第45話 勇者の孫 育"性"計画を実行する



「なあ玲、楓。明日からのダンジョンの攻略なんだけどさ、やっぱり最下層を目指そうと思うんだ」


 ユウトは居住まいを正し、真剣な表情で二人へとそう提案した。


「ええ!? 9階層じゃなかったの?」


「さすがにそれは……いくら高性能な防具があっても、私たちの実力では厳しいだろう」


 ユウトの突然の提案に困惑する二人。しかしユウトはそんな二人の反応を想定内とばかりにウンウンと頷き、空間収納の腕輪からアイテムを取り出しながら口を開く。


「大丈夫、身体能力と魔力を上げる魔導具マジックアイテムを用意したんだ。これを使えば一つ星ダンジョンの最下層程度余裕だからさ」


「身体能力を上げるマジックアイテムとは、もしかして力の指輪のことか?」


「え? 魔力を上げる物まであるの?」


「ああ、これが力の指輪でこれが魔力の指輪だ。んでこっちか速力のアンクレットな。渡した鑑定のルーペで見てみなよ」


 テーブルの上に並べられた赤い宝石のようなものが嵌った指輪と、翠の宝石が嵌った指輪。そして青い宝石の嵌ったアンクレットをユウトは指差し、二人にあげた鑑定のルーペで確認するように促す。


 玲と楓は期待と好奇心からか、ほぼ同時に収納の指輪から鑑定のルーペを取り出しテーブルの上に並べられたマジックアイテムを手に取り覗いていく。


「ほ、本当に力の指輪だ……日本でも三ツ星の大鬼オーガダンジョンのボスを倒しても滅多に出てこない貴重なマジックアイテムが二つも」


「すごい……この魔力の指輪って装備した人の魔力保有量を1.5倍にするんだって!」


「この速力のアンクレットというのも速力が1.5倍になるようだ。凄まじいな……」


「これがあれば確かに下層でも戦えるかも」


「だろ? んで楓には新しい杖をもあげるよ。玲にはミスリルの剣をあげたしさ、これを使えば戦闘の幅が広がるから使ってみてよ」


 二人の反応に手応えを感じたユウトは、トドメとばかりに空間収納の腕輪から一本の白い杖を取り出した。その杖は長さ1メートルほどで、先端に拳ほどの大きさの氷の結晶を模したクリスタルが嵌っている。


「新しい魔法の杖!? み、見ていいかな兄さん!?」


 新しい魔法の杖と聞いて嬉しそうな表情を浮かべる楓。そんな楓をユウトは可愛いなと思いつつ、彼女に杖を手渡した。すると楓はすぐに鑑定のルーペで杖を覗き込む。


「え? 氷壁と氷槍の魔法? 氷の魔法って存在してたの!? しかも一つの杖で二つも魔法が使えるって……す、凄い! やったぁぁ!」


 楓は無いと思っていた氷の魔法が存在したこと。そしてそれを一つの杖で二つも魔法が使えることが嬉しかったのだろう。杖を抱きしめながら飛び跳ねて喜んでいる。


「速力のアンクレットもそうだが、氷の魔法など存在していたのか」


「ああ、こっちにはないみたいだけど、異世界には氷でできた魔物ばかりが出てくる氷結ダンジョンてのがあるんだよ。そこで手に入るんだ。速力のアンクレットはどうだろ? 確かウルフ系の三ツ星ダンジョンならボス部屋の宝箱から低確率だけど、出てくるはずだけど」


 速力のアンクレットはB級ダンジョン。地球の基準だと四つ星ダンジョンであれば、中層以降の宝箱に入っているアイテムだ。しかし三ツ星ダンジョンだとそのドロップ率は低くなる。これは力の指輪も同じだ。


「ウルフ系の三ツ星というと……人狼ダンジョンか。あそこは難易度が高いせいで大鬼ダンジョンほど攻略者がいないんだ。最下層の人狼ワーウルフが強くてな。母さんも一度しか倒していないと言っていた」


 攻略者が少ないのであれば、レアドロップ品なども手に入れる確率は当然落ちる。そのため地球ではまだ速力のアンクレットが発見されていなかったのだろう。


 ちなみに魔力の指輪は、その魔力増加率と汎用性の高さからA級以上のダンジョンからしか手に入らない。リルでも貴重なマジックアイテムなのだ。


「人狼かぁ、まあ確かにすばしっこいからな。オーガよりは苦戦するかもな」


 人狼は力が強く速さもある。人狼よりも剛力だがそれほど素早くはないオーガに比べれば確かに戦い難いかもしれない。


「しかしこれほどのマジックアイテムを本当に使わせてもらって良いのか? 特にこの魔力の指輪などは相当貴重な物のように思えるのだが」


「まあ確かに魔力の指輪は希少っちゃ希少だけど、道具は使ってなんぼだからな。俺の空間収納の腕輪に死蔵している方がもったいないだろ? それにまだ身体強化系の魔道具は他にもあるしね。いきなり強力な物を使うのも危ないから出してないだけだよ。だからまずはそれで慣れてくれ」


 力の指輪には力の腕輪、速力のアンクレットには疾風のアンクレットなど、上位互換のマジックアイテムが存在する。それもユウトは持っているが、いきなり身体能力が2倍になっても使いこなせないと思ったので下位の物から渡しているのだ。


「これ以上の物があるのか……」


 ユウトの説明に玲は今目の前にあるアイテムだけでも凄いのにと愕然としている。


 そんな玲の後ろでは、楓が魔法の杖に頬ずりをしていた。本当に嬉しそうだ。


「まあそういうわけで、このマジックアイテムがあれば最下層でも十分戦える。魔力を少しでも上げたいならより魔素濃度の高い下層で、そしてより多くの魔物を倒した方がいい。だから明日からこのマジックアイテムを装備して最下層を目指そう」


