第64話 力の対価



 玲は楓にユウトの部屋に行くように伝え、簡単な流れを説明したあと自分の部屋に戻った。


「ふぅ……」


 そして手に持っていたブラを床に放り投げ、ベッドへと寝転び白い天井を見上げた。


(まだ身体が熱い……それに生理前でもないのに……いや、それ以上に悶々とする)


 玲は魔導術を施術された時から火照り続けている身体と、悶々とする気持ちに戸惑っていた。


(ユウトに抱きしめられたから? あの時抱かれたいと思ったのは好きだから? 私がユウトを……そうかもしれない。ユウトにならと思ったのは確かだ。それで好きな男に抱きしめられて、心よりも先に身体が反応した? だからこんなに……)


 玲は自分の胸へと視線を向ける。そこにはTシャツ越しにピンと勃っている自分の乳首がハッキリと見えた。


(ユウトに抱きしめられただけでこんなに……あの太い腕と胸板に……ユウト)


 玲の脳裏に自分を抱きしめていたユウトの腕と胸板の感触が蘇る。


 そして……玲の手は自然とTシャツとキュロットの中へと伸びるのだった。




 玲が悶々とした気持ちで自らの身体を慰めている頃。


「兄さんこれでいいかな?」


「あ、ああ」


(うほぉ! でけえ! 玲がロケットなら楓はメロンだ! 双子なのにこんなにおっぱいの質が違うのは二卵性双生児というのもあるんだろうけど、やっぱ剣を振っていたかいなかったかの差だろうな。こっちのおっぱいもいいなぁ、柔らかそうだなぁ、揉みてえなぁ)


 ブラを外してノーブラTシャツ姿になった楓を見て興奮していた。


 ユウトは楓が部屋にやってきてすぐに、玲に行ったのと同じようにその場でシャツも脱ぐように言おうとした。しかし楓は玲から聞いていたのか、ユウトが声を掛ける前にTシャツを着たままブラを外し始めた。


 ユウトは残念な気持ちにはなったが、ブラを外した途端に下着によって押さえつけられていた楓のおっぱいをTシャツ越しに目の当たりにしてそんな事どうでも良くなった。


「次はベッドに横向きで寝るんだったね……これでいい?」


 楓はベッドで横向きに寝ながらユウトへと確認する。


「そうそう、それじゃあ後ろから抱きしめる感じになるけど、変なことはしないから信用してくれ」


 普段玲と楓の身体をチラチラ見ているくせにどの口が言うのか


「うん」


 しかしユウトのことを明確に好きだと自覚している楓は素直に頷く。多少は触られてもいいと思っているのだろう。好きになる下地があったとはいえ、さすがは10歳以下の親族に禁止されている魔導術である。惚れ薬に近い効果と言えよう。


「じゃあ始めるぞ」


 ユウトは着ていたシャツを脱ぎ、楓の隣に寝ながらシーツをお互いの上にかける。そして楓の背中側のシャツを少し乱暴にめくりあげる。


「ん? あれ? なにか引っ掛かってるのか?」


 しかし楓のおっぱいに引っ掛かってなかなか一番上までシャツを上げることができず、ユウトは身を起こしシーツの中を覗きこみながら何度も上げては下ろしてを繰り返す。


 もちろんわざとである。わざと引っ掛かるような上げ方をして、シーツの中でシャツに引っ掛かって形を変える楓の横乳を上から覗いているのだ。


 本当に、本当にエロ知恵だけは働く男である。


「あっ……兄さん、もっとゆっくり上げて。おっぱいに引っ掛かってるんだ」


「あ、そうだったのか。ごめん」


 楓に言われユウトは今気づいたとばかりに驚いて見せ、彼女の言う通り今度はゆっくりとシャツを捲くり上げた。


 内心で眼福眼福と口ずさみつつユウトは、賢者の石を楓の白い背中に押し当て自分の左胸と挟む。そして左腕を楓の肩越しに回し軽く抱きしめた。今回はちゃんと腰を引いている。もちろん勇者のひ孫はギンギンだ。


(あー、柔らけえ……そしていい匂い……たまんねえなぁ、おっぱい揉みてえ……いや駄目だ。落ち着け焦るな俺。魔導術を施術してるんだ。黙っていても玲と楓は魔力が急激に増えて、性欲が強くなって欲求不満になるはず。やるならその時だ、そのタイミングなら拒絶される可能性は低い。上手く行けば最後まで行くことだって夢じゃない。その可能性をここで潰すわけにはいかない。今は我慢だ、俺は賢者。勇者の孫であり賢者のユウトだ!)


