死にゆく私へ ~ノブレス・オブリージュ~ 6
「いいえ、二人とも。それには及びません。こんな腐った王国はこちらから願い下げ致します。馬鹿な王太子と尻の軽い男爵令嬢、誰の子か分らない者が嫡子となり王国を継げばよろしいかと存じます。それでは失礼します。」
クロードは、立ち去りかけて足をとめた。
「あっ、私は母から受け継いだ心眼と邪眼の両目と神器を持っております。無駄な抵抗はお控え下さい。まぁ今ここで、殲滅しても構いはしませんけど。」
と言って改めて一礼をして、会場を後にした。
パーティーの様子はクリマ水晶を通して、全国に流れておりメリッサ嬢への同情の声が沸き、王族貴族への批判の声が響いた。
クロードは側近の数人だけを従えて、馬を走らせた。
隣国ブルー二ティ帝国から公爵として受け入れられる手筈は、整っていた。
ブルーニティには、以前留学をしていた時に親友となった皇太子がいる。
クロードが自ら国を裏切るのだ。ブルーニティからすれば、迎え入れる事は当然の事であった。
噂に高い政治手腕。高い魔力とその両の目、神器の後継者。何より国交流により、重ねて来た信頼。
ブルーニティでなくても、喉から手が出る人材である。
宿も休憩も取らずに、馬を走らせ続けた。もう少しで辿り着く、私の新しい人生に。
ブルーニティの治める領土に入り、予め準備をしていた邸宅へと着いた。息を飲みながら、扉に手を伸ばす。
静かに扉が開かれると、待ち構えていた侍女達が迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。ご無事でいらっしゃいます。」
侍女の視線の先を辿ると・・・そこには、メリッサの姿があった。
数ヶ月間に渡り、クリマ水晶で母国の様子を窺った。
男爵令嬢は、家族連座で死罪になった。国民中の非難を浴びながら。
国王とエロールは、毎日貴族達から糾弾されている。王国一番の魔力の持ち主である私と神器を失った事。その前にはエロールの真実の愛など、大したことは無かった。
王族の権威は失墜し、失態がクリマ水晶で全国に流された今、エロールが婚姻を結ぶことは不可能であろう。
もちろん、貴族達も無事では済まされない。国民が蜂起し、領土の方々で内乱が起こっている。
メリッサの愛した善良な国民を救う為に、陰ながら支援する事にした。
「王族が倒される日も、近いな。」
クロードは吐き捨てる様に言って、クリマ水晶の通信を切った。
あの日死罪のメリッサに飲ませたのは、仮死状態になり、副作用で記憶を失う特別に調合させた薬だ。
メリッサを諦め切れなかった私は、母国と家族を捨てた。
記憶の無いメリッサには、私達は幼友達で高熱により倒れて記憶を失ったと説明をした。
共に両親を亡くし、2人で生きて来たのだと。
私は助けて貰った、ブルーニティ皇太子殿下の片腕として皇帝宮に勤めている。
今のところ、両目は封印しているが・・・魔力と神器の後継者として毎日忙しくやっている。
メリッサに日常生活の不便は無く、一生懸命に修得した貴族のマナーや3カ国語も記憶にある。
母国で起こった事だけが記憶にない。
ブルーニティに移住してきて1年・・・
この国での社交界からも受け入れられ、最近はメリッサの笑顔も見られる様になった。
だから、今日から2人の楽しい思い出を作る。
いつの日か、私がプロポーズをした時に・・・私の愛を受け入れてくれる事を願いながら。
= = 完 = =
死にゆく私へ ~ノブレス・オブリージュ~ 七西 誠 @macott
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