第8話 勇者の孫 セフレ(地雷付き)を呼び出す



「やべっ! 面白え! やっぱオリジナルは絵もストーリーも最高だぜ!」



 日本に転移してきて3日目の夜。


 ユウトは部屋で真新しいスマホを広げ電子マンガを読み耽っていた。


 昨日夕方になり帰ってきた美鈴が、彼女名義でスマホを買ってきてくれてユウトへと渡した。さらにマンガ好きのユウトにマンガ読み放題のサイトと契約までしてくれた。


 あまりの嬉しさにユウトは飛び跳ねて喜んだ。そして美鈴に感謝の言葉を伝え、また1時間ほどスマホの操作方法とマンガを読む方法を美鈴に教わったが、パソコンより難しく電話の掛け方とマンガアプリの開き方とマンガの読み方を教わるだけで精一杯だった。


 操作方法をなんとか覚えたユウトは、夕食を食べて風呂に入ってから部屋にこもってスマホでマンガを読み始めた。


 スマホは美鈴が持っているのと同じ二つ折りタイプで、折り畳んだ状態でも開いた状態でも使える。主にHPなどの閲覧やマンガやアニメなどの動画を観る際に左右に開いて使う感じだ。左右に開くと画面は大きく、ユウトは特に読みにくさを感じることなく様々なマンガを読み進めていった。


「ぶはっ! 全然ストーリーが違うじゃん爺ちゃん」


 祖父が日本にあるマンガをパクって描いていたことを知っていたユウトは、自分が読んだ作品名と微妙に違うオリジナルのマンガを読み進めていた。しかしストーリーの展開が全く違う場面が多々あり、ユウトは祖父の記憶力を面白がりながら読み進めていた。


 そうしてスマホを手に入れた日は夜遅くまでマンガを読み、大昔のマンガなのにしっかりお色気シーンがカットされていることに不満を持ちつつも、気がつけば朝になっていた。そのまま寝不足の状態で美鈴と朝食をとって部屋で寝て、昼に起きてまたマンガを読むという引きこもりのような生活を送っていた。


 そうした引きこもり生活を送り、日本に来て四日目の夜。ユウトの下半身の我慢が限界に達した。


「あー、もう飽きた。ネタが欲しい。人肌が恋しい」


 ベッドでティッシュを腰の位置に並べ、持参したエロマンガを開いていたユウトは本を放り投げ枕に顔を埋めた。


 一度読んだエロマンガはたまに読むからいいんだ。毎日読んでも興奮などしないと、ユウトは心の中でボヤいていた。


「デリヘルとか呼べればなあ……でもここに呼ぶわけにいかねえし、金もねえしな」


 エロ写真を見れないことは諦めたユウトだが、しっかり日本の娼館探しはしていた。その結果、日本ではソープと呼ばれている娼館は絶滅していたが、代わりに呼べば家まで来てくれるマッサージサービスという物があった。最初ユウトはただのマッサージかよと思ったが、調べていくうちに男性専用の掲示板のようなサイトを見つけ、そこでデリヘルがただのマッサージではないことを知った。


 この女性の尊厳に関して厳しい日本でデリヘルが存在しているのは、過去に全ての性風俗を禁止したときに性犯罪が爆発的に増えたことが原因らしい。女性は魔力によって身体能力は高いが、探索者ではない一般人はそれほどでもない。1対1で男性を圧倒できても、1対3や1対5では敵うはずもない。性の捌け口を全て失った非モテ男性たちが、女性に対し集団暴行へ及んでしまったのも行き過ぎた抑圧による結果だろう。


 いくら罰則を強めようと減らない性犯罪に対し、さすがに抑制しすぎたと感じた日本政府は、規制を緩めマッサージという名目で性行為を行うことを黙認するようになった。


 そのデリヘル専用サイトを見たユウトは思わずガッツポーズを取った。そして同時にこの家に呼べないことと、そもそも日本のお金がないことに気付き肩を落とした。


 そこでユウトはお金さえあれば部屋を借りたりできるではと考え、繁華街に行って裏社会の人間にリルから持ってきた貴金属を換金してもらうことを思い付いた。しかし確実に足元を見られるし、荒事になる可能性もあることを考えると気が進まなかった。日本には監視カメラという物があることをマンガ知識で知っていたからだ。戸籍がない以上、警察の世話になることだけは避けなければいけないと。


 ユウトが大量に保有しているダンジョンアイテムはもっと換金しにくい。というのもダンジョンで得たアイテムは、探索者しか売買ができない決まりになっているからだ。そしてそれらの売買は国が全て管理をしている。闇で売ってそれが発覚するとかなり重い罪に問われる。毎年何人かの探索者がそれで捕まっている。これほど厳しいのは過去の戦争が原因だろう。仮想敵国に強力なアイテムが渡らないようにするための防衛措置と思われる。