 ユウトは下半身の脳へ、より確実な未来予想図をプレゼンすることで説得に成功した。


 ユウトがそんなアホなことを考えている時、楓は緊張と恥ずかしさにユウトの腕に顔を埋めていた。


(恥ずかしい……下着も着けないで兄さんに直接後ろから抱きしめられるなんて……でも強くなるには必要なことなんだ……あ……兄さんの魔力が流れてきただ……凄い、慣らしの時よりもダイレクトに私の胸の魔石に流れ込んでくる……温かい……兄さんの温かい魔力が私のすべてを包み込んでくれる)


 楓は背中から体内の魔石へと直接流れ込んでくるユウトの魔力に、満たされたような表情を浮かべる。


 そしてそれから20分後。楓にも玲と同様の変化が訪れる。


(なんだか身体が火照ってきてるような……頭もボーッとする……やだ……乳首が勃ってる……恥ずかしい。もし兄さんに気付かれたらエッチな子だと思われちゃう……でも兄さんはそういう子の方が好きそう……私もそいうのには興味があるから兄さんのことは言えないけど)


 楓も年頃の娘である。学園の友人とそういった話をするし、エッチな画像や動画の一つや二つくらいスマホに入っている。入手元はパーティ仲間であるクラスメイトの紫乃しのからだが。


 そもそも探索者学園では、探索者特有の性の授業も行っている。そこで魔力が高くなると性の衝動が高くなることは教わる。そしてそういった状況になった時の正しい知識と心構えや、処理の仕方なども元高ランク探索者の教師から教わるのだ。そのためそういった際に使う道具やオカズとなる物の必要性に関しては、一般の高校生より理解があり使うことに躊躇いは少ない。


 ちなみに玲のスマホには筋肉ムキムキの男の裸の画像が入っている。これも入手元は紫乃からである。この女性の権力の強く男性の地位が低い世界では、男の裸の画像や動画にR指定など無いのだ。


 そんな友人との会話や性教育で身につけた知識が楓の脳裏に浮かび上がり、火照っていく身体とボーっとしていく思考の中で楓は想像する。


(もしここで兄さんに襲われたらどうしよう……抵抗は……しないかも……兄さんとなら……世界一強くて私たちよりも長生きする兄さんなら、あんな悲しい思いをすることはないし……兄さんになら私の初めてを……え? やだ、私ったら何を考えてるの? 兄さんの事は好きだけど、そんなのまだ早いよ。告白だってしてないしされてないのに……ハァ、いったいどうしたんだろ私……)


 いつの間にかユウトとのエッチを妄想していた自分に楓は混乱する。


(きっと兄さんに抱きしめられてるから変なことを考えちゃうんだ。そりゃ好きな人に抱きしめられたら誰だってこうなるよね。うん、私は変じゃない)


 楓は好きな人に抱きしめられているから変な気持ちになっていると結論付けたようだ。


 こうして心に折り合いをつけた楓だが、ユウトから流れてくる魔力が増えていくのに比例して熱くなっていく身体と浮かび上がるエッチな妄想に何度も首を振って耐えるのだった。


 そして施術が終わると、玲と動揺にイソイソと部屋を出て自分の部屋へと戻って行く。



 ユウトの部屋から戻った楓は、ボスンとベッドに寝転がる。


(熱い……どうしちゃったんだろ私……なんでこんなに身体が火照ってるんだろ? それにいくら兄さんに抱きしめられたからって、こんなにエッチな気持ちになるなんて……魔力のせいで性欲が増した? ううん、まだ初日だもん、いくらなんでもたった一日で三ツ星クラスの魔力になんてなれるわけない。だとしたら私がえっちなだけってことになるけど……まさかここまでえっちだとは思わなかったなぁ、魔力が増えたらどうなっちゃうんだろ? さすがに兄さん以外の人とそういうことをしたいとは思わないけど……兄さんなら……兄さんならえっちな子でも受け入れてくれるよね。兄さん……)


