第61話 パーティ『ウィンクルム』
奥多摩二つ星ダンジョン。通称小鬼ダンジョンは20階層からなるダンジョンである。
このダンジョンには10階層に中ボスが存在し、その中ボスを倒し11階層に足を踏み入れると劇的にその難易度が上昇する。
それはゴブリンアーチャーやゴブリンウィザードといった、遠距離攻撃をしてくる魔物が現れるからだ。
それらは基本的に探索者と同数が襲い掛かってくるうえに、連携までする始末だ。これが大分にあるゴーレムダンジョンより、小鬼ダンジョンの方が難易度が高いと言われている理由である。
そんな小鬼ダンジョンの13階層で、今まさに大量のゴブリンと戦っているパーティがいた。
十日以上前にこのダンジョンを攻略するためにダンジョンアタックを開始したパーティ、『ウィンクルム』である。このラテン語で絆や
そう、ユウトが日本で初めて会った現地人であり、そして恩人でもある太田の所属するパーティである。
そのウィンクルムは現在、前後10体づつ、計20体のゴブリンに挟み撃ちにされていた。
彼女たちはポーター2人を守るかのように中心に置き、5人ずつ前後に分かれ防衛戦を繰り広げている。
「由美! 前方のゴブリンアーチャーの攻撃をもっと引き付けて! 太田さん! アーチャーの流れ矢に気を付けて!」
ファイアーボールの杖を手に陣形の中央付近で指示を飛ばしているのは、このパーティのサブリーダー兼司令塔の小野
このパーティで唯一遠距離攻撃ができる彼女は、ゴブリンアーチャーへ向けて次々と火球を放っていく。
「ほらっ! こっちだよ! やーいノーコン!」
綾子の指示を受けたタンク役でリーダーである佐竹 由美は、最前線に立ちゴブリンアーチャーの攻撃を盾で受けながら挑発し、それと同時に横を抜けようとするゴブリンへ傷を負わせていく。
「おうっ! 裕司! 後ろからの矢を頼む!」
太田は全身鎧タイプのパワードスーツに大盾を掲げ、恋人である由美が受けそこねた矢を弾きながら背後にいる仲間へと指示をする。
そんな彼の頭上には有線式ドローンが飛んでおり、戦場全体を自動撮影していた。このドローンから伸びる有線は、太田の背負っているバックパックに繋がっている。
「はいっス! 任せるっス! あっ、美佳ちゃん危ないっス!」
太田の指示にもう一人のポーターである茶髪にピアスをした男。酒田
裕司も太田と同じく全身鎧タイプのパワードスーツを身に着けており、その両腕にカイトシールドを装着している。
カイトシールドはその名の通り
「あっと、サンキュー裕司! 今夜は期待していていいよ!」
裕司に死角から来る矢から守ってもらったパーティ仲間である美佳は、裕司にお礼に今夜サービスをしてあげると告げながら目の前のゴブリンを槍で貫く。
「ヒャッホゥ! 挟んで欲しいッス! オネシャス!」
「あははっ、アンタほんと好きだね」
「巨乳は正義っス! リーダーとサブリーダー以外、おっぱいが大きい子が多いこのパーティはサイコーっス! オレは命を懸けてみんなを守るっス!」
裕司は見た目と言動はチャラいが、裏表の無い性格から由美と綾子以外からよく夜の奉仕に呼ばれる。そしてウィンクルムには胸が大きい子が多い。巨乳好きの裕司にとっては最高の環境と言えよう。
「チャラ男! 誰が貧乳ですって! これでも私はBはあるわよ! 後で覚えてなさいよ!」
「酒田さん、もう搾り取られすぎて殺されると泣きついてきても助けてあげませんから。太田さんも代わってあげないように」
だがそんな裕司の決意表明に、胸の大きさを名指しでディスられたリーダーの由美とサブリーダーの綾子から怒りの声が上がる。
「裕司、助かるわ。オレは由美と綾子や他の子の相手で手一杯だからさ」
度々裕司のヘルプを頼まれていた太田は、矢を盾で弾きながらホッとしているようだ。
「ぎょえぇぇぇ! 無理っス! 日に日に底なしになっていくみんなの相手はキツイっス!」
太田が相手をしている4人以外に求めてくる子は6人いるので、その相手を太田の助け無しに毎日するのは流石にキツイようだ。
女性に縁のない男たちから見れば、このパーティは天国なのかもしれない。しかし二つ星ランクのパーティで、ここまでポーターと良好な関係を築いているところはそれほど多くはない。
これも太田や酒田以外は全員が高校からの同級生で、5年もの間ダンジョンで命を預け合ってきた関係であること。そしてリーダーである由美の魅力と、サブリーダーの綾子の統率力の賜物だろう。そしてそこに太田の世話焼きで頼りがいのある人柄と、酒田の憎めない性格が合わさった結果とも言える。
こういった成功例を夢見て世の男たちはポーターへとなりたがるのだ。魔力が増え精力が増した探索者たちの夜のお世話をするために。そのために魔力が無くとも彼らは命を懸けてダンジョンへと潜るのである。
