第29話 勇者の孫 ほくそ笑む



「で、これが護身用の武器な」


 ユウトはそう言って空間収納の腕輪から、やたらとゴツくて黒い物体を取り出した。


 見た目は回転式銃のような形をしているが銃身がほとんど無い。シリンダー部分辺りがボコリと大きく膨らんでおり、良く言えば近未来的なデザイン。悪く言えば先端部の無いただのドライヤーのようにも見える。


「これって……銃?」


「拳銃の二倍くらいはあるが、引き金もあるしそうなのだろう。だがユウト、銃など魔力でできている魔物には効かないぞ?」


 楓は首を傾げ、玲も手に取り眺めながら不思議そうにしている。


「それは爺ちゃんが開発した魔銃っていうんだ。そこのシリンダーを横にずらして魔石を入れると魔弾が出る仕組みだ」


 ユウトはリルを離れる際に襲撃した王都から、大量のクドウ伯爵家製の魔銃や魔砲を回収していた。そのエネルギーとなる魔石もセットでだ。それを今回玲と楓の護身用に渡した。


「えっ!? 魔石の魔力をエネルギーとして撃てるの!?」


「なんと素晴らしい技術なんだ。しかもそれを大叔父さんが考案したとは」


 楓も玲も魔石の魔力を魔力弾として放出する技術に目を丸くして驚いている。


 地球では魔石の研究が進み、火属性の魔石は既存の化石燃料と混ぜることにより燃費が何十倍も良くなること。水属性の魔石からは水が生み出せること。土属性の魔石は大地に撒くことにより食物の生育が早まることなど、エネルギーや肥料としての技術は確立されている。


 しかし魔石自体から魔力を取り出し、それを収束させ放出させる技術の開発は難航している。それだけ魔力というものは扱いが難しいのだ。


 しかし自分たちの大叔父がそれを成功させ、今こうして目の前にその実物がある。驚かないはずがない。


「それでユウト、これにはどのくらいのランクの魔石を入れるんだ? 威力は?」


 魔銃に興味が湧いたのか、魔銃を手に持ち色んな角度から見ていた玲がユウトへ質問をする。


「魔石はDランクの物を使う。こっちだと二つ星ダンジョンの下層にいる魔物の魔石かな。弾数は10発で、威力は三つ星ダンジョンにいるオーガの皮膚を貫ける程度だ。ボスのレッドオーガも数を撃てば倒せるよ」


「ええ!? オーガだけでなくレッドオーガも倒せるの!?」


「三つ星ダンジョンのボスをこれで!?」


「まあね、でもこれに頼っちゃうと剣や魔法がいつまで経っても上達しないから、あくまでも護身用だ」


「それは……確かにそうかも」


「ユウトの言う通りかもしれないな。そもそも10発しか撃てないのでは、複数の魔物を相手するのは難しくなる。魔石の交換をする時に隙もできるだろうしな。それ以前に銃を撃ったことのない私たちが、素早く動く魔物に当てられるかという問題もある」


「そこはダンジョンで練習するしかないかな。まあそういうわけで取り敢えず所有者登録をしちゃうから、銃を持って魔力を流してくれる?」


「所有者登録? まさか魔力で個人を判別できるの?」


「そうだよ、さあ流してみて……そうそう、握りの部分が青く光っただろ? これでこの魔銃は玲と楓以外は使えない。登録の解除ができるのは俺だけだから安心して」


 魔銃はリルでもも厳格に管理されていた武器で、登録者以外は使えないようセキュリティ機能が付いている。管理者として登録されている人間しか所有者のリセットはできず、リルではその管理者に王家と軍の将軍。そして成人した勇者一族の者の魔力が登録されていた。当然ユウトの魔力も登録されている。


「なんだか異世界って中世くらいの文明だと思っていたけど、この魔銃やセキュリティを見ると地球とあまり変わらないように思えてきたよ」


「爺ちゃんが日本人だからな。地球の文明を結構マネて色々作ったって言ってたよ。魔銃は自分の魔力が無くなっても撃てるから、悪用されないようセキュリティにはかなり気を使ったらしいよ」


 ユウトの祖父の秋斗は、この魔銃をもともとは自領の村などの自警団がゴブリンやオーク。そしてオーガなどの襲撃から自衛できるようにと開発した。その際に悪用されないよう、セキュリティにはしっかりと気を配っていた。銃社会のアメリカの惨状を知る秋斗は、魔銃がいたずらに世に出回らないよう技術は秘匿し販売先も王国軍に限定するなど細心の注意を払っていたのである。


「あ、そうだよね。魔石をエネルギーにしてるから、魔力が尽きた時も使えるのか。だから護身用なんだね」


「なるほど、あくまでも魔力が切れて戦えなくなった時の護身用というわけか」


「そういうこと。じゃあ時間がないからジャンジャン行くね。次は魔導具マジックアイテムだ。取り敢えず収納の指輪を渡しておくよ。その他は二人の成長具合を見て順次渡していく」


 そう言ってユウトは空間収納の腕輪から、赤い宝石のようなものが付いている銀の指輪を2つ取り出した。


「収納の指輪? え? 収納ということは、もしかして兄さんがしている腕輪みたいなやつとか?」


「御名答。といっても下位互換もいいところだけどね。指輪に魔力を流して触れればそうだな……6帖の部屋に入るくらいの荷物を収納できるよ」


「ろ、6帖!? そんなに広い空間に!? しかも魔力を流すだけで!?」


「マジックポーチで1帖分だぞ!? それも間口に入る大きさの物だけだ。触れるだけで収納できるなら、ユウトのその腕輪のように入れたい物の大きさも気にしなくていいということか?」


「そうそう、俺の空間収納の腕輪と同じ使い方ができるよ。ああ、あと指輪の中の時の流れは外の半分くらいになっているから」


 先ほどから驚きっぱなしの二人へ、ユウトは可愛いなと思いつつも説明をしていく。


「指輪の中って時間も遅く流れてるの!?」


「そんな機能までついているのか……」


「まあそういうものだから、渡した装備と持っていきたい私物をこれに入れてくれ」


「うん、わかったよ!」


「よし、私からやってみるぞ……おおっ! 本当に指輪の中に収納されたぞ!」


「じゃあ私も! うわっ! 一瞬で目の前から消えたよ! あ、指輪から中に入れた物のイメージが伝わってくる。凄い! 楽しい!」


「じゃあ私物を入れたら出発するか」


「うん! 用意していた荷物も全部入れるよ!」


 テーブルの上にある装備を収納の指輪に入れてはしゃぐ二人に、ユウトは出かける準備をするように促すと楓は満面の笑みを浮かべ答えた。


 こうして大切な家族を守るという名目で所有している装備の中でもエロい装備を二人に着せることに成功したユウトは、内心で”計画通り”とほくそ笑むのだった。


 

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