 楓は先ほどまでのユウトの温もりを思い出し、ショートパンツの中に手を忍ばせるのだった。



 このようにユウトから施術された途端に玲と楓の身体が火照り出し、エッチな気持ちになるのは魔導術によって魔力が引き合ったことの副作用……などではない。


 魔導術ではこのような現象は起こり得ない。


 これはユウトの身体に流れる特殊な魔力による影響である。


 ユウトは淫魔のクォーターだ。だが淫魔が用いる魔法は一切使えない。唯一使えるというよりも引き継いだのは、インキュバスの特性である絶倫のみだ。と、ユウトはそう認識している。


 淫魔が使える魔法には『魅了』と『催淫さいいん』がある。戦闘に使える種族魔法は無く、精々が魔力の固まりを放出する程度だ。それでも人間を殺すには十分な殺傷力があり、さらに淫魔は背に翼があり空を飛べるので人間の平均的な冒険者よりは遥かに強かった。


 そんな淫魔だが魔王軍に所属している時は、リルにある人族の国々へドッペルゲンガーと同様に工作員として送り込まれていた。そこで権力者に近づき魅了と催淫で虜にし、傀儡にする事で魔王軍の侵攻を手助けしていた。


 その際に使われた『魅了』の魔法だが、これは近距離から相手の目を見ることで発動できる。しかし相手の魔力が高い場合は抵抗され失敗する可能性もある。そういった相手に淫魔はその魅力的な見た目を駆使して対象をベッドへと誘い、自身の体液を介して催淫。つまり性欲をたかぶらせ、みだらな気持ちにさせる効果のある魔法を相手に掛ける。


 それにより対象者は、まるで発情期の獣のような興奮状態になる。そうして精を吐き出し、または何度も絶頂に達し弱ったところで魅了の魔法を掛けるのだ。


 この催淫さいいんの魔法は、催淫効果のある魔力を流した体液を介することで発動する。


 ここでユウトの話に戻る。


 ユウトは魅了の魔法は使えないのは確かだ。そして催淫の魔法も使えないことも娼館で確認済みだった。だが催淫の魔法に関してだけは、使えないのではなく非常に弱く効果がすぐに出なかっただけである。


 試行回数が少なかったのもユウトがそれに気付かなかった原因であろう。ユウトはそれぞれ別の娼婦に数回ほど試したが、効果がなかったので自分は催淫の魔法は受け継いでいないと諦めたのだ。娼婦が普段よりも感じやすくなっていることに気付かずに……


 そのユウトの魔力が、はからずとも魔導術によって玲の体内に大量に流れ込んだ。体液を介してではないし賢者の石によってある程度中和されてはいるが、確実に催淫の効果を持った魔力が玲と楓に流れているのだ。


 最初の内は身体が少し熱くなりエッチな思考になる程度だろう。しかし魔導術で流す魔力量は、玲たちの体内の魔石が成長するのに合わせて増えていく。さらに魔導術を施術している期間中はユウトの魔力は玲たちの体内に蓄積していく。これがどういった結果を及ぼすことになるのか? それは火を見るより明らかであろう。


 その事を玲も楓も知らない。魔法を掛けた張本人であるユウトでさえも……


 ユウトの催淫の魔法の恐ろしい所は、少しずつその効果が現れることだろう。そのため対象者は魔法を掛けられたことに気付かず、魔力が増えた影響で性的欲求が高くなったと誤認してしまう。


 リルの女性であればそのような勘違いはしない。恐らくは異変に気付くはずだ。だが、まだ魔力に種として慣れていない地球の女性には、魔力の増加によって性欲が増すという特性がある。ユウトの弱い催淫の魔法にこれほど都合の良い環境はないと言える。


 力を求めたばかりに玲と楓はユウトの魔導術を受け、慣らしの段階で魔力が引き合うことを恋愛感情と誤認してしまった。そして本格的な施術を受け、徐々に催淫の魔法にも掛かってしまう。


 その結果、力の対価として自らの清らかな身体を悪魔淫魔に差し出すことになる。


 ユウト《淫魔》と契約してしまったゆえに、二人の運命は大きく変わってしまうのだった。


 

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