第12話 勇者の孫 双子姉妹と対面す
身だしなみを整えたユウトは、階段を降り居間の引き戸を開いた。するとそこには美鈴と談笑している美しい少女たちの姿があった。
一人はデニムパンツに黒のTシャツとボーイッシュでラフな服装のショートカットの女性。もう一人は白のワンピースに長い黒髪の清楚な女性だ。
(うおっ! 直に見るとほんとに可愛いな。いいなぁ日本の美少女。やっぱ俺にも日本人の血が流れてるんだなぁ)
ユウトは初めて間近で見る日本人の美少女の姿に思っていた以上に惹かれとことに、内心で日本人の血の影響なのかもしれないと納得していた。
そんなユウトに美少女の二人。玲と楓は探るような視線を送っていた。玲は露骨に眉を顰め、楓は笑顔を貼り付けたような表情でお互いにユウトを観察しているようだ。
「ふふふ、ユウトさん、見惚れてないでこっちに座ってください。二人を紹介しますから」
「あ、はいっ!」
美鈴に図星をつかれたユウトは、赤面しつつも美鈴の隣に座った。正面には玲と楓が座っている。二人の視線はユウトに固定されたままだ。
「じゃあ紹介するわね。ユウトさん、写真で見たからわかると思うけど左の子が孫の玲で、右の子がその妹の楓ね。玲に楓、お婆ちゃんの兄。二人にとっては大叔父のお孫さんのユウトさんよ。二人からはハトコになるわね。二人には後で説明するけど、ユウトさんはすごく遠いところから来た外国人なの。でもユウトさんは勉強熱心でね、日本語もペラペラなのよ。今後はお婆ちゃんの養子として日本に慣れるまではここに住んでもらう予定なので、二人とも色々と手助けしてあげてね」
「クドウ ユウトです。祖父が亡くなりずっと来たかった日本に来ました。美鈴大叔母さんのご好意でこのたび養子に迎え入れていただくことになりました。年齢は20歳になります。力仕事は得意なので何かあったら呼んでください」
美鈴の紹介に応えるようにユウトは背筋を伸ばし、礼儀正しい口調で話したあと頭を深く下げた。そんなユウトを玲は小さく鼻で笑い、楓は貼り付けた笑みのまま見つめていた。玲としては魔力のない男が力仕事で困ったら呼んでくれというのは失笑ものなのだろう。楓は笑みを浮かべたまま観察を続けているようだ。
「お婆ちゃんの兄に関しては、過去に色々あった事とかを二人も翠から聞いてると思うわ。でも今回は本物なの。だから信じて仲良くしてあげてちょうだいね」
「……はい」
「うん、わかったよお婆ちゃん。ユウトさんよろしくね!」
美鈴の言葉に玲は少し間を置いて答え、楓は満面の笑みを浮かべユウトへと挨拶をした。
「よろしくお願いします楓さんに玲さん」
「……よろしく」
「あはは、お姉ちゃんは人見知りが凄いからこんなだけど、すごく優しいんだよ。それでユウトさん、私たちまだ帰ってきたばかりでお婆ちゃんと話したいことがあるんだ。申し訳ないんだけど少し席を外してもらっていいかな? 夜に歓迎会を開くつもりだから、その時に色々と異国の話を聞かせて欲しいな」
「わかりました。私は部屋に戻ります」
楓が両手を合わせて謝りながら告げると、ユウトは笑みを返してそれに応えた。
「ごめんなさいねユウトさん」
美鈴もユウトが席を離れることを止めない。玲の態度から早急に二人は詳しいことを知りたいのだと感じたのだろう。
「いえ、お二人に信じてもらえるかはわかりませんが、私のことは全て話していただいて結構ですので。それじゃあまた夜にでも」
ユウトも玲の疑うような視線を見てそういった空気を感じ、自分のことは全て話して構わないと美鈴に伝えたあと部屋へと戻った。
♢♦︎♢
