第66話 目撃
4日目の夜。
おぼつかない足取りで、そしてどこか内股気味に部屋を出ていく楓の後ろ姿を見送ったユウト。その表情には疲れが浮かびつつも、どこか嬉しそうでもあった。
(玲も楓もかなり魔力が増えてきた。そのせいか施術中にムラムラしている感じだった。その証拠に……)
ユウトは先ほどまで楓が横になっていたベッドのシーツに手を伸ばす。すると明らかに下半身があった部分だけ湿り気が強かった。汗ではないだろう。魔導エアコンはガンガンにつけているので、部屋の中は寒いくらいだ。でも玲と楓の身体は熱かったし、そしてシーツも湿っている。
(最終日近くに二人とも欲求不満になると思っていた。そこからは賭けだと思っていたが、想像よりずっと早かったな。魔力はまだ予定の半分くらいなんだけどな。思春期だからか? まあ俺も10大半ばの時は四六時中欲情していたしな)
今もである。そして玲と楓が欲情しているのはユウトの催淫の魔法の効果が積み重なってきたからである。
だがユウトはその事を知らない。あくまでも魔力が増えたことで二人がエッチな気分になっていると思っている。そして二人が思春期だから、ダンジョンで会ったあのポーターの男が言っていたよりも早い段階で効果が出ているのだろうと。そう思っているようだ。
ユウトは濡れたシーツを触った手の匂いを嗅ごうと顔に近づける。しかしその時、ベッドの脇から声が掛かる。
「ご主人様、よろしいですか?」
「うおっ、カミラ。あ、ああそうだったな、次はカミラを施術するんだった」
ユウトはカミラに施術する約束をしたことを思い出し、嗅ごうとした手を少し躊躇いつつも顔から離した。
「ではよろしくお願いいたします」
カミラはそう言うと清浄のネックレスをシーツの上に置いて魔力を流す。するとベッド全体とユウトの身体が緑色に薄っすらと光り、その光が収まると湿っていたシーツも濡れていたユウトの手もサラサラとなり水分も匂いも汚れもすべてが取り除かれた。
「あ……」
ユウトはきれいになってしまった手とシーツをもったいなさそうな目で見るが、すぐにカミラが全裸となりユウトの横へと寝そべったことでそっちに思考を奪われる。
何度見ても綺麗な身体だ。さすが俺の理想の体型と顔だなどとユウトが考えていると、カミラが無言で見つめてきていることに気付き彼女に横向きになるように言う。
そしてユウトは賢者の石を取り出し、カミラを後ろから抱きしめながら魔導術の施術を開始した。今回は腰を引いてはいない。元気なままの勇者のひ孫はカミラの大きなお尻に当たっているが、特にカミラは気にすることもなくむしろ足を開いて太ももで挟んだ。
「おふっ」
ユウトは柔らかい太ももに息子を挟まれたことに思わず声を上げてしまう。このまま1回だけしようかとも考えたが、それで終わるはずがないと思ったユウトはグッと堪え先に施術を終わらせてしまおうと彼女の体内の魔石に魔力を流す。
すでにSランクの魔石を持っているカミラに流す魔力量の調整は必要ないため、ユウトは遠慮なく大量の魔力を彼女の魔石へ向け流し込む。
魔力の高い者に施術する場合は特に集中力を必要としないため、施術の時間は大幅に短縮することができる。そのぶん消耗する魔力も多いが、ここはダンジョンの中なので一晩寝れば回復するので問題はない。
ユウトに大量の魔力を遠慮なく流されたカミラだが、その身体が突然ビクンと跳ねる。
「どうしたカミラ? もしかして魔力を流しすぎたか?」
「いえ……大丈夫です……私に構わず続けてください」
「お、おう」
ユウトはどこか息苦しそうな、それでいて艶めかしいカミラの声音に勇者のひ孫がさらに元気にさせながら引き続き魔力を流す。
カミラはユウトから流れてくる魔力に全身が熱くなり、自分が興奮しているのを感じていた。
(まさか魔力を流されただけで濡れてしまうとは……乳首も固くなっていますね。これは催淫の魔法で間違いありませんね。私の場合は最初から魔力を大量に流していただいているからというのもありますが、この魔力を少量でも流され続ければ玲様と楓様がああなるのも納得です。しかし今まで行為中に興奮することはあっても、ただ抱きしめられているだけでご主人様に興奮したことはありませんでした。恐らく子種が目的で行為を始めていたからでしょう。これが性欲というものなのですね。新鮮な感覚です)
カミラはSランクの魔族である。インキュバスに魅了を掛けられたとしてもレジスト《抵抗》できてしまう。だから外部的要因で興奮するという経験は初めてだった。そしてその相手がユウトであることに安心し、それと同時に楽しんでいた。
それから30分後。
ユウトは大量の魔力を消費したことに脱力感を覚えつつも、なんとかカミラへの魔導術の施術を終わらせた。
「カミラ終わったぞ。大丈夫か?」
回されたユウトの腕に顔を埋め、肩で息をしているカミラへと声を掛ける。
「終わり……ましたか……では始めましょう」
「え? うぷっ!」
ユウトは背を向けていたカミラが振り向くと同時に激しいキスをしてきたことに驚く。そしてそのまま押し倒され、勇者のひ孫を掴まれ上に跨がられる。
それからかつてないほど激しく求めてくるカミラにユウトは驚きつつも、玲と楓に施術した時からずっと我慢していた熱いパトスを彼女の中へとぶつけ放つのだった。
♢
「んっ……あっ……イッ……ク……んん……くっ……はぁはぁ……ふぅ」
玲は自室のベッドで日課となってしまった自慰を終え、うつ伏せになった状態で枕に顔を埋めた。