「こうなったら仕方ない。リスクはあるが呼ぶか……絶対機嫌悪いだろうな」


 ユウトは悩んだ末、背に腹は代えられないとベッドから立ち上がり闇の精霊魔法を発動した。


「闇に精霊よこの部屋から出る音と振動を全て吸収してくれ」


 ユウトが精霊魔法を発動すると机の下や本棚の影から黒い小人サイズの精霊たちが集まり、部屋の壁全体を黒いカーテンで覆った。


 次にユウトは空間収納の腕輪から、拳ほどあるひし形の黒い宝石を取り出した。魔封結晶だ。


 魔封結晶を手にしたユウトは、『顕現せよカミラ』と言って魔力を流し部屋の入口付近に放り投げた。するとカッと魔封結晶から黒い光が放たれ、光が収まるとそこにはメイド姿の女性が立っていた。


 その女性はこの世の美を全て集めたのかというほど美しかった。背丈は175センチほどで白く透き通るような肌に黒を基調としたメイド服で身を包み、Fはあるであろう大きな胸とキュッと締まった腰。髪は輝くような長い銀髪をアップにまとめ、頭部にはホワイトブリムを乗せている。顔立ちはまるでエルフのように整っており、目元にある泣きほくろが妙に色っぽい。


 彼女の名はカミラ。ユウトによって魔封結晶化された魔族である。


「や、やあカミラ久しぶり。今さ、前に話した日本に来てるんだ」


 無表情でじっとユウトを見つめるカミラの視線に若干気圧されながらも、ユウトはやや早口で現在の状況を説明した。ちおなみに話している言葉はリルの言語だ。


「……そうですか。ここがニホン……おめでとうございますご主人様。念願のニホンへの送還、お祝い申し上げます」


「ありがとうカミラ。なんとか来れたよ」


 深く頭を下げ祝福してくれたカミラに、ユウトは少し照れながら答えた。しかし頭を上げたカミラの視線がスッと細くなっていることに気付き息を呑んだ。


「それで……送還されて今日は何日目ですか?」


「あ、いやっ……よ、四日目かな」


「初日ではなく四日……確か魔封結晶に戻るときにニホンに着いたらすぐに呼ぶと……そうおっしゃってらしたと記憶してますが?」


「そ、それなんだけどさ! ここって爺ちゃんの妹さんの家でさ! 色々あったんだよ色々! 俺だって会いたかったさ、でも環境が変わって混乱してたりもしてたしさ。悪かったよカミラ」


 無表情のカミラの背から立ち昇る怒気にユウトは焦り、思いつく限りの適当な言い訳をした。


「フゥ……仕方ないご主人様ですね。本当にいい加減なのですから」


 そんな必死に弁明するユウトにカミラは若干呆れつつも、少しだけ口元を緩めた。


「あはは、悪い悪い」


「それにしても……魔素が薄いとはいえあるのですね」


 カミラは無表情のまま、少しだけ視線を空中に向けそう呟いた。


「そうなんだよ、こっちにもダンジョンがあったみたいでさ。とは言ってもダンジョンが現れてまだ50年しか経ってないらしくて、カミラの言うとおり薄いんだけどね。魔力の回復はかなり遅くなるだろうけど、その辺は魔力ポーションでカバーできそう?」


「ええ、問題ありません。ただ能力が1ランク落ちるかもしれません」


 カミラは魔族だ。人間は魔力が無くなっても身体に影響はないが、魔族は魔力が無くなれば動けなくなる。魔力回復ポーションがあるとはいえ、それも無限にあるわけではない。魔力を作る素となる魔素の薄い地球では、能力をセーブするのは仕方ないだろう。とは言ってもカミラはSランクの魔族だ。能力をセーブしたとしてもその実力はAランク。日本軍と探索者が束になってかかってきても余裕で返り討ちにできるだろう。


