第70話 勇者の孫 姉妹丼計画を発動する
魔導術瀬術7日目
全10日の日程で行う予定の魔導術の施術も半分以上の工程が終わり、玲と楓の魔力もベテランの二つ星探索者クラスにまで増加した。
当人たちもその実感があり、7日目からは再び18階層でゴブリンとの戦闘を再開することになった。
「ウィザードとアーチャーは私がやるよ!」
6体のゴブリンの集団に遭遇すると楓がファイアーボールの杖と氷魔法の杖を両腕に構え、ゴブリンアーチャーへファイアーボール《火球》を、ゴブリンウィザードにはアイススピア《氷槍》を同時に放つ。
「任せた! ハァァァァ!」
楓の援護射撃の声に玲は、高速で左右に大きくステップを踏みながら錆びた剣と棍棒を持つ4匹のゴブリンへと距離を詰める。
玲へとアーチャーとウィザードから矢と火球が飛んでくるが当たらない。それどころか味方のゴブリンに当たる始末だ。それほど玲の身体能力は魔力の増加により向上していた。
そんな同士討ちをしたゴブリンアーチャーとウィザードに楓の魔法が着弾し、ゴブリンアーチャーは一瞬で炎に包まれウィザードもその身を氷の槍によって貫かれる。
「やったぁ! 兄さんの援護なしで初めてウィザードを倒せた!」
「ふふっ、そうだな。最初は力に振り回されたが、なんとか使いこなすことができそうだ」
初めて18階層のウィザード入りのゴブリン集団を二人で倒せたことに、楓は飛び跳ねて喜ぶ。そして玲も最後のゴブリンを斬り伏せたあと振り返り妹へと笑みを向ける。
「お疲れさん。もう二つ星ダンジョンの魔物は問題なさそうだね」
そんな喜ぶ二人に後方で見守っていたユウトが拍手をしながら近づく。
「まだまだだよ。兄さんと一緒にダンジョンに潜るなら1グループ倒せただけじゃね」
「そうだな。3グループ同時というのもあったしな」
楓と玲は昼に十字路で3方向から襲いかかって来たゴブリンの集団を思い出し、揃って難しい顔を浮かべる。
二人はユウトさえいなければ、二つ星ダンジョンの下層の魔物と戦うのに問題ない力を得た。しかしユウトがいることによって、複数のゴブリンの集団とエンカウントすることが度々あることから油断できないのだ。
ユウトがいなければここまで力をつけることはできなかったが、ユウトがいることによりダンジョン攻略の難易度が上がってしまう。痛し痒しである。
「あはは、まあそこはより多くの魔素を取り込めるようになったということで。学園の友達も夏休みの終わり頃に合流するんだろ? 人数が増えれば楽になるよ」
「それもそうだね。今はお姉ちゃんと二人だけだけど、アリアと紫乃が合流すれば確かに楽になるかも」
「そうだな。アリアたちも私たちがキャリーすればすぐに魔力が増えるだろうしな。今度は私たちだけの実力で一つ星ダンジョンを攻略しよう」
「うん! 楽しみだなぁ」
玲たちはアリアたちと合流したら、ユウトにしてもらったように彼女たちを援護し成長を加速させるつもりのようだ。
「ほんと楽しみだな」
しかしユウトだけは二人とは違う意味で楽しみにしていた。
(スマホで撮った写真を見せてもらったけど、アリアちゃんはちょっとふっくらしてはいたけど少し痩せれば癒し系グラマー美少女になれる可能性を感じた。紫乃ちゃんも胸が残念だったけど顔は可愛かった。二人の魔力が増えれば、当然ポーターの俺が処理する責任があるわけで……)
「あ、兄さんが真剣な顔で考え事をしてる」
「アレはエロい事を考えている時の顔だな」
「え? ち、違うって! そ、そうそう! どうやってアリアちゃんたちを育成しようかと考えていてさ!」
ユウトは思考が読まれたことに動揺し適当な言い訳を口にする。楓も玲も男が真剣な表情で考え事をしている時は、大抵がエロいことを考えているということをユウトで学習したようだ。
「ほんとかなぁ、兄さんのことだからアリアたちともえっちなことをしたいとか考えてたんじゃないかな」
「あり得るな。アリアたち大丈夫だとは思うが、一応注意するように言っておかねば」
友人の恋人に手を出すような二人ではないと玲は思っているが、ユウトには不思議な魅力があることから一応注意を呼びかけるつもりのようだ。
そんな不思議な魅力などユウトにはなく、全て魔導術と催淫の魔法の影響なのだが。
「まああの二人が兄さんに本気になることはないとは思うけど、兄さんだしね。一応注意喚起は必要だね」
「ちょ、二人とも酷くないか? 俺は二人にベタ惚れしてるってのに」
あんまりな評価にユウトは反論する。
「二人にってとこでもうね」
「そうだな。三人もあり得ると思ってしまうな。なんと言っても一夫多妻の世界から来た男だしなユウトは」
