第34話 勇者の孫 義妹とダンジョンに入る
※すみません。予約投稿日間違えました。
「おや? 炎剣の愛娘じゃないか。今日は2人だけなのか? ん? ポーターを雇ったのか。おいおい、その男はプロテクターすら着けてないじゃないか。そんな素人を雇って大丈夫なのか?」
洞窟の入口のようなダンジョンの入口に着いたユウトたちは、そこで入ダン者のチェックをしていた協会所属の元探索者らしき中年の女性に止められた。
ちなみに炎剣とは翠の現役時代の二つ名である。彼女は剣と炎の魔法を扱うことからそう呼ばれていた。
「1階層か2階層くらいまでしか行くつもりはないので大丈夫です。兄の服もダンジョンの宝箱産の服を加工したのを母からもらった物なので」
そんな警備の女性に楓はユウトの腕に抱きつきながら笑顔でそう答える。
「兄? 炎剣にこんなイケメンの息子がいたなんて聞いたことがないよ?」
「あ、養子なんです。孤児院出身で、工藤家に拾っていただいたんです」
驚く警備の女性にユウトが笑みを浮かべながら答えた。
「へえ、そういうことかい。ふむ……ダンジョン産の服か。まあかなり鍛えているようだし、2人も炎剣の娘だしね。上層程度なら大丈夫かな。わかった、行っていいよ。でも無理するんじゃないよ?」
ユウトの鍛えられた身体と、有名な炎剣の娘たちなら大丈夫だろうと考えた警備の女性は、楓たちを通すことにした。
「はい、ありがとうございます」
楓たちはその女性に軽く頭を下げた後、自動改札機のような機会に探索者証と探索者補助証をかざしダンジョンの中へと足を踏み入れるのだった。
「なんとか上手く入ることができたな」
「第一関門突破だね」
ダンジョンに入ると玲がホッとしたように楓へと話しかけ、楓もそれに頷いた。玲も楓もさすがに探索者が2人では中に入れてくれない可能性があると考えていたようだ。母のことを知っている人で良かったと。
「やっぱこっちでも初心者用のダンジョンでは、ああいった人が見張ってるんだね。確か一つ星ダンジョンの場合は普通は6人で入るんだっけ? で、二つ星から10人以上だったか? それを2人ならそりゃ心配されるか」
ユウトはネットで調べた事を思い出しながら2人の会話に頷いた。
「うんそうだよ。二つ星ダンジョンは広いし深いからね。途中で魔力が尽きないよう、交代で戦闘をするんだ」
リルでは上級ダンジョンでもなければ、5人から6人パーティで入るのが基本だ。ただ、それは日本人の探索者よりも、リルの冒険者のほうが保有魔力量が多いからその人数で挑めるというのもある。魔力量が少ない地球の探索者では、途中で魔力が切れる恐れがある。だから人数を増やし、交代で戦うのだ。
「そのせいで襲い掛かってくる魔物の数も増えるんだがな。かと言って6人では途中で魔力切れになる」
魔物は人間の魔力を感知して襲い掛かってくる。感知した魔力の数が多ければそれに合わせた数でだ。その結果、探索者の人数が多ければ多いほど、出会う魔物の数は増える。だから魔力を持たない男のポーターの需要があるわけだが。
「魔力回復ポーションは滅多に宝箱に入っていないしみたいだし、結局は人数を増やすしかないんだよね」
「二つ星ダンジョンの下層の宝箱から5等級が手に入るらしいが、誰も手放さないからな。買うことも出来ないんだ」
「私たちは大量に持ってるけど」
2人の収納の指輪にはユウトが渡した、5等級と4等級の魔力回復ポーションが各50本ずつ入っている。
「ああ、ユウトには感謝してもしきれないな。さっきもその……助けてもらったし」
「そうだね、兄さんカッコよかったよ」
「え? そ、そう? うはっ! いやぁ、可愛い義妹のためならあんなのどうってことないよ。守るって約束したしさ。よしっ! じゃあ早く奥に行こうぜ! 兄ちゃん頑張っちゃうぞ!」
頬を赤らめる玲と照れ隠しなのかユウトの背をバンバン叩きながらカッコよかったと口にする楓に、ユウトは”好感度爆上げキター! ここはもっとカッコいい所を見せて一気に2人を惚れさせるぞ!” とテンションが一気にMAXとなり、二人の背を押して奥へと誘導するのだった。
「あ、ちょ。ユウト、そんなに急かさないでくれ!」
「に、兄さん! もうっ!」
そんなユウトに背を押された2人は、文句を言いつつもお互いに顔を見合わせクスリと笑い合うのだった。
エッチだけど強くてとことん
姉妹丼のことしか考えてない淫魔なのだが。
◇
洞窟型のダンジョン。
この洞窟型ダンジョンに限らないことだが、ダンジョン内は亜空間となっている。そのため洞窟と言ってもその通路は人が5人ほど横に並んで歩けるほど広い。
ただ、洞窟型と呼ぶだけあって壁や天井。そして道もゴツゴツしており歩き難い。岩壁や天井が薄っすらと光ってはいるので真っ暗ではないが、ライトを携行しなければまともに歩くことは出来ないだろう。
