第44話 勇者の孫 カミラとの会話
玲と楓がお互いのおっぱいを揉み合っている頃。
ユウトはリビングでネット通販で買った大容量のポータブル電源と大型テレビ。そしてDVDプレイヤーの設置を説明書を見ながら行っていた。
「えっと、このコードをここに差せばいいのか?」
「ご主人様、どうでしょうか? ワン○ースとブラック○グーンのDVDは見れますか?」
説明書を見ながらウンウン言っているユウトへ、夕食の支度が一段落したカミラが声を掛ける。
どうやら海賊アニメとメイドが銃を乱射するアニメをカミラが見れるようにするために、ユウトが機材を購入し設置しているようだ。
「もうちょい待ってくれ、すぐに終わらせるから」
「? ご主人様、何をそんなに急いでらっしゃるのですか?」
カミラはユウトがどこか急いで設置しようとしているように見え、わずかに首を傾げる。
「え? あ、早くカミラにアニメを見せてやりたくてさ」
「そうですか……どうも先ほどから大浴場の方をチラチラ見ては落ち着きがない様子でしたので。もしかしたら玲様と楓様のご入浴を覗きたかったのではないのかと」
「そ、そんなことするわけないだろ! 俺がそんな姑息で卑怯なことをする男に見えるのかよ。心外だ心外!」
ユウトはカミラの言葉に腕を組んで憤慨する。
「そうですか失礼致しました。てっきり大浴場の壁裏の隠し通路を通り、ドラゴンの頭部を模した給湯装置の中から覗くつもりだったのではと」
「なっ!? なぜそれを……あ、いや……そ、そんなのがあったんだ……知らなかったなぁ」
ユウトはなぜカミラが秘密の覗きコースを知っているのかと聞きそうになったが、ぐっと堪え知らなかったことにした。姑息で卑怯な男と思われたくなかったからだ。ブーメランである。
「あれを作ったのはご主人様ではないと? では前の所有者が作った物だったのかもしれませんね。それでしたら埋めてしまっても?」
「あ、ああ。そんな空洞は埋めるべきだと思う……よ」
いつか可愛い女性冒険者をこのマジックテントに泊める日が来た時のために作った秘密の通路と覗き穴なのにと。やっと使う機会が訪れて楽しみにしていたのにと。そう心の中で泣きながらユウトは蚊の鳴くような声でそう答え肩を落とした。
「承知しました。明日にでも埋めておきます。おや? ご主人様、手が止まっておりますが?」
「今やるよ! やりゃあいいんだろコンチクショオォォ!」
カミラの言葉にユウトは目に涙を浮かべながらテレビとDVDの設置作業を再開するのだった。
そんなユウトをカミラは目を細め、口もとに薄っすらと笑みを浮かべ見下ろしている。さすが純粋な魔族である。
それから5分後。
「できたっ! 今再生してみるから待っててくれ……おお、映った映った」
「これは……かなりの迫力ですね。タブレットで観るのとは全然違いますね」
100インチはありそうなテレビモニターに映し出された、荒廃した街のバーで銃を乱射しているメイドの姿にカミラが感心した声を上げる。その声音はどこか嬉しそうにも聞こえる。
このアニメを見てからカミラは、ユウトにもらった拳銃型の魔銃をスカートの中に隠し持つようになった。新しい文化に触れたことで一番影響を受けたのは、ユウトよりもカミラかもしれない。
「しかしこのポータブル電源てのは便利だな。これがあればダンジョンの中でも電気が使えるんだもんな。まあおかげで色々と買うことになったけど」
「炊飯器とコーヒーメーカーは必須ですよご主人様」
カミラは外食を重ねる内に日本料理にすっかりハマっていた。そしてコーヒーにも。そのため日本料理を覚えた(と言っても有名な料理人に触れてその記憶をコピーしたのだけなのだが)。
「炊飯器はそうだけど、テレビとDVDとコーヒーメーカーはカミラしか使わないだろ」
「ダンジョンではネットに接続できないと聞いたので。メイドが求める物を用意するのも雇い主の義務かと」
「別にこんくらい大した出費じゃないからいいけど、リルじゃ人族の姿で貴族の家に百年以上仕えてたんだろ? カミラのことだから貴族にも同じことを言ってそうだよな。そんなんでよくクビにならなかったな」
「雇い主の首は飛ばしましたけど、クビにはなりませんでしたね」
「そうだった、お前が貴族の家をいくつも潰したのを忘れてたよ」
普段のカミラのユウトへの献身ぶりに、彼女がルトワーク王国の貴族の家をいくつも潰したことで討伐対象となったことを忘れていたユウト。
「そんなこともありましたね。懐かしいですね」
「2年も経ってない最近の話だけどな!」
「それよりもご主人様、私のことを玲様たちに紹介してよろしかったのでしょうか? あのお二人に稽古をつけている所を何度か見かけましたが、ご主人様はお二人にも子種を植え付けたいと考えているように見えましたが?」
