33 悪魔討伐:対策の対策
自分自身を焼く。
無茶苦茶な作戦だ。だが悪魔はそれをやった。
即死さえしなければ、本来は致命傷であるような傷さえ、たちどころに再生する肉体なのだから、自分を燃やすことによる火傷など踏み倒せる道理だ。
だが、だとしてもアルテミシアは、悪魔がここまでするとは思わなかった。あの宇宙一自己中心男が自分を損なうような真似をしたのを、意外に思うほどだった。
破れかぶれにならざるを得ない、余程の何かが起こったのだろうか。
「消し飛べぇ!」
燃えさかる悪魔が、今度は爆発の魔法を使う!
レベッカは大斧を盾にするように構えてアルテミシアの前に立ち、アルテミシアは頭を抱えて伏せた。
だがその魔法は、アルテミシアを狙ったものではなかった。
掘り下げたクレーター状の空間に満ちていたポーションが、爆発によって、溢れて吹き飛ぶ。
この場に充満するポーションは、ガスではなく、あくまで噴霧されたものなので引火こそしなかったが、それを薄れさせるには充分だった。
「らあああああっ!」
魔法を打つとほぼ同時。
もはや人型をして鎧を着た炎の塊としか見えないものが、猛進した。
一度はレベッカの大斧にやられているというのに、自ら距離を詰めたのだ。
もちろんレベッカは、逃げない。逃げればアルテミシアが死ぬ。
炎に巻かれようとも、それで怯みはしないだろう。
だが問題は……彼女の斧が力を失っていると知れたら、その時点で悪魔が自由に動けるようになる事だった。
「猪口才!」
レベッカは左手に持っていた鉤爪を投じる。
当てれば力を失っていることがバレるから、敢えて狙いをずらし、回避させることで足並みを乱すのが狙いだ。
だが、悪魔は避けない!
むしろ自ら左腕を差しだし、鉤爪を食らいつかせた。
この防具で魔力吸収効果を防げると思っているのだ!
「こんな物ぉ!」
「くっ……」
そして悪魔は、鉤爪に繋がる鎖を掴み、引き千切る!
頑丈なはずの白銀色の鎖は、軋み、砕けた。
「ヒャハハハハ!
てめえの切り札もここまでだ!」
鎧に食いついた鉤爪を引き剥がし、かなぐり捨てて悪魔は笑った。
元からブラフだが、これでもうブラフさえ通じない。
「次はてめえらがこう……ぐはっ!?」
勝ち誇る悪魔目がけ、一撃!
少しでも脆い、鎧の関節を正確に狙った光の矢が、悪魔の左前腕を鎧ごと吹き飛ばしたのだ。
アリアンナの狙撃だ。
だが、吹き飛んだ左腕はすぐに生えてきた。
「ド畜生! コソコソしやがって!」
「あっ!」
悪魔はもはや、レベッカすら脅威と思っていない様子で、背を向けて駆けだした。
光の盾を繰り出して、続く射撃を防ぎつつ、定置魔弓を仕掛けた鐘撞き塔へ。
『し損じたか!
「待って!」
「無理だわ、あのままじゃ効かない。
毒が効かなかったのは吹き飛ばされたからじゃないわ。
毒の侵入より、肉体を焼き潰しては再生する速度の方が早いから効いてないんだと思う。意図しての対策かは分からないけど……」
レベッカはこれまでも、経験に裏打ちされた観察と判断によって、悪魔の性質を分析している。
彼女の分析はおそらく妥当なのだろうと思われ、だとしたら最悪の形で双方の策が咬み合ったと言うべきだろう。
悪魔が自ら火だるまになったのは、昼間の戦いで冒険者たちがやったように捕らえようとしてくる相手や、レベッカとの近接戦闘に備え、近づく者を焼き払う苦肉の策だろう。
それがよりによって、ポーションによる毒霧を防いでしまった。
『では……この作戦はここまでか……後は被害を抑えつつ疲弊させ、追い返すと……』
ほぞを噛むセドリックの無念の表情が、声だけで思い浮かんだ。
元より、悪魔討伐は綱渡りのような策だった。
それが失敗したなら真っ当に戦って真っ当に追い払うという事になる。
ほぼ不死身である悪魔を相手に、命を浪費するような戦いをして、魔力やアイテムを使い切らせ、継戦不可能な状態にして、追い払う。
問題を先送りするだけだが、それしかできない……
「いいえ、将軍。わたしは今から、もうひとつ策を用意できます」
『何?』
そんな悲しい戦いをしなくても良いのだと、アルテミシアは気付いた。
元々この世界についての知識を持たなかったアルテミシアは、この世界で人が何をやれるのか分からない。
だが、見るもの全てを吸収し続け、今、最後のピースがもたらされた。よりによって、あの悪魔によって。
勝てると分かった。
後は思いついた作戦に、自分の知識の及ばない落とし穴が無いか、プロの視点で確認してもらえばいい。
「軍医長様に替わってもらえますか?」
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