(またやってしまった……恐らく楓も今頃は)
玲は毎朝見る楓の疲れた表情と、慰めている最中に感じる感覚で妹も自分と同じ状態であることを感じていた。
双子はテレパシーのようなものでお互いが通じ合うことがあるという。お互いの思考が読めたりすることがたまにあるのだ。ダンジョンでの戦闘中に二人の息のあった連携もそうだし、トランプのババ抜きを玲と楓がするとなかなか勝負がつかないこともその影響だろう。
そして玲は楓が自分と同じ気持ちであることを感じていた。そして楓も同じように自分の気持ちを知っていることも。
「また同じ男を好きになってしまったか」
小学生の時以来だなと。あの時はどっちが告白するか喧嘩した結果、共有することにしたんだったか。
(明るく誰にでも優しい男の子だった。父さんを亡くし、母さんが大怪我をして入院してしまい落ち込んでいた私たちを励ましてくれた。弱っていたんだろうな、そこに優しい言葉を投げかけられコロッといってしまった。結局いじめられているクラスメイトを見て見ぬふりをする臆病者だということがわかり、淡い恋心も冷めてしまったがな。だがあの時感じた胸の高鳴りをユウト感じている。私も、そして楓も)
玲は胸に手を当て未だに高鳴る鼓動を確認する。これは本物だと、現にユウトとエッチなことをすることを想像し、こうして毎晩自分の身体を慰めている。その回数は日を追う毎に増えていっている。
「びしょびしょだな……」
玲は自分の手とショーツに視線を向け、びしょ濡れになっていることに気付く。そしてまだムラムラしている自分の身体にも。
「シャワーでも浴びて頭を冷やすか」
もう3回もしている。このままではまた昨日のように眠れないと思った玲は、ベッドから立ち上がり脱ぎ捨てていたショートパンツを履いた。床にあるブラに視線を向けたが、ユウトももう寝ているだろうと思いそのまま着替えの下着だけ持ってノーブラTシャツの姿で部屋を出る。
そしてリビングを横切り一番奥の大浴場へ向かって歩いていた時だった。
大浴場の手前にあるユウトがいつも使っている小浴場の入口のドアが開いており、そこから光が漏れていることに気付いた。
「ん? ユウト? いや、カミラさんが使っているのか?」
こんな夜中に……と玲は思ったが、自分もこれからシャワーを浴びようとしているのだから人のこと言えないと思い苦笑する。
(しかしカミラさんはいつお風呂に入っているのかと思ったが、こんな夜中に入っていたのか。本当に世話になっているな。せめてもと感謝の印に、背中でも流してあげるべきだな)
そう玲は考えカミラがいるであろう小浴場のドアを開き中へと入る。
中に入ると脱衣所があり、そこに女性の下着が置かれているのを見て玲はやはりカミラが入っているのだと安心した。が、その横に男性の下着。ボクサーパンツとシャツが置いてあるのを見つけ固まった。
(こ、これはユウトの下着……ま、まさか二人でシャワーを!?)
玲はユウトとカミラの下着があることにショックを受けていた。もしかしたらと考えたことはある。しかしまさか本当にメイドが夜の世話までするなどとは思っていなかった。
混乱している玲に、それが真実であるという現実が襲いかかる。
《あっ、あっ、ご主人様、もっとください……もっと激しく突いてください》
《ちょ、声がでかいって! 静かに! 玲たちが起きたらどうすんだよ。ったく、ベッドであんだけしたのに風呂場でもしたいなんて。ずいぶん積極的だな今日は》
(こ、この声は間違いなくカミラさんとユウトの声……しかもこの音……まさか……え、えっちをしているのか?)
浴室から聞こえてくる声に玲は驚くと同時に、浴室へと視線を向けて聞こえてくる二人の話の内容と水気を帯びた肉と肉が激しくぶつかり合う音に顔を赤くした。
すると浴室と脱衣所を隔てる扉が少しだけ開いていることに玲は気付く。
(か、確認しなければ。二人がそういった関係なのか確認を)
玲は自分に確認のためだと言い聞かせ、身を低くしてそっと隙間から浴室の中を覗き込む。
すると玲の目に全裸のカミラが立ったまま壁に手を付きお尻を突き出し、その後ろから同じく全裸のユウトが腰を激しく打ち付けている姿が飛び込んできた。
(あ……やっぱり二人は……す、凄い……これが本物の性行為……なんて野性的な)
玲は好きな人が他の女を抱いていることに少なからずショックを受けた。が、それ以上に初めて生で見る男と女の性行為に目を奪われていた。
(わ、私もユウトにあんな風に……あの太い腕と厚い胸板に抱きしめられながら獣のように激しく……)
催淫の魔法の影響が出ている玲の思考は恋よりも性欲へと傾いていた。
そんな彼女の視線はカミラとユウトから離れず、そしてその手はショートパンツの中へと伸びていた。
それからしばらく脱衣所にくぐもった玲の声が響くのだった。
玲が脱衣所から覗いていることに、腰を振ることに夢中のユウトは気付いていない。しかしカミラだけは気付いていた。それはそうだ、玲の気配を感じ影魔法を使い脱衣所のドアを開けたのも、浴室の扉を開けたのも彼女なのだから。
目論見が上手くいったカミラは、ユウトに背後から突かれながらも薄く笑みを浮かべるのだった。
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作者より
すみません、ユウトの卒業は次話です。
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