第6話 金策には盗賊を


「おい! 早く撤収準備しろ!」


 とある洞窟の中、村を襲った盗賊たちが必死に旅支度をしていた。


 彼らは全員が恐怖に震えている。自慢の親分が吸血鬼に瞬殺されて恐慌状態に陥って、財宝の詰まった宝箱の前で言い争っていた。


「吸血鬼が来たら殺されるぞ! 親分が死んじまったんじゃ俺らに勝ち目はない!」

「わかってる! さっさと宝を持ち出して逃げるぞ! 俺が持つ!」

「はぁ!? こっそり盗る気だろ! 俺が!」

「ざけんな! お前なんか信用できるか!」


 所詮はならずもの集団。


 互いにそこまでの信用がおけずに、誰が貴重品を持つかで言い争いが始まってしまう。


「待て! 争ってる場合か! ここは間をとって俺が運ぶ!」

「「ざけんな!」」


 彼らは気づかない。天井にいるコウモリたちが目を光らせていること。


 いや気づいても無駄だっただろう。どうせ逃げ切れないのだから。すでに吸血鬼は……。


「待たせたな、盗賊たちよ。血だけではなく金を吸いにきたぞ」

「「「「ひ、ひいぃぃぃぃっ!?」」」」



 すでに洞窟に足を踏み入れていたのだから。





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 俺は盗賊たちの悲鳴を一身に浴びていた。奴らは俺と少しでも距離を取るために洞窟の壁へと集まっていくが、行き止まりなので逃げ場はない。


「さて盗賊たち、もう手加減する理由はないぞ」


 腕を組みながら告げる。


 さっきの村では盗賊たちを迂闊に殺せなかった。理由としてはこの本拠を知るため、そして俺が村人に怖がられないためというのがあった。


 考えて欲しい。吸血鬼が盗賊とはいえ人間を殺しまくったら、間違いなく恐怖の対象にされる。そして俺は不殺主義者ではない、盗賊を放っておくほうが問題と思っている。


 あ、でも捕縛して売れば金になるか? 鉱山奴隷とかで……いや売り先がないな。


「イーリ、少し外に出ていた方がいいぞ。今から盗賊が死んでいく。あまり気分の良い光景ではないからな」

「気にしない。私は平気だから」


 イーリは澄ました顔のままだ。本人が気にしないなら無理に追い出すこともないか。


「じゃあ改めてと。安心しろ、せめて一撃で葬ってやる」


 俺は手刀を作りながら宣言して歩いていく。

 

 盗賊たちは後ずさりしようとするが、もう下がる場所がない。


「く、くそっ! やったらぁ!」


 盗賊のひとりが剣を持って俺に襲い掛かって来た。振るってきた剣に対して、俺も手刀で応戦する。剣の方が半ばからへし折れた。


「う、そ……」


 攻撃してきた盗賊の首を手刀ではねて、残りの盗賊たちに視線を向けた。


 まだ三十人以上残っているのでひとりひとりは面倒だな。ここは魔法で一掃するか。


「ま、待ってくれ! 降伏するから助けてくれ!」

「仕方なかったんだ! 俺達も元々は食うに困って盗賊になって!」


 命乞いをし始める盗賊たち。俺が吸血鬼と知っているだろうに、パニックになって頭がおかしくなっているようだ。


 とはいえ遠慮するつもりはない。


「仮にそうだったなら、せめて食料を奪う程度にとどめるべきだったな。あそこまで村を蹂躙した後では嘘にしか聞こえない。命を穢せ、血よ」


 首無し死体から流れ出た血が蠢いて、盗賊たちの足もとに移動していく。彼らの踏んでいる地面がどす黒い血だまりになった。そして血が触手のように伸びて、盗賊たちの足から身体へとまとわりついていく。


「ひ、ひっ!?」

「やめっ、たすけっ!?」


 盗賊たちは助けを求めるように手を伸ばしてくるが、背を向けて返答することにした。


「お前たちが村の人に慈悲を与えていれば考えたがな」

「ち、ちくしょう! てめぇなんて吸血鬼狩りギルドに殺されおおおおぉぉぉぉ……」

「ああああぁぁぁぁぁっぁ……」


 盗賊たちは血の触手に全身を包帯のように巻かれて倒れた。この血の触手は身体を壊死させるのですでに死んでいる。こいつらの血は……非常食かな、不衛生でマズそうだし。


 生かしておくことも考えたが養える食料もないし、逃がすわけにもいかない。他の村を襲うだけだ。


 イーリは盗賊たちに近寄って観察した後、俺をまじまじと見つめてきた。


「冷血鬼」

「人を冷血漢みたいに言うんじゃない。吸血鬼の血が温かかったらむしろ違和感ないか? ほら低温動物っぽいだろ? それに地味に傷つくんだぞ俺も」

「確かに。冷血鬼は冗談」


 ……この少女、真顔で話してくるから全く感情が読めないな。


「ところで何でたまに偉そうな口調をしているの?」

「こちらの方が似合うだろ? ほら吸血鬼的に」


 普通なら俺はもう少し腰が低いが、ペコペコする吸血鬼などおかしいからな。村の人に受けていれてもらうにしても、必要以上に低姿勢だと逆に怪しまれるわけで。


「似合わない。無理しても無駄。滑稽であざ笑いそうになる」

「失礼な。親しき仲にも礼儀ありだぞ。いや知り合って間もないけど」

「失してない。私には最初からないから」

「……無礼者だと言いたいのか?」


 コクコクと頷くイーリ。


 相変わらずこの少女はつかみどころがない……というか無礼者って名乗るのはどうなのか。無頼者なら分かるが。


「はぁ……もういい。村に帰って早速統治を開始する」

「なにするの?」

「色々と考えている。まずは食料状況の改善を……む?」


 洞窟の外から妙な気配がした。

 

 目を凝らすと遠い上空にカラスが飛んでいる。


 吸血鬼となった俺ならばあれが普通の鳥ではないとわかる。あれは使い魔だ、何者かが使役した。


 カラスは森の中へと降下していった。あれではもう追いかけられないか、他のカラスと紛れられたら探すのは厳しい。きっと使い魔の主に情報を伝えに向かったのだろう。


「どうしたの?」

「いや何でもない。村に帰るか」


 俺達は宝箱を回収して村に戻るのだった。


 宝箱は金銀財宝ザクザクとはいかないが、上等な剣や金貨銀貨が入っているのでそれなりの値段にはなるだろう。



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 平野に立つ少女に対して、カラスがバサバサとその腕に降り立った。


 足もとには首を刎ねられた人間、いや吸血鬼の死体が転がっている。


「かー、かー」

「……見つかったのね、次の獲物が。なら一度街に戻って態勢を立て直しましょう」


 少女は全身に銀の鎧を纏っていた。鉄よりも高価で柔らかく、本来なら鎧にする意味のない金属。丈夫でもなければ修繕にも高い費用がかかる。


 ただしとある状況にのみ極めて有用である。は銀を触ると大やけどして苦しむため、銀鎧を纏えば大半の吸血鬼を一方的になぶれる。


 少女は腰まで伸ばした赤髪を揺らしながら、カラスがやってきた方向を睨んだ。


「吸血鬼は許さない。私が絶滅させてやる……!」


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投稿初日の結果だけで、異世界ファンタジー週間ランキング113位入ってて驚きました!

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