が、あっさりと返り討ちに遭う。
「うぐっ……じゃあ今夜俺がどれだけ二人が好きなのか証明してみせるよ。二人一緒にね」
そしてちゃっかりと姉妹丼へと持っていこうとする。本当にどうしようもないエロ猿である。
「え? お姉ちゃんと!?」
ユウトの言葉に楓は恥ずかしがりながらも、若干だがその目に好奇心の色が見える。姉の乱れた姿を見てみたいのかもしれない。
「か、楓と!? む、無理だ! 恥ずかしくて死んでしまう!」
しかし玲は顔を真っ赤にして拒絶する。エッチの最中にユウトに甘え、そして求めている自分の姿を思い出したのだろう。
「ははっ、冗談だよ」
ユウトは楓の感触が良かったことから一旦この場は引くことにした。
やり方はいくらでもある。二人の魔石も育って来たことから、時間短縮のために魔導術を二人同時に掛けると提案すればいいのだ。そうすればなし崩し的に姉妹丼へと持っていけそうだとユウトは考えた。
「もうっ、ほんと兄さんはえっちなんだから」
「まったくだ。昨日も私に恥ずかしい格好で……その……お、おねだりなどさせるし」
「あれ? お姉ちゃんはそっち?」
「ん? どういう意味だ?」
「う、ううん。なんでもない」
楓はユウトにおねだりさせている自分とは真逆の姉の言動に驚きつつも、やっぱり一度姉の乱れた姿を見てみたいと思うのだった。
「あっ、ほら! 次の獲物が来たぞ! 次は2グループだ! やれるか?」
ユウトは楓の言葉責めに興奮しおねだりをしている事をバラされたくなかったのか、慌てて魔物が接近している事を二人へと告げる。祖父による英才教育のおかげで、ユウトはSもMもどっちでも興奮できる男なのだ。
「うんっ! お姉ちゃんやろう!」
「ああ!」
ユウトの言葉に二人は杖と剣を構え魔物を待ち構えるのだった。
一方、ユウトたちが探索している方向とは逆の場所で、太田が在籍するパーティ『ウィンクルム』も18階層を探索をしていた。
「妙だな……」
パーティの中央で全身鎧タイプのパワードスーツを身に纏い、手には大楯を持ちチタン製のバックパックを背負っている太田が呟く。
「確かに妙ね……」
すると同じく中央で杖を手に持ちながら周囲を警戒していたサブリーダーの綾子も、眼鏡の端ををクイっと持ち上げながら太田に同意する。
「ねえねえ、全然ゴブリンと遭遇しないんだけど?」
そんな二人に先頭を歩いていたリーダーの由美が、振り向きながらそう声を掛ける。
「ほらっ! 俺が言った通りじゃないっスか! チャンスっスよ! 今の内に一気に進みましょうっス!」
太田の後ろを歩いていた酒田が、ほれ見たことかと。今のうちに進めるだけ進もうと提案する。酒田は今朝、女性陣からさんざん搾り取られフラつく身体で安全地帯から偵察に出た。そしてゴブリンの姿が進行方向になかったことを皆に報告したのだが、前日にあれだけいたゴブリンがいなくなるはずがないと信用してもらえなかったのだ。
「大変動の予兆……なはずがないか。魔物が逃げ回るならともかく、いなくなるというのは聞いたことがないしな」
意気揚々と叫ぶ酒田の肩を太田は疑って悪かったなと軽く叩いて宥め、隣を歩く綾子に話しかける。
「恐らくだけど、昨日固まっていたゴブリンたちが別の場所に移動したんじゃないかしら?」
「ああ、その可能性もあるか」
綾子の考察に太田は頷く。固まっていたのは確かなのだから、そのまま別の場所に移動したことでたまたま自分たちが進む方向からいなくなったのなら納得ができる。
実際はユウトたちが、太田たちがいる位置から離れるように移動しているからなのだが。その結果ゴブリンたちはより高密度の魔力を持つユウトに向かうことになり、太田たちの進行方向からいなくなっただけの話である。
「じゃあ裕司君の言う通り今のうちに進んじゃおう! 遅れを取り戻せるかも」
由美がチャンスだとばかりに酒田の提案通り、どんどん進む事を決定する。
由美は昨夜、綾子やほかのメンバー2人と一緒に太田に奉仕をしてもらったので元気いっぱいだ。
対照的に太田と酒田の顔はゲッソリとしているが。
「そうだな、じゃあ早足で行けるとこまで行こう」
太田は恋人の由美の決定に従い、パワードスーツの出力を上げ駆け出す。
その後ろを酒田と仲間たちが周囲を警戒しつつ続くのだった。
それから19階層につながる階段まで数回ほどゴブリンと遭遇するだけで、太田たちは19階層へと辿り着くことができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます