第35話 勇者の孫 義妹たちに興奮する



 よし、ここまで来れば大丈夫かな。だいぶ人が分散してるみたいだし。


 30分後。ユウトは2階層の中心付近で止まり、抱えていた玲と楓を下ろした。


「な、な、な、何をするんだユウト!」


「に、兄さん無茶苦茶すぎ……」


 いきなり抱えられて猛スピードで移動したことに玲はフラつきながらもユウトへ抗議の声を上げ、楓はその場でへたり込んでしまった。


「あはは、でももう2階層まで来たぞ? ここはちょうど中心付近だよ」


 そんな2人にユウトは謝ることもなく今いる場所を伝える。


「え? そ、そんな……確かに階段を降りる感覚があったような」


「あまりに早くて目をつぶっていたから全然分からなかったよ」


「本当にここは2階層なのか? 地図を持っていないユウトがどうやって階段を見つけたんだ?」


「闇の精霊が案内してくれたんだよ。闇の精霊はダンジョンのような薄暗い場所は得意でさ、そのおかげでダンジョンで迷うことはないんだ」


 ダンジョンは薄暗い。岩壁や天井が薄っすらと光ってはいるがその光は弱く、ライトやカンテラがなければまともに戦闘などできないだろう。そんな暗い場所が闇の精霊はその名の通り得意である。ユウトが頼めば下層に続く階段を探しに行ってくれる。そうしてユウトは100以上のダンジョンを迷うこと無く踏破してきたのだから。


「これも精霊魔法か。なんて便利な」


「本当だよね。地図があっても迷うことがあるのに。精霊魔法って便利すぎだよ」


「あはは、確かに便利だな。それ相応の魔力を渡さないといけないけどね。さあ、そんなことよりも、すぐに魔物が来るからローブを脱いで戦闘の準備をしてくれ」


 笑みを浮かべつつも、真剣な声で2人にローブを脱ぐように言うユウト。


「あ、ああ……そうだな。ここはもうダンジョンのしかも2階層なのだ。恥ずかしがっている場合ではないな」


「ううっ……いざ兄さんを前にするとそれでも恥ずかしいよ。でもそんなこと言ってられないよね。そう、水着だと思えばいいんだ」


 玲と楓は恥ずかしがりながらもローブを脱ぎ始めた。


 その恥じらい方はユウトには新鮮だった。リルでは魔王軍の置き土産である魔物や魔族という脅威が常に存在している。そんな環境で育った女性たちはたくましい。


 特に冒険者の女性は、常に命の危険にさらされていることから羞恥心という言葉を何処かに置き忘れていった者が多い。ダンジョン内で平気でトップレスになって身体を拭いたりする。


 その光景を見た時はユウトはラッキーとは思うのだが、そこまで興奮はしなかった。それが今はどうか? 目の前の2人は装備の上に着ているローブを脱ぐだけなのに、頬を赤らめて恥じらっている。脱いでも裸になるわけじゃない。それなのにトップレスの女冒険者を見た時の興奮を遥かに上回っていた。股間の勇者のひ孫も元気いっぱいだ。


 そして玲と楓が恥じらいながらとうとうローブを脱ぎ終えた。


「おおっ! 凄い! エ……似合ってるよ2人とも。本物の姫騎士と大魔女みたいだ!」


 恥ずかしそうに大きく開いた胸もとを手で隠す玲と、同じく胸と食い込みの激しい股間部分を手で隠している楓に思わずユウトは生唾を飲み込みながらエロイ! と、つい口に出しそうになったが、ぐっと堪えてなんとか無難に褒めることに成功した。だがその視線は片手で隠しきれないほど大きな2人の胸の谷間に釘付けとなっている。


「そ、そんなに見るなユウト」


「兄さんジロジロ見すぎ」


 玲はユウトの遠慮ない視線に顔を真っ赤にしながら上目遣いで睨み、楓も頬を赤く染めながらユウトをキッと睨む。


「ご、ごめん。あまりにも魅力的でつい……あ、本当に来たみたいだ。前方の十字路からこれは……一つ目狼の魔力だな。3匹来るよ。玲は前衛で、楓は後衛。討ち漏らしたのは俺がやるから落ち着いて戦ってくれ」


 さすがに不躾な視線を送りすぎたと思ったユウトは素直に謝った。するとユウトの感知範囲内にいた魔物の魔力のうち3つがこっちに向かってきていることに気がつき、玲と楓に指示をする。


「!? わ、わかった! 楓、いつもの通り頼むぞ!」


「う、うん」


 二人はユウトの指示にそれまで胸を隠していた手をどけ、収納の指輪からミスリルの剣とファイアーボールの杖を取り出し構えた。二人の手は心なしか震えているように見える。


 たった2人で魔物と向かい合うのはこれが初めてなのだ。ユウトがいれば大丈夫だということはわかっているが、身体が前回の探索で一つ目狼に噛まれたことを思い出し震えている。


 そんな2人の背から再びユウトの声が響いた。


「俺たち工藤兄妹の記念すべき最初の戦いだ! たかが雑魚狼3匹! 圧勝するぞ!」


「フッ、ふふっ、当然だ!」


「うん! 任せてよ!」


 ユウトの力強い掛け声に緊張で固まっていたはずの玲は不敵な笑みを浮かべ、楓は震えていた身体に喝を入れるかのように大きな声で応えた。


 そして玲が一歩前に出て剣を構え、その半歩後ろで楓が杖を前に出しいつでも魔法を放てる態勢を取った。


 ユウトも彼女たちの後ろで、2人を見守っている。



 後に”世界一の探索者”、”救世主”、”勇者”、”魔王軍”など、様々な呼称で呼ばれる事になる『勇魔兵団レギオン・オブ・ブレイブデビル』。


 その記念すべきダンジョンの初戦闘が始まるのだった。

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