「日本には魔物はいないから大丈夫だよ。情報収集もパソコンがあるし」


「ぱそこん……ご主人様のお持ちになっていたマンガというものにあったアレですか」


 カミラはユウトに何度かマンガを見せてもらったことがある。それを覚えていたのだろう。


「そうそう、もう情報収集とかで苦労かけることは少ないと思うからさ、ただ普段は影の中にいて欲しいかな。俺が一人で日本に来たことになってるからさ」


 ユウトはリルにいる時にカミラを情報収集要員として使っていた。それは彼女の魔族としての能力が、情報収集を行う上で非常に有効だったからだ。


「承知いたしました。夜のご奉仕はいかが致しましょう? ニホンに来て好みが変わったなどございますか? 確か黒髪が多い種族でしたね。髪を黒く致しましょうか?」


「夜の奉仕は頼むよ。姿はそうだな……黒目黒髪のカミラも見てみたいかな」


「承知いたしました」


 カミラはそう言って頭を軽く下げると、一瞬で髪と目とまゆの色を黒に変化させた。銀髪から黒髪になっただけだが、妙に艶かしさを感じる。


 カミラは一度見た姿へ自由自在に変えることができるドッペルゲンガーの上位種、ドッペルゲンガークイーンだ。もともとは魔王のメイドをしていたのだが、魔王が勇者に討たれ魔界に戻れなくなってからは人族の貴族の家をメイドとして長年渡り歩いていた。当然魔族がおとなしく人族にメイドとして使われるはずもなく、数々の家でお家騒動を起こしたりして暇潰しをしていた。そんなある日、ユウトに見つかり討伐され紆余曲折を得て魔封結晶化された。


「おほっ、なんかエロくなった。いいね、しばらくはその姿で相手してもらおうかな」


「フフッ、お任せくださいご主人様」


 ユウトに褒められたカミラは口元を緩めた。そしてメイド服をゆっくりと脱いでいき、真っ白な下着とガーターベルト姿になった所でベッドに腰掛けるユウトの前で跪き頭を下げた。


「ご主人様、こちらの世界でも末長くよろしくお願いいたします」


「あーまあ、世話になるよ。よろしくカミラ。それで避妊薬は……」


「フフッ、飲まないとの約束のはず」


「ですよねー」


 ユウトはダメ元で聞いた返答に、ガクッと肩を落とし項垂れた。


 これがユウトがカミラを呼ぶことに躊躇した理由である。


 ユウトはカミラを魔封結晶の魔法で隷属させたが、夜の奉仕を無理やりさせるのは抵抗があった。なのでカミラに夜の奉仕を頼んだところ、彼女は一つだけ条件を出した。その条件を呑んでもらえればユウトの好みの姿になるし、いつでも好きなだけ抱いていいと。その条件が奉仕の時に避妊をしないというものだった。悩んだ末にユウトは欲に負けその条件を呑んだ。


 多種族間では子供ができにくい。特に人族と魔族では普通の人族ならば生きている間に相手を孕ませることは難しいだろう。娼館勇者と陰で囁かれていた秋斗でさえ、魔族のサキュバスとの間に子を設けるのに100年の時を有した。


 ならなぜユウトはカミラのご奉仕に気が重いのか? それはユウトの身体には4分の1とはいえ魔族の血が流れているからだ。それはつまり妊娠の確率が上がるということにつながる。


 カミラはユウトに倒された時、その強さと魔族の血が流れていることに惚れた。それはもうベタ惚れだ。あらゆる姿に変わる事ができる種族の影響か表情の変化は乏しいが、早くユウトの子を身篭りたいと常に思っている。それこそ絶倫のユウトへの奉仕を完璧にこなせるほどに。


 そんな彼女を呼び出せば確かに夜は充実するだろう。しかし子供ができる危険性は常につきまとう。ユウトはカミラの身体に興奮はするが、それは作られた身体だ。カミラを倒した時に見た、彼女のドッペルゲンガーとしての真の姿を知っているだけに恋愛感情は持てないでいる。さすがにのっぺらぼうはキツイ。美形とかブサイク以前の問題だ。


 それでも子供ができるリスクがあるのにカミラに手を出してしまうのは、彼女がユウト好みの姿に変われるだけではなく鞘の中身も名器中の名器であるサキュバス仕様に変える事ができるからだ。そしてさらに絶倫の種族特性を持つユウトの責めにも耐えられる頑丈な肉体まで持っている。見た目も具合も最高な女性を前にして我慢できる男など存在しないだろう。


 ゴムが切れたのに欲に負け外で出せばなどと信じたいものだけを信じ、結果先走り汁で孕ませていたというオチのアレである。


「では、まず口と胸でご奉仕をいたします」


 避妊を断ったカミラは跪いたまま粛々とユウトのズボンを下に降ろし、ブラを外し白く形の良い大きな胸で挟んだ。そして唾液をたっぷりと垂らし胸を上下に動かしつつ、口を開いて舌を伸ばし奉仕を始めた。


「あ……う……き、気持ちいい」


 カミラのご奉仕に優斗は腰砕けとなり、その快楽に身を委ねた。


 孕ませてのっぺらぼうの子供ができる可能性など、ユウトの脳裏からは綺麗さっぱり消え去っていた。

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