第8話 血税


 俺は徴税官が逃げてからすぐに村の広場に住人を全て集めた。といっても大半は元々騒ぎで集まっていたが。


 彼らは不安そうに俺を見続けている。咳払いをしつつ演説を開始することにした。


「だいたい把握しているだろうが徴税官は八割の税を要求してきた。それに対して村長が反対したところ、奴らは武力で脅して税を徴収しようとした」

「「「「…………」」」」


 村人たちは暗い顔をしてうつむく。


 彼らにとって領主は寄る辺であり、強い者の庇護を受けないと生きていけない。だがそのために八割の税を払ったら、今度は食料不足で死んでしまう。


 この状況で明るい顔をする方が無理というものだ。


「だが安心しろ。以前に話したようにこの村は俺が守ってやる。徴税官も追い払ってやった。そして最初に俺は宣言する、この村の税は収穫高の三割でよいと」

「さ、三割だって!?」

「そんなの神様だべ! どんなによい領主様でも四割だべ!」

「あ、怪しい……」


 村人たちは目を見開いて驚いている。税が収穫高の三割でよいというのは破格過ぎるからだ。


 普通なら善人の領主でもそうそうない話だ。なにせ領主は嫌がらせで税をとっているわけではない。


 国や土地を守るための費用に使うために徴収しているのだ。なので収穫高の四割の税で限界ギリギリで、それ未満となると領地経営に支障が出る。


 兵を養うにしても民を労働させるにしても食料と金銭が不可欠で、それは税から賄われているのだから。つまり民のことを思うが故に、三割以下にするのは避ける。


「この村の防衛は俺がやるからな。軍を率いたりしないでよいから税を軽くできる。ただし以前にも話した通り、血税……血で税を払ってもらう」


 俺がそう告げた瞬間、村人たちはガヤガヤと叫び始めた。


「や、やっぱりオラたちを吸い殺す気だべ!」

「吸血鬼に血を吸われたら死んじまう……」

「だが領主に従っても飢え死にだ……」

「落ち着け。お前たちから血を採るのは、噛むのではなくてこれを使う。イーリ、ちょっと来てくれ」


 懐から注射器を取り出して村人たちに見せつけた後、近くで立っていたイーリを呼び寄せる。


「ん」


 するとイーリは服のそでをまくって、白い腕を俺に差し出してくる。呼んだ意図を理解してくれているようで何より。


 俺は彼女の腕に注射の針を刺して、血を吸い上げて行く。容器に血が最大まで入ったところで針を抜いて、注射器を村人に見せつける。


「ひとまずはこの血の量を週に一度だ。この15mlの血がお前たちが払う税の代わりとなる! 難しく考える必要はない。作物の代わりに血を差し出すだけだ! そうすればこの俺が村を守ってやる」

「い、イーリ。大丈夫なのか……?」

「ん」


 村長の問いに対してイーリは親指を立てる。 


 残念ながら俺は医者ではないので、採る血の量は今後の村人の体調次第で変えて行く。余裕がありそうならもっと採るし、ダメそうなら減らしていくしかない。


 なお採った血は樽にでもつめておく。衛生状態? 血魔法で凝固させれば腐らないから大丈夫だ。それにこの血を飲むのは吸血鬼なんだから多少腐ってても大丈夫だろ、たぶん。


 それと針については血魔法でコーティングしている。というかぶっちゃけると血を操って針の形にして吸血できるので、注射器自体必要なかったりする。器具で血を採った方が安心できるだろうと使ってるだけだ。


 これからは血を定期的に採ることを考えると、なるべく村人に肉を食べさせた方がよいかもな。俺が今後も狩りにいくか。


「あ、あれくらいの血で税が安くなるならいいんじゃないか……?」

「領主に従って飢えに苦しむよりも、血で払えるならその方が……」


 村人たちは注射器を見て少し安心している。


 やはり採られる血の量が可視化されているのは大きい。ぶっちゃけるとこの世界の徴税は雑だ、耕作する土地の広さで税が決まるがその測り方は歩数である。


 つまり徴税官の主観で変わってしまうし、賄賂なども横行しまくっている。それに比べれば俺の血税は分かりやすいし、透明性があると言ってよい。血は真っ赤で濁ってるけど。


 この血税システムをうまく広めれば、吸血鬼と人間の共生は可能なはずだ。牛と人間だって被食者と捕食者だけど、一応は一緒に住めてるからな。家畜の関係ではダメだが。


 いずれは吸血鬼を多く村に招き入れて吸血鬼軍とか編成したい。弱点つかれなければかなり強そうだ。


「わ、わかりました……血税もお支払いしますので、どうか村をお守りください」

「契約成立だな。ではまずは先日渡したジャガイモをしっかりと育てろ。他にはそうだな、何か金を稼げそうなことはないか? 貨幣獲得手段がないとな」


 税として徴収した作物は迂闊に金に換えられない。


 非常用の備蓄も必要だし、村人を労働力として使う時にも使う。つまり他の手段で持続的に金を儲ける必要がある。俺が強い魔物を討伐して、街で売りさばくのもアリだが……村が大きくなれば回らなくなるだろう。


 やはり特産品とか欲しいよな。ジャガイモはどこでも育てられるからダメだ。外で売ったらすぐに他でも広まって売れなくなる。


 盗賊から奪った財宝を元手にしてこの村の特産品を用意したいところだ。もちろん地球の植物の種を召喚して育てるが、それとは別に何かあればいいのだが。


「い、一応なのですが。実はこの村の近くの山に金があるのではと噂されております」

「金山? なんでそんなものが放置されているんだ?」


 金山なんてあるなら領主が目の色を変えて開発するはずだ。それこそこの村はもっと潤っているに決まっている。


「あの山は強い魔物が大量に出没するので、とても人が入れる場所ではないんでさぁ。それにあくまで噂でありまして、この山の下にある川で金が採れたことがあるって死んだじっさまが言ってまして……」

「こらっ! ほぼ伝説に近い話じゃろうが! 申し訳ありませぬ。信ぴょう性が皆無というか、半分はワシらの願望交じりの噂なのですじゃ……その川も魔物が多くて、とても人が行ける場所ではないのです」


 元村長が必死に頭を下げてくる。


「人が行ける場所ではないのに、どうやってそのじっさまは川に行けたんだ?」

「わかりませぬ……この村の長老であるワシが子供の頃の話なので……」


 元村長は嘘を言っているようには見えない。本当に金山のことについては情報がないのだろう。いずれ時間ができたら捜索してみてもよいかもしれないな。


 それよりもまずは金策だ。俺に儲けの案があるので、そちらを実行していくとするか。

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