ウィンクルムのメンバーらは無駄口を叩きながらもゴブリンを処理していく。このダンジョンで3年以上も戦っている彼女たちからしてみれば、この程度の数を相手にするのは慣れたものである。
問題は15階層から先だ。そこからは10階層の中ボスだったゴブリンウィザードが普通に出てくるようになる。ウィンクルムはこのウィザードとアーチャーのいる集団に度々苦しめられ、そして何度も撤退を余儀なくされていた。
しかし前回のダンジョンアタックで18階層まで行けたことで、今回こそ小鬼ダンジョンを攻略し、パーティ名と彼女たちだけで設立した
「よしっ! これで終わり! でもなんか今日は魔物と遭遇する回数が多く感じるんだよね」
リーダーの由美が最後のゴブリンを斬り、剣を鞘にしまいながらそう呟く。
「そうね、やたらとこっち側に集中している気がするわ。ちょっと遠回りだけどゴブリンたちが来た方向に進みましょう。太田さんはどう思いますか?」
「うーん、そうだな。遭遇場所が確かに南回りのコースに集中している気がする。綾子の言う通り北回りに移動しよう」
綾子に意見を求められた太田は、背負っていたチタン製のバックパックからタブレットを取り出しダンジョンの地図を開いた。そして13階層に降りてからゴブリンと遭遇した場所に止めていたピンの場所を確認し、綾子の意見に同意した。
「そんじゃ北回りってことで! それでも14階層の階段には今日中に行けるっしょ!」
「そうね、酒田さんは夜の見張りどころじゃないものね。美佳、搾り取ってあげて」
黒髪を後ろでまとめそこそこ整った顔立ちに眼鏡という、地味な見た目の綾子の口からとは思えない言葉だが、彼女も太田に夜の相手を頼んでいることからシモの話をするのに抵抗はないようだ。
「あっははは! 了解サブリーダー! 昨日は裕司は見張りで相手してくれなかったからね。朝までみんなの相手をしてもらうよ」
綾子の言葉に日焼けした肌に巨乳で髪を金髪に染めている、いかにも黒ギャルという見た目の美佳が豪快に笑いながら答える。
「ひえぇぇ! せめて2人でオネシャス! それか太田さんのヘルプありで!」
「だーめ、賢治は今日は私と綾子の相手をしてもらうんだから」
「ふふっ、いつも恋人を借りて悪いわね由美」
由美と太田が恋人同士なのはパーティ内の誰もが知るところだ。綾子も太田の事をいいなと思っていたが由美に先を越されてしまい、それならと夜の相手をしてもらえるように由美に頼んだという経緯がある。これは裕司を奉仕に呼ばない他の2人のメンバーも同じである。
「いいのよ、賢治の事は愛してるけど、みんなのことも同じくらい愛してるんだから。それに賢治はタフだから大丈夫。ダンジョンにいる間は好きに使ってね」
「ふふふ、確かに強いわよね」
由美の献身的な言葉に綾子は唇を軽く舐めた後、濡れた視線を太田へと送る。普段真面目な子ほどあっちは強いようだ。
そんなまるでエロ本のように自分を貸し借りをする恋人と、ダンジョンの中だけの割り切った関係である綾子に太田は顔を引きつらせることしかできない。この時代の男に拒否権など存在しないのだ。
「じゃ、じゃあ北回りで行くぞ。綾子、指示を頼む」
「ええ、皆配置について。今日中に14階層まで行くわよ」
「「「おお〜!」」」
こうしてパーティウィンクルムは下層に向け、ダンジョンを着々と進むのだった。
その頃ユウトたちはというと
「ヒッポグリフ、こっちだ! このまま行くと探索者たちがいる。もっと北だ!」
太田たちと同じ13階層の北側をヒッポグリフにまたがり、地上5メートルの高度をものすごい速度で飛んでいた。
地上ではゴブリンたちがパニック状態で散り散りとなって逃げ回っている。
隠蔽の結界でユウトたちの姿は見えないが、魔力で相手を認識している魔物たちにはそんなことは関係ない。彼らはBランクの魔物が複数体襲い掛かってきていると認識しており、恐怖に駆られパ二ックとなっているのである。
「よし、14階層の階段まで後少しだ! 15階層で休憩するからもう少し我慢しててな」
ユウトは前を向きながら、後ろをついてきている玲と楓へと声を掛ける。
「「…………」」
返事はない。
ユウトは気付いていないが玲は手綱を握りしめながらヒッポグリフの首にしがみつき、その玲の腰を楓が同じくしがみついている。まるでコアラの親子のような光景である。しがみついている相手はヒッポグリフで、二人の目に光はないが。
そんな二人から返事が聞こえないのは、地上でギャーギャー騒ぐゴブリンたちの悲鳴にかき消されたのだろうとユウトは思い、二人に構うことなくヒッポグリフを飛ばすのだった。
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