第28話 勇者の孫 畳みかける



「え……これが魔法使いの装備?」


「こ、これが女騎士の?」


 テーブルの上いっぱいに並べられた装備に困惑する玲と楓。


「ああそうだよ。地球には存在しない英雄級の装備だよ」


 そんな二人にユウトは自信満々にそう告げた。


「英雄級?」


「ああ、高ランクのダンジョンから手に入る装備の中には、英雄級・伝説級・神話級装備ってのがあってさ、英雄級はB級ダンジョン。こっちでいうところの四つ星ダンジョンのボスを倒した時に現れる宝箱や、その上のA級やS級のダンジョンにある普通の宝箱なんかに入っている装備なんだ」


「これが四ツ星ダンジョンのボスの宝箱から出る装備……でも兄さん、これどう見てもレオタードにしか見えないんだけど」


「私のも全身鎧? にしてはずいぶんと露出が多い気がするんだが」


 二人の前に置かれた装備は、一つは銀で様々な装飾が施された蒼いレオタードと籠手・ロングブーツ・肩当て付きのマントに魔女ハットと呼ばれる三角帽子。


 そしてもう一つはスリムな形の白い全身鎧だ。この全身鎧は胸もとが大きく開いており、太ももも剥き出しである。さらには腰から鳥の羽のような形をした金属製のスカートが垂れており、そのスカートには白い水着のようなインナーが縫い付けられていた。これはいわゆるドレスアーマーと呼ばれる類いの鎧である。


「何千年も前の国の装備もあるって言ったろ? デザインに関してはそういう文化というか流行りだったんじゃないか? 少し露出が多い装備だけど、三ツ星ダンジョンでは手に入らない特殊効果付きの装備なんだ。まずその能力を見てみてくれ」


 露出が激しい装備に及び腰になっている二人にユウトは、空間収納の腕輪から鑑定のルーペを二つ取り出しそれぞれに渡した。


 玲も楓もユウトが希少な鑑定のルーペを二つも持っていることに一瞬驚いたが、今さらかと思いルーペでそれぞれの装備を覗き見た。


「装備名? 蒼天の魔女? へえ、装備に名前があるんだ。あ、英雄級ってちゃんと書いてある。え? これって水竜の革でできてるの!? それに魔法・斬撃耐性に自動修復にサイズ自動調整? マントにも似た効果が……な、なにこれ」


「こっちもだ……ベルムンドの姫騎士という名で同じく英雄級とある。そして日本でまだ数個しか見つかっていないミスリル金属でできている。そのうえ魔法・斬撃耐性に自動修復・サイズ自動調整……とんでもない装備だぞこれは」


「だろ? 英雄級から様々な特殊効果が付くんだ。装備の名前は前の所有者とゆかりのある物らしいんだけど、能力にはあまり関係ないから気にしなくていいよ。とにかくこれを装備すれば一つ星や三つ星ダンジョン程度で大怪我するようなことはないから」


 鑑定のルーペでとんでもない特殊効果があることを知り、驚愕している二人にユウトはそう補足した。


「すごい……これがあれば三つ星ダンジョンだって」


「ああ、何と言ってもミスリル製だ。この装備があれば思ったより早く目的を達成できそうだ。しかし……これを着て人の多い一つ星ダンジョンを歩くのか。かなり恥ずかしいな」


「確かにこれを着てポーターの男の人の前を歩くのは抵抗があるかも」


 玲と楓は強力な装備に心が引き寄せられてはいるが、年頃の女性ということもあり露出の激しさに抵抗を感じているようだ。


(やっぱりそう来たか。だがそんなのは想定済みだ!)


 だがユウトはこうなることを想定していた。


「ああ、そうそう。玲には剣も用意してあるんだ。はい、ミスリルの剣。鉄より軽く頑丈なうえに軽くて魔力をよく通すから、魔力の節約になるよ。あと二人には体温調整機能付きの大きめのこの白いローブも渡しておくよ。戦闘時は邪魔になるから脱がないとだけど、移動中はこれで全身を隠せるから」


 玲を武器で釣りつつ、露出した部分を隠せるローブを渡すことで一気に畳み掛けるユウト。


「ミスリルの剣も貸してくれるのか!? 母さんですら手に入れることのできなかったミスリル製の防具と剣を私が……」


「あ、銀の装飾が綺麗……これなら全身を隠せるしいいかな」


「もう少し露出の少ない装備があればよかったんだけど、女性用の高レア装備はどれも露出が多くてさ。というのも古代では軍がダンジョン攻略を受け持っていたらしいんだ。そのベルムンドってのも確か古代に栄えた王国だったと思う。多分王族自らが先頭に立って兵士たちを鼓舞してたんじゃないかな」


「なるほど。それなら納得かも」


「戦場で姫騎士がこれを纏い多くの兵士たちを率い鼓舞していたのか……うん、私は気に入ったぞこの装備!」


 姫騎士が兵を鼓舞している姿を思い浮かべた玲は、ドレスアーマーを熱い眼差しで見つめそう口にした。


「恥ずかしいけど、あのエメラという兄さんのドラゴンと同じ竜の革でできていて、これだけの特殊効果があるならそんな事も言ってられないよね。ローブもあるし、ありがたく使わせてもらうよ兄さん」


「そ、そうか! 良かったぁぁ」


 かくしてユウトの狙い通りの展開となり、二人の言葉にユウトは飛び跳ねて喜んだ。


 昨夜この装備を二人に着させるための段取りを遅くまで考えて良かったと。


 しかしそんなユウトを楓のジト目が襲う。


「なんでそんなに嬉しそうなのかな兄さん? まさかわざと露出の多い装備を選んだってことはないよね?」


「ば、馬鹿。そんな訳あるか。俺がいるからといって絶対に安全とは限らないからさ。でもその装備を着てくれるならまず安心だから、それで嬉しくてつい」


「ユウト……そこまで私たちのことを心配して」


「うーん、まあそういうことにしておくよ」


 ユウトの苦し紛れの言い訳に玲は感動し、楓は疑いつつも良い装備であることは確かなので納得することにした。


「あはは、じゃあ次は護身用の武器だな」


 なんとか誤魔化せたと胸をなでおろしたユウトは、次に二人に護身用の武器を渡すことにした。


「ん? ミスリルの剣を借りたばかりだが?」


「もしかして魔法の杖もあるの!?」


「護身用と言ったろ? あと楓の魔力量じゃ俺が持っている魔法関係の魔導具は扱いきれないよ。もっと魔力量を増やさないと」


 ユウトの持っている魔法の杖やロッドなどは、どれも楓の持っている物よりも上位の物ばかりだ。今の楓が使おうにもすぐに魔力切れを起こしてしまうだろう。


「そんなに凄い魔法の杖を持ってるの!? わかった! 私がんばるよ!」


 魔力量が増えれば今持っているものよりすごい魔法が使えるようになるかもしれないと思ったのだろう。胸の前で両手を握りやる気満々と言った感じだ。


「ははっ、まあすぐに増えるさ。で、これが護身用の武器な」


 ユウトはそう言って空間収納の腕輪から、やたらとゴツくて黒い物体を取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る