「うはっ! マジで可愛かったな楓ちゃん! しかも胸がデカイ! やっぱE、いやFはあるぞアレ! 玲ちゃんもツンケンしてて良かったな。Tシャツを押し上げる胸もボリュームもなかなか。Dってとこかなやっぱ。楓ちゃんにお義兄さんて呼ばせてえ! 玲ちゃんをクッ殺させてぇ!」
部屋に戻ってきたユウトは先程までの紳士的な態度はどこへやら、早速ベッドの上で寝転がりながら欲望を口に出していた。
「しっかし玲ちゃんは露骨に疑ってたな。楓ちゃんは笑ってたけど目がなぁ」
ユウトは楓の目が笑っていないことに気が付いていた。
「まあ疑って当然だよな。義母さん結構騙されてきたっぽいし」
初めて会った時のインターホン越しの疑心に満ちた声音と、先ほど玲と楓に今回こそ本物だと言ったことなどから、ユウトは美鈴が過去に祖父のことで騙されてきたのだと思った。
そのことを知っているであろう二人が疑うのも当然だと。それだけお婆ちゃん思いなんだろうと、二人の態度に納得する事にした。
今頃ユウトの出自の話をしているだろうが、果たしてどうなるか。ユウトはあまり期待しないで夜を待つことにした。
「探索者学園か、調べておくか」
ユウトは夜に二人と話す時に話題として出るかもしれないと思い、二人が通っている探索者学園のことを調べることにした。
「え? 二人ともエリートなの?」
探索者学園のことを調べたユウトは、二人がエリートであることを知り驚いていた。
探索者学園は全国に6つあり、その全てが一つ星ダンジョンのある地域に存在している。学園に入るには、中学2年生の時に全国で実施される魔力測定でE判定以上を受けないといけない。これは実に女性の100人に一人の割合であり、エリートと言っても差し支えないだろう。
「魔力保有量300でE判定ね。300てのがどれくらいかはわからないけど、どう見ても二人ともリルの一般人くらいの魔力しか感じなかったんだよなぁ。魔素濃度の差かな?」
ユウトの感覚は正しい。地球は魔素が薄いため、リルに比べ地球の一般人の魔力は低い。恐らくリルの3分1程度の魔力しか持たないだろう。その中で高い魔力を保有していると言っても、それでやっとリルの一般人クラスの魔力量となる。
ちなみにユウトが他人の魔力量がわかるのは、精霊と契約しているからである。精霊と契約すると精霊視という能力が手に入る。この能力は精霊が見えるようになるだけのものなのだが、副次効果として他人が保有している魔力量が大体だがわかるようになる。これは魔力体である魔物がいるダンジョンではかなり有効で、魔物の保有魔力量がわかることにより、どれくらいの強さか知ることができる。
ユウトは長年いろんな人間の魔力や魔物の魔力を見てきたことから、ほぼ正確に相手がどれくらいの魔力を保有しているかわかるようになっていた。
「まあリルの一般人程度だなんて言わぬが華ってやつだな。でもそれだとダンジョン攻略はリルよりも厳しいだろうな」
魔力が切れれば魔物と戦う術はなくなる。魔力量が増えればより上級のダンジョンに挑むことができ、魔力を節約できる武器やアイテムなどが手に入る。それを利用して下層へと行きさらに保有魔力量を増やしていく。だがまだ魔力量の少ない最初の頃はそういった装備がないので厳しい。
だというのに学園の生徒はリルの一般人程度の魔力量で授業での実習と、3年生からは生徒だけでダンジョンに挑んでいるようだ。
リルでさえ子供の頃からポーターをやりながらダンジョンに入り、魔力量を増やしてから冒険者デビューをするのが常識だ。人族の一般人がいきなり冒険者になるケースなど、没落した貴族の家系か獣人以外の異種族のハーフくらいだろう。
しかし日本ではリルの一般人程度の魔力量しか持たない者が、ポーターをやるでもなくいきなりダンジョンで戦っているようだ。これでは一つ星ダンジョンでも下層に行けば死亡率も高いだろうとユウトはそう考えた。
