死にゆく私へ ~ノブレス・オブリージュ~ 5
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死にゆく私へ~
私はこの王国の由緒ある大貴族の娘でございます。
貴族の娘に産まれた私の婚姻とは、義務です。王太子殿下との婚約が結ばれた私は
別の方に芽生えた淡い恋心を殺して、王太子妃の教育を受け続けたのです。
愛などを求めてはいけない・・・それは、母国のため。国民のためです。
義務の為の婚約・・・私は王政のお役に、国民のお役に立てるように勉学に励みました。
殿下は、勉学をさぼり、国民の事を露程も考えない、恋愛に溺れて貴族のマナーすら守れない。
何回もお諫め致しましたが、私の事を疎ましく思っていた様です。
そんなエロール殿下の事をお慕いしてはおりません。嫉妬心など芽生えましょうか?
貴族とは王族を支え、国民を守る事を第一とし
王族とは貴族との信頼関係を築き国の繁栄を有事とする。
それが私の考える王族と貴族の在り方だと存じております。
しかし、現状は貴族は派閥を作り私腹を肥やす事だけを考え、王族はその血筋に胡座をかき努力を怠り国政を疎かにする・・・
そしてエロール殿下は今まさに、私を冤罪に落とし入れようとしています。
国王陛下は息子可愛さに見て見ぬ振りをし、公爵である父は敵対する派閥を追い込む事で頭が一杯の様です。
生きて言葉を発しても、誰も私の声に耳を傾けたりはしないでしょう。
王族に、敵対派閥の貴族に、父に。私の声は、闇に葬られてしまいます。
私は死罪を受け入れる事でしか、この国を正しい方向に導く術を持ち合わせてはいません。
どうか私を死罪にして下さい。
そして私の死後に、この手紙を公開して下さい。
死を持って訴える。そうする事で国民にも声が届き、少しは人々が耳を傾けて下さると信じます。
このような方法でしか、貴族の義務を果たせない私を、どうかお許しください。
国民の幸せを心から祈らせて頂きます。
メリッサ·クラウディン
※※※
クロードは震える肩と声を、抑制しつつ手紙を読み終えた。
「メリッサ嬢は、自分の命より貴族の義務を優先させたのです。」
国王は半ば諦めたように息をつき、その場を取り繕う。
「・・・事情は分かった。公爵に詫びメリッサへの罪状を取り下げ、名誉を回復しよう。エロールは廃嫡し、そなたを王太子とする。クロードよ、これでよいか?」
見棄てられそうになったエロールが、慌て口を出す。
「父上、私もこの女に騙されていたのです。」そう言いながら、ミーナを突き飛ばした。
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