唐揚げを手で摘んで自分の口に運んだ。
何度か咀嚼した後に一つ頷いて一言。
「なんだ。冷食じゃん」
そう言うと水色は自分のお弁当箱を広げる。
その中から卵焼きを箸で掴むと僕に向けて差し出してくる。
「あーん」
「いや…遠慮します…」
「いいから」
水色はそう言うと無理矢理に口に卵焼きを着けるとそのまま口の中に箸を突っ込んだ。
ここまで来ると抵抗するほうが難しいので大人しくそれを食す。
「どう?美味しいでしょ?手作りなの」
それに頷いて応えると水色は満足げに微笑む。
二人並んで食事を進めていくと水色はいつものように唐突に口を開いた。
「仕事が終わったら星野さんと食事に行くんですって?」
ギクリとした表情で隣の水色の顔を見ると彼女は微笑んでいた。
だが机の下では水色の左手が僕の内ももに置かれていた。
そのまま彼女はいやらしい手つきで誰にも見られないように太ももを撫でていく。
「これって浮気かな?」
水色は僕の顔を見ずに食事だけに集中しているふりをして言葉を続ける。
「だから…僕らは別れたって…何度も…」
「別れてない」
水色はそこまできっぱりと告げると一度太ももから手を離した。
ホッとしていると早く離れるために食事のスピードを上げた。
「もしも…」
水色はそう話し始めて僕の顔を覗き込んだ。
「浮気だったらどうなるか分かる?」
ゴクリと生唾を飲み込むと首を左右に振る。
再び左手が机の下に潜り込んでくると水色は僕の股間をギュッと掴んだ。
「これが使えなくなるかもね」
などと脅迫に似た言葉を吐くと彼女は食事を終えたのか、お弁当箱を片付けて席を立つ。
最後に僕の耳元で小声で一言。
「死んでも絶対に離さないんだからね♡」
その言葉にゾクゾクと鳥肌が立つと何も言えずに俯くだけだった。
昼休憩を終えて午後の仕事も恙無く終えると星野光と揃って職場を出る。
「葵くんは何食べたい?」
「そうだね。強いお酒飲みたい」
「ははっ!荒れてるねぇ〜」
「まぁ…」
何とも言えない返事をすると光は近くの小料理屋に向けて歩き出した。
職場から数分の場所にあるお店に向うと僕らは食事を開始する。
一杯目はお互いにビールを頼みおつまみに色々と注文する。
「かんぱーい」
ジョッキが届くと乾杯をしてアルコールを喉の奥に流していく。
「何か久しぶりじゃない?」
光はお通しの枝豆を食べながら話を始めた。
「そうだね。研修中は結構行ったけど。最近は行けてなかったね」
「そうだよ。葵くんに恋人ができたから行きにくくなったんだ」
「そうだっけ。じゃあなんで今日は誘ってきたの?」
「ん?なんか別れたっぽいから?」
「女の勘ってやつ?」
光はそれに頷くとつまみを食しながらビールを飲んでいく。
「結局どうなの?」
「どうかな。僕は別れたつもりなんだけど」
「どういうこと?」
説明の難しい話を光にどうにか説明すると彼女は何度も頷く。
「地雷系だ」
光は一発で分かるような言葉を口にすると僕らは揃って笑ってしまう。
「でも気をつけてね?もしもなにかあったら私に言って?葵くんの事は守るよ」
それに苦笑を浮かべると光は追加で一言。
「空手で黒帯持ってますから!」
「守るって物理的なんだ…」
呆れたような言葉を吐くと僕らは夜が深まるまでお酒を飲んでお互いの近況を話し合うのであった。
終電で家に帰るとスマホには通知が届いている。
「明日。家に行くね」
通知の相手はもちろん水色なわけで…。
別れたはずの元恋人は今日も明日も僕を離してくれないのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。