「ん? 探索者企業? ああ、なるほどね。そこで先輩たちに手解きを受けるのか」
ユウトは学園の卒業後の進路のページを開き、そこに軍の他に探索者企業の名前がずらりと並んでいることに気づいた。気になったユウトが探索者企業というものを調べてみると、どうやら探索者企業とは民間のギルドのようなものだった。探索者の半分以上がその企業に所属し、企業から様々な支援を受けより効率的に強くなりダンジョンを攻略していっているようだ。
「まあそれなら大丈夫か。つまり楓ちゃんたちはより大手の企業に入るために頑張ってるってわけね。これは力になれるんじゃないか? そして好感度を爆上げしていけば、いずれ二人が俺に惚れて姉妹プレイができるかも」
ユウトは強くなりたいであろう二人に自分が手助けをし、好感度を稼いで二人とエッチな関係になることを想像し顔をにやけさせていた。
♢♦︎♢
一方、美鈴の説明を聞き終え、何度か美鈴と言い合いをした結果。折れる形となった玲と楓は自分たちの家へと戻ってきていた。
「異世界人ね……どう思うお姉ちゃん」
楓はリビングのソファーに座り、帰ってきてからずっと向かい側のソファーで腕を組んで目を瞑り何事かを考えている姉へと声を掛けた。
「どう思うも何も、信じられるわけがないだろう」
「そうよね。どう見ても厨二病患者の妄想に騙されてるって感じだもんね」
楓はユウトの赤い目を見て一瞬驚きはしたが、カラコンだと思いその後はスルーしていた。そこに祖母から大叔父が異世界に召喚されて魔王を倒し、そこで生まれたのがユウトだと聞き頭を抱えたくなった。どう考えてもユウトは厨二病で、その妄想による作り話に騙されていると。それはあの赤いカラコンが物語っていると。
「だがお婆ちゃんはそれを信じている。まさかとは思うが、腫瘍の影響で信じやすくなってるのか?」
「うーん、お医者さんがそんなこと言っていた記憶はないけど、脳の腫瘍だしね。可能性はあるかも」
玲も楓も祖母が脳腫瘍を患っていることから、その影響であそこまで露骨な嘘でも信じてしまっているのではないかと疑った。
「どうする楓?」
「どうもこうもないよお姉ちゃん。お婆ちゃんは本気で信じてるみたいだし、目の前でもう否定はできないよ」
先ほど祖母の説明の最中に玲がそんなことありえない騙されているんだと言った際、祖母は悲しそうな顔でそれを否定していた。あのような顔はもう見たくないと、祖母のいないところで真相を究明するしかないと楓は改めて思っていた。
「それは……確かに私たちがいくら言っても無駄だろうな。悲しいことにお婆ちゃんは本気であの男を信じてる。いったいどんな手を使ったんだあの軽薄なスケベ男は」
「見た目は確かに良いし、話し方も紳士的だったけど……あの笑みと視線がねえ」
楓はユウトの視線が、途中から自分たちの胸に向いていることに気付いていた。女性は男のそう言った視線に敏感なのだ。リルではフツメンでしかなかったユウトがモテなかった原因の一つだろう。そしてユウトが爽やかだと思っている笑みは、楓たちにも軽薄そうな笑みに見えたようだ。
「どう見ても老人をたぶらかす詐欺師の顔だな。そしてあわよくば私たちもといったところか」
「だよねえ、私たちの胸をチラチラ見てたし」
ユウトの狙いは全て読まれていた。美鈴を騙してなどいないのだが、スケベな視線が全てを台無しにしていた。
「では予定通り」
「うん、夜にね」
ギルティの判定を下した二人は、母の指示通りに次の行動を起こす準備をするのだった。
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