「話の変え方が強引すぎるだろ! あと子種を植え付けるとか言うな! 生々しいわ! ったく、まあ二人とも可愛いし性格もいいからな。恋人にしたいとは思ってるよ」
「恋人ですか……相変わらず私には理解できない関係ですが……しかしではなぜ私を? またリルにいた時のように怖がられて失敗するとは思わなかったのですか?」
ユウトはリルではその魔族の血から一般人からは怖がられてはいたが、刹那的な生き方をしている冒険者からはそこまで怖がられることはなかった。それどころかダンジョン内で多くの冒険者を助け、感謝され憧れの対象にすらなっていた。それなのになぜ同業の女性冒険者の恋人が出来なかったのか? その理由は二つある。
祖父の秋斗が生前の頃は、ユウトに近づこうとしていた女性冒険者に秋斗が声を掛け口説きまくっていたこと。そのことが女性冒険者の中で広まり、秋斗と常に一緒にいるユウトに近づかなくなった。当然ユウトはその事を知らない。本当にロクでもない祖父である。
もう一つは秋斗の死後、今度はカミラがユウトの側にいたからである。
さすがに純粋な魔族を使い魔にしている男の恋人になろうと思う女性冒険者はいない。誰よりも魔族の強さと残酷さを知っている冒険者であれば尚更だ。
カミラは当然自分の存在のせいでユウトに女性冒険者が近づかないことを理解していた。だから日本でも同じことをしようとしているユウトが不思議でならなかった。
「今後玲たちと一緒にダンジョンに入る上でさ、身の回りの世話をしてくれるカミラのことを隠し通すことは難しいと思ったんだ。戦いで疲れている二人に掃除をさせるわけにもいかないしな。それにダンジョンに潜る時はカミラを必ず連れて来ていただろ? 今さら留守番させるのもなんか悪いと思ってさ」
ユウトは秋斗の死後、魔石を集めるために結構な頻度でダンジョンに潜っていた。そんなユウトの生活面や下半身の世話だけでなく、情報収集や戦闘の補助など様々な面で支えてくれたカミラを好きな子ができたからと留守番させて遠ざけるなど出来なかったのだ。
「……相変わらず要領の悪いご主人様ですね」
「ほっとけ! そんなの俺が一番良くわかってるっての」
カミラの呆れたような声にユウトはソファーにドカッと座り顔を背け
だからだろう、カミラの口もとが少しだけ緩んでいることに気が付けなかった。
「あ、ご飯が炊けたようです。では私は調理に戻りますので」
「ああ」
(確か日本料理は今日始めて作るんだよな? 大丈夫かな)
ユウトはカミラの背を見送りながら一抹の不安を抱くのだった。
♢
「美味しい!」
「うん、本当に美味しいな。まだ日本に来てそう日が経ってないというのに、ここまで日本料理をマスターしているとは……これがプロのメイドか」
「いや、本当に美味いな。これだけの品数をここまで美味しく作れるなんてな」
「喜んでいただけて幸いにございます」
テーブルいっぱいに並べられた数々の日本料理を前に、楓と玲。そしてユウトまでもがその味を絶賛する。
どうやらユウトの心配は杞憂だったようだ。
そんなユウトたちに、カミラはユウトの後ろに立ちながら一礼した。その表情に変化はない。本人としては当然のことと思っているようだ。
「あー、もうお腹いっぱいだよ。あまりに美味しくて食べすぎちゃった」
夕食を食べ終えソファーに仰向けになって寝転がる楓。
「ふぅ、私もだ。これを毎日食べれるとはな」
その隣で玲もお腹を抑え苦しそうにそう口にする。
「お風呂に素敵な部屋に柔らかいベッドに美味しいご飯。もう兄さんなしじゃダンジョンに入れない身体にされちゃうよ」
「お、おう。なってくれなってくれ、遠慮なく俺がいないと駄目な身体になってくれ」
ユウトは向かいのソファーで寝転がる楓の言葉を、脳内でエッチな意味に変換し勝手に興奮していた。
「もうっ! そういう意味じゃないんだよ兄さんの変態」
「ぐはっ」
しかし楓に速攻で思考を読まれ、変態呼ばわりされてダメージを受けてしまう。
控えめに言ってアホである。
「どうしたんだユウト?」
玲だけは二人の会話の意味が分からず首を傾げている。
「何をしているのですかご主人様。食事が終わったらお二人に大事なお話があるのではなかったのですか?」
ソファーに突っ伏すユウトへ、後片付けを終えたカミラの呆れたような声が掛かる。
「わかってるよカミラ。義妹に変態と呼ばれるのが思った以上にダメージがデカかったんだよ」
「大事な話? 明日の攻略のことか?」
フラつきながらもテーブルから身を起こすユウトの言葉に玲が反応した。
「そうなんだよ。なあ、玲に楓。明日からのダンジョンの攻略なんだけどさ、やっぱり最下層を目指そうと思うんだ」
ユウトは居住まいを正し、真剣な表情で二人へとそう提案した。
全ては二人の魔力を一日でも早く増やすため、そして己の欲望を満たすために。
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