「……そうだな。ユウトの言うとおりだ。魔力量を増やしたいなら行けるとこまで行くべきだ。これほどのマジックアイテムがあればそれも可能と思える。まずは一日も早く使いこなせるようにしなければ」


「私もこの杖があれば最下層でも戦えそうだよ! あー、明日が楽しみだよ。早く一つ目狼ワンアイドウルフ狼に使ってみたいな」


 神妙な顔をして頷く玲とは対象的に、楓は目を輝かせている。もう頭の中は魔法少女アイスムーンでいっぱいなのだろう。


 そんな二人の姿にユウトは笑みを浮かべながらウンウンと頷いていた。


 内心では第一関門突破ぁぁ! と小躍りしていたが。


 強さに焦がれる二人はまだ気付かない。これが淫魔の罠だということを。



 ♢



 ユウトは玲と楓が部屋に戻ったあと、一人風呂に入っていた。


 ユウトがいる浴室は玲と楓が入っていた浴室ではなく、その隣りにある従者や使用人用の浴室である。ただ、それでも4人は一度に入れそうなほどの広さがある。


(うへへ、上手くいったな。まあ強さを欲している子たちだからな。失敗するとは思えなかったけど)


 そんな広い浴槽の縁に頭だけを乗せ足を伸ばし浮いていたユウトは、先ほどのことを思い出し顔をニヤけさせていた。


(実際にあの魔導具を使えば自信がつくはずだ。そうなれば最下層のボスに挑んでみたくなるはず。んでとっとと倒して、次は二つ星ダンジョンだな。勢いが大事だな)


 ユウトは二人に考える時間を与えることなく、二つ星ダンジョンの下層まで連れていくつもりのようだ。


 自分の欲望を叶えるためではあるが、いくら淫魔の血が流れているユウトでも大切な家族である二人の安全を考えていないわけではない。ユウトは二人を守る自信があるし、万が一の時のためにシャドウウルフを二人の影に潜ませるつもりでもいる。


 普通はB四ツ星ダンジョン攻略の際に装備する英雄級の防具に、地球に数本しか無いミスリルの剣。さらには世界で一本だけしかない複数の魔法を発動できる氷魔法の杖に、魔力量・腕力・速力を5割増しにする各種指輪とアンクレット。


 さらには異世界を救った勇者によって鍛えられたユウトと、Bランクの中でも上位の魔物であるシャドウウルフによる護衛。この過剰ともいえる装備と護衛を引き連れて、一つ星や二つ星ダンジョンの魔物程度に遅れをとるはずがないのだ。


 そういった安全を確保できているからこそ、ユウトは自分の欲望を叶えるために動けていた。


「いい感じだ、二人とエッチな関係になる日は近い。焦るな俺、この計画だけは二人に知られないようにしないと」


 ユウトは股間から湧き上がる熱いパトス必死に抑えつつ、焦って玲と楓に目的を知られることだけは避けなければならないと言い聞かせるのだった。


 しかし浴槽に仰向けで浮いた状態で、勇者のひ孫を直立させているユウトに浴室の入口の方向から声が掛かる。


「何を知られてはならないのですかご主人様」


「うおっ! カ、カミラ!」


 全裸で入り口に立っていたカミラにユウトは驚き、慌てて股間を隠す。


 そんなユウトを一瞥したカミラは、洗い場から桶を拾い浴槽の湯をすくい掛け湯をしてからユウトの隣へと浸かった。


「ちょ、おい。まだ玲と楓が起きてるってのに、バレたらどうすんだよ」


「お二人は部屋にいるので大丈夫です」


「トイレとか行く時に気付くかもしれないだろ」


 トイレとこの浴室は近い。玲か楓がトイレに行く時に、中から話し声がすれば気がつくだろう。カミラと一緒に風呂に入っているところを見られたら計画が破綻するかもしれないし、せっかく積み重ねてきた好感度もだだ下がりである。ユウトはそうはさせじと精霊魔法で音の遮断を試みようとする。


「な、なんだよ」


 が、身を寄せ胸を押し付けてきたカミラがユウトの唇に人差し指をあてた。


「以前読んだマンガで学んだのですが、人族は行為中の光景をもしかしたら他人に見られるかもしれないという状況に興奮するそうですね」


「青姦のことか? まあそういうのに興奮する女性もいるらしい……ん? まさかお前」


「はい、いつあの二人がトイレに来るかわからないこの状況で、子種を私に植え付けたら……」


「ア、アホか! 俺は男だしそんな性癖はねえよっ! 気になって興奮なんかするわけねえだろ!」


「あら、そうですか? ココはそうは言ってないようですが?」


「あうっ……え? う、嘘だろオイ」


 ユウトはカミラに握られた勇者のひ孫を見て愕然とした。しなびていると思っていたひ孫が、はち切れんばかりに膨張していたからだ。


「やはり身体は正直ですね。では失礼して」


 フッ、と口元を緩めたカミラは、ユウトの足もとに移動しそのまま両足を抱え上げた。そして勇者のひ孫をその巨大な両胸で挟み、顔を近づけパクリと咥えた。


「うおっ! そ、そんな技どこで! あっ、気持ちいい……だ、駄目だ声が出る……だ、出しちゃ駄目なのに! こんな所を玲と楓に見られたら好感度が下がるのに……ああ……でも……でも興奮するぅぅ!」


 激しく上下に頭を動かすカミラを見下ろしながら、ユウトは精霊魔法を発動できないでいた。


 リスクよりスリルによる興奮を取ったのである。ユウトに新たな性癖が芽生えた瞬間であった。


 今回は幸い玲と楓に気付かれることはなかったが、この様子ではそれも時間の問題と言えよう。


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