第47話 淫魔の孫 義妹たちに囁く
ダンジョンアタック5日目。
ユウトたちは朝食後すぐに15階層を目指し出発した。
そんなユウトたちをカミラが玄関で深く頭を下げ見送る。
カミラはユウトたちには同行はしない。毎朝ユウトたちを見送ったあと、マジックテント内の清掃を行いDVDをゆっくり見てからユウトたちを追って夕方頃に合流するからだ。影の中を移動する彼女の速度はとんでもなく早いためそれが可能なのである。
ちなみに初日以降、ユウトは浴室で精霊魔法による音の遮断無しでカミラとすることは控えるようにしている。確かに興奮はしたが、あまりにもリスクが高いことを賢者タイムの時に再度認識してやめることにしたのだ。
カミラもユウトを喜ばせようとしてしたことなので素直に従った。彼女としては毎晩ベッドでたっぷりと子種をもらっているので不満はない。ただ、ユウトが想像していたよりも興奮していたので、時を置いてからまた誘おうとは思っているようだ。
「さっそく前方から4匹お出ましだ」
野営地を出発してから数分後、前方を警戒しつつ走っていた玲に最後尾のユウトから警戒の声がかかる。
玲はすぐさま足を止めミスリルの剣を構え、全身に魔力を巡回させ身体強化を行う。
すると薄暗い通路の先から魔物の駆ける音が聞こえると同時に、
「楓!」
「アイスランス!」
玲が後方にいる楓に声を掛けると、既に発動していたのだろう。すぐさま直径1メートルお度の氷の槍が3本、玲の頭上を通過し先頭を走る2匹の
「ハァァァ!」
それと同時に玲は駆け出し、先頭を走る仲間が倒れたことで速度が落ちた残り2匹へと一気に迫る。そして1匹を剣を横薙ぎに振るい
「ふぅ、こんなものか」
玲は一度も反撃を受けることなく倒すことができた、4匹の
(9階層で初めて
玲と楓は初めて緑狼と戦った時は、一つ目狼よりも素早い動きに少々苦戦した。しかしここ二日間、毎日何十頭もの緑狼と戦っていく内に一つ目狼と戦うのとそう変わらない感覚となっていた。
(腕は間違いなく上がった。ユウトの言っていた通り、実戦こそが最高の訓練だった。まあ、学生の私たちがここまで戦えるのも、ユウトから借りているこの装備とマジックアイテムがあるからこそだけどな)
玲は今の自分の実力は、ユウトから借りている装備とマジックアイテムがあってこそだということはしっかりと認識している。
(だが、装備も探索者の実力の一部だ。私たちは間違いなく強くなった。これも全てユウトと出会えたおかげだ。大叔父さんには感謝しなければな。今度先祖代々の墓に納骨に行くと行っていたから、その時に大叔父さんに礼を言うとしよう)
そんなことを消滅していく
「お姉ちゃんお疲れ、追加の
「そうか、では魔素を吸収して先に進むとするか」
「うん、それにしても私たちも強くなったよね」
消滅していく4匹の魔物の中心で、周囲を警戒しつつ楓は玲にそう話し掛ける。
「ああ、間違いなく強くなった。ユウトから借りているこの装備とマジックアイテムのおかげでな」
「そうだね、私もかなり使いこなせるようになったよ」
「楓の魔法には助かっている。フフッ、それにしてもユウトから新しい杖を渡されてから、楽しそうに魔法を使うようになったな」
「何かなその笑みは? 私が魔法少女アイスムーンになりきっているとでも言いたいのかな?」
「そんな事は言ってないだろう。ただ魔法を使うのが楽しそうだと言っただけだ」
「目が笑っているんだよお姉ちゃん。そりゃ、あの時は童心にかえってはしゃいじゃったけど、今はそんなことないから誤解しないで欲しいな」
楓はユウトに氷魔法の杖を渡された時のことを思い出したのか、恥ずかしそうにそう否定した。
「ふふっ、大丈夫だ。楓が厨二病だなどと思ってないから安心しろ」
「違うから! 私は厨二病なんかじゃないから!」
「わかっているわかっている。さて、魔石を早く拾ってしまおう」
玲の言葉に楓は顔を真っ赤にして否定するが、玲はわかっているからと優しい眼差しを楓に向けている。日頃妹にからかわれていることへの仕返しなのだろう。
「ちょっとお姉ちゃん待ってよ! そんな優しい目で見るのはやめて欲しいな。厨二病なんて患ってないんだからね」
魔石を拾おうとする玲に楓は必死に誤解を解こうと声を掛け続けるのだった。
そんな仲睦まじい姉妹の後ろでは、ユウトが膝をついて崩れ落ちていた。
恐らく太田と出会った時のことを思い出したのだろう。
黒歴史とは、忘れた頃に強制的に思い出させられるものである。
♢
「ここが15階層か」
「とうとう最下層まで来たね」
数時間後、ユウトたちは15階層にたどり着いていた。
14階層に繋がる階段を下りてすぐに全力で駆けたので、今はもう階段から1キロは離れている場所にいる。
やはり一つ星ダンジョンとはいえ、5階層ならともかく探索者がたった二人と普段着のポーターだけで下層に来るのはかなり目立つ。階を下りる毎に他の探索者たちから声を掛けられ、足止めを何度か喰らったことでユウトたちは一気に駆け抜けることにした。
「この階層であと4日ほどキャンプを行えば魔力は間違いなく増えるだろう」
「そうだね。ここで魔力を増やそう」
「おいおい、二人とも。ここまで来てそんな消極的でいいのか? なんのために探索者はダンジョンに入ってるんだ? 攻略するためじゃないのか?」
最下層でキャンプをするつもりの玲と楓に、ユウトは肩をすくめヤレヤレと言わんばかりに二人へそう告げる。
「それはそうだが……」
「そりゃあ私たちだってダンジョンを攻略したいよ。でもボスだよ? 手下だって多く引き連れてるし」
「たかが一つ星ダンジョンのボスだろ? このダンジョンのボスは、
ダンジョンボスと戦うということに腰が引けている二人へ、ユウトはここぞと言わんばかりにはっぱをかける。
「言われてみれば複数の
「兄さんにそう言われると、なんだか勝てそうな気がしてきたよ」
「勝てるさ。二人にあげた装備と魔導具は一つ星ダンジョンのボス程度でどうにかできる物じゃない。万が一の事があっても俺がすぐにフォローに入るし、影狼だっている。ここはいっちょ攻略して涼子って子を悔しがらせてやろうぜ!」
前向きな思考になってきた二人にユウトは一気に畳み掛ける。
「そうだな、今の私たちならやれる気がする。楓、一度戦ってみよう」
「うん! 私のアイスランスでボスを串刺しにしてあげるよ!」
そんなユウトの誘導に、15階層までほとんど苦戦することなく来れたことで自信をつけていた玲と楓は乗ってしまった。
ユウトの助けがあったとはいえ、実際に複数の
こうして玲と楓は、まんまとユウトの扇動に乗ってしまった。
それが
「よしっ! そうと決まったらボス部屋に行くぞ! たかが一つ星ダンジョンのボスだ! 二人なら絶対に勝てる! ボスを倒して明日から二つ星探索者だ!」
「ああ、行こう!」
「おおー!」
ユウトの掛け声に玲は決意のこもった表情で頷き、楓は元気に腕を突き上げ15階層の最奥にあるボス部屋へと歩を進めるのだった。
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