この魔狼ダンジョンは15階層からなっており、各階層は地図があれば戦闘の時間も含め、6時間ほどで次の階層にたどり着く事ができる程度の広さだ。
一つ星ランクと認定されているだけあり、分岐は多いが罠はない。魔物も素早いがそれほど強いわけでもない。まさに初心者用と言って良いレベルのダンジョンだ。一般の探索者は攻略に2年を要するが。
リルでは同じ初心者でも3ヶ月から半年で攻略できるレベルのダンジョンだが、そこはもともと保有している魔力量に倍以上の差があるので仕方がないだろう。
そんな洞窟型ダンジョンを電池式カンテラを持った2人の黒髪の美少女と、その後ろで軽薄そうな笑みを浮かべている茶髪の男が歩いていた。
「ずいぶんと人が多いな。一つ星ダンジョンはどこもこんなに人がいるの?」
玲と楓とともに洞窟型ダンジョンの奥へと進んでいたユウトだったが、当初の予定ではダンジョンに入ったらすぐに2人のローブを脱がして一気に下層まで走り抜けるつもりつもりだった。
しかし探索帰りと思われる集団と頻繁にすれ違うことから、なかなか玲たちのローブを脱がすことが出来ないでいた。
魔物は頻繁に現れるが、地上への出口が近いこともあり探索者の数は多い。ユウトのいる場所にたどり着くまでにことごとく狩られていた。
「異世界の一つ星、えっとE級ダンジョンだったかな? そこがどれくらいの探索者がいたか知らないけど、入口付近はこんなものだよ兄さん」
「夏休みということもあってうちの学園の生徒もいるしな。先ほどすれ違った者たちがいただろう。あれも学園の生徒だ」
「あ〜なんかこっち見て笑ってる集団がいたな。俺ってそんなに面白い顔をしてる?」
そういえばさっきすれ違った集団が、ヒソヒソとなにか話しながらこっちを見て笑っていたなと。とても嫌な笑みだったので、思わずカラコンが外れてないか確認したのをユウトは思い出した。
「ぷっ! 違うよ兄さん、あの人たちは私とお姉ちゃんを見て笑ってたんだよ」
「え? なんで? って、あの涼子って子の関係か」
ユウトは最初なんで玲と楓のような美少女がと思ったが、同じ学園の生徒だということを思い出し、先日買い物の帰りで会ったカールした黒髪をアップでまとめていた和風貴族のお嬢様関係かと考えた。
そしてそれと同時に嫌がらせだけじゃなく、学園で玲と楓をイジメているのかと思い怒りが湧いてきた。
「よし、兄ちゃんが話をつけに行ってやろう。それでもイジメをやめないなら、二度とダンジョンに入れない身体にしてやる」
「ちゃ、待てユウト! そんなことしなくていい! 私たちは別にいじめられてなどいない! ちゃんと学園に友人はいる!」
「そ、そうだよ兄さん。とりあえず落ち着こう。私たちのために怒ってくれるのは嬉しいけど、暴力は駄目だよ」
ユウトの極端で危険な発言に焦る玲と楓。先ほどの髭男への対応から、妹思いのユウトならやりかねないと思ったようだ。
その予想は正しく、ユウトは玲と楓のためなら間違いなくやるだろう。
「別に暴力なんか振るわなくてもダンジョンに入れなくできるんだけどな……まあ2人がそう言うなら手は出さないけど、でも本当に大丈夫か? もしイジメられたりしたらすぐ言ってくれよ?」
「必要ない。ユウトは手を出さないでくれ。これは私たちの問題なんだ」
「そうだよ兄さん、ちょっと過保護すぎだよ。私たちは大丈夫だから。本当にイジメとかは受けてないんだ。さっきすれ違ったのは、涼子と仲の良い子たちだったから。それでたった2人でダンジョンに入っている私たちを笑っていたんだよ」
「ケッ! 涼子って子に嫌がらせを受けた結果、たった2人でダンジョンに入らなきゃならなくなったって思われたわけか。どっちにしろ嫌な奴らだ。ならあいつらの鼻を明かしてやろうぜ? お前たちよりずっと下層に2人で行けたんだってさ」
ユウトは面白くないと鼻を鳴らした後、だったらさっきの奴らより下層に行ってやろうと玲と楓を鼓舞した。
「フフ、そうだな。ユウトに頼ることになるが、一日も早く魔力を増やして自力で行けるようにしたいな」
「こんなに凄い装備を借りてるんだもん、すぐに私たちのパーティだけでも行けるようになるよお姉ちゃん」
「ならこんな人の多い1階層でのんびり歩いている暇はないな。二人ともじっとしてろよ? ユウト、いっきまぁぁぁす!」
とっとと下層に行くべしと決断したユウトは玲と楓の腰を後ろから抱え上げ、まるでカタパルトから発進する人形機動兵器のように一気に前方へと駆け出した。
「え? なっ!? なぁぁぁぁ!」
「きゃっ! え? なに? きゃあぁぁぁ!」
玲と楓はエメラの背に乗せられたときのような悲鳴を上げる。しかしユウトはそんなの知らないとばかりに洞窟の中を光のごとく駆け抜けるのだった。
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