第3話 村を救いまして


 親玉を失った盗賊たちは無様に逃げ出していった。


 およそ十人ほど気絶させたので残りの四十人は逃亡したことになる。ちなみにだがあえて追いかけなかった。まずは怪我人の治療、その後は燃えている家を消火しないとな。


「あ、あのう……貴方様は……」


 杖をついた老人がこちらに恐る恐る近づいていく。おそらく村長だろう。 


「私が連れてきた。森の奥にいると噂されてた吸血鬼」

「ひっ……や、やはりあの……」


 青い髪に眼帯をつけた少女が前に出てくる。実は俺も先ほど出会ったところなので、少女の名前すら知らないのだが。


「話は後だ。まずは怪我人を治してやるから、怪我が酷い者から教えてくれ」

「し、しかし……」


 老人は俺を警戒している。それは当然なのは分かるが、怪我人は早く治さないとマズイ。ここは無理やりでも急がせるか。


「……逆らうならこの場で暴れても構わないぞ」

「は、はへっ! こ、こちらにございます!」


 村長に連れられて向かった先には、腹の大きな切り傷から血を吹き出している子供が倒れていた。母親がその子を必死に助けようとして、衣服を切り裂いて傷に巻こうとしている。


 だが応急処置にもならない。このまま放置すれば出血多量で死ぬが俺には助ける手段がある。


「悪いが俺は神聖魔法は使えない。少し荒っぽい回復方法になるが……血よ、凝固せよ」


 俺が魔法を唱えると倒れた子供の切り傷の血が、ゴポゴポと固まり始めた。そして巨大なかさぶたとなる。


 吸血鬼は人を直接癒す魔法は使えない、だが血のプロフェッショナルだけあって血を操れる。なので血を固めてこれ以上の出血を防ぐことは可能だ。


「あ、ああ……ありがとうございます……!」


 母親が俺の方に感謝を向けてきたので手で制した。大きな傷跡が残ってしまうだろうが、死ぬよりはマシなので勘弁して欲しい。


「他にも案内しろ。全員助けてやる」

「は、はいっ!」

「ど、どうか! 夫を助けてください!」

「お父さんをお願いします!」


 更に怪我人たちの血を固めていき、無事に全員を助けることができた。


「ありがとうございます……!」

「助かりました……」

「気にするな」


 村人たちはおっかなビックリとした様子で、俺に感謝の言葉を述べてくるのを今度は言葉で制した。


 次にやることは消火だ。ほとんど時間は経っていないので、また民家は燃え続けている。


「今から燃えている家を壊すが構わないな? 無事な家まで燃え広がりかねない」

「そ、それは構いませんが……壊すと言ってもどうするつもりで? 燃えてるのですが」

「人が火を消す方法ならいくつかあるだろう」


 俺は燃えている民家の前まで歩く。すでに火だるま状態なのもあって、家具なども完全に炭だろうから遠慮なくやるか。


「すーーーーーーー」


 俺は大きく息を吸った後。


「はーーーーーーー!」


 吐いた。


 凄まじい突風によって家が吹き飛び、火も一瞬で掻き消える。気分は誕生日ケーキのロウソクだな。


「すげぇ……」

「やべぇ……」

「いやさらっと流してるけど、あれ人じゃ無理だろ……」


 村人たちはわいわいと騒ぎ始めた。盗賊たちが逃げたのと怪我人が治ったことで、ようやく冷静になり始めたのだろう。


 それに周囲が明るくなり始めている。どうやら日が昇り始めたようだ。


「ありがとう、吸血鬼」


 俺に助けを求めてきた青髪の少女がペコリと頭を下げてきた。


「気にするな、俺も考えがあって助けたことだ」

「考え?」

「そうだ。村長、この村は領主に見捨てられたのではないか?」


 村長に視線を向ける。


 こんな大規模な盗賊団ならば、村に攻めてくる前に存在を察知できたはずだ。なら領主に事前に知らせておいて、攻められる前に討伐をお願いすべきだ。なのにこの始末なのだから。


 それに先ほど村で盗賊が『この村を好きに襲っていい代わりに、その後は領地から出て行く約束』と叫んでいた。


「……領主様に討伐をお願いしたが、無視されましたのじゃ」


 村長は苦々しい顔で呟く。やはり事前に察知していたか。


「後で捕縛した盗賊に話を聞いてみろ。領主はこの村を見捨てる代わりに、領地から出て行くような約束をしたと叫んでいたぞ」

「……っ。領主様はこの村をお見捨てに……!」


 どうやら心当たりがあるようだ。領主は酷い人物なのだろう、討伐求めても受け入れなかったみたいだしな。


 村からすれば地獄は終わっていないということだ。領主に見捨てられているのだから、もしまた同じことがあれば今度こそ村は壊滅する。


 だが村を捨てて逃げたとしてもまともに暮らせる保証もない。自分の土地を持たない小作人に落ちるか、街に行ってもスラムの民になる可能性が高い。土地を耕してきた村人に街で食って行けるような技術はない。


 破滅の二択を前にしているようなものか。


 この村は放っておいたらすぐに滅ぶ。ならちょうどいいな、俺が三択目を与えてやろう。


「そこでお前たちによい話がある」

「よ、よい話ですと……?」


 村長は後ずさりしながら俺に問うてくる。やはり吸血鬼への恐怖があるのだろう。


 俺が営業スマイルを浮かべるとより顔をひきつらせた。いかん、犬歯のせいで怖がらせてしまう。落ち着け、この村を手に入れたら俺の望みに一歩前進するのだ。


 こんなに俺に都合の良い展開などそうはない。このチャンスを逃すわけにはいかない……!


「この俺が領主の代わりに村を守ってやろう。吸血鬼である俺ならば、領主の兵よりもよほど頼りになるぞ」

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