第7話 勇者の孫 美少女双子姉妹の存在を知る



 日本に来て二日目の朝。ユウトは美鈴と共に朝食をとっていた。


 ユウトは食卓に並ぶ味の開きやひじき煮を箸で器用に摘みながら、テレビから流れる朝のニュースを眺めていた。


「ふふっ、お箸を器用に使うのね」


「ん? ああ、異世界にも箸はあるからね。というか爺ちゃんが広めたらしいんだけどさ」


 ユウトは自分が生まれ育ったリルを異世界と呼ぶことにした。ユウトにとっては現実世界なのだが、地球の人間にとっては異世界なので、リルと呼ぶよりも伝わりやすいと思ったからだ。


「あら、そうなのね。うちの孫の一人は不器用でね、今度教えてあげて欲しいわ」


「大叔母さんに孫がいんの? もしかして隣の家に住んでる?」


「ええ、今は夏休みで奥多摩のダンジョンに合宿に行っているから留守にしてるけど、数日後には戻ってくるからその時に紹介するわね」


「え? 奥多摩ダンジョン? 大叔母さんの孫って冒険者なの?」


「日本では探索者と呼んでいますね。孫たちは探索者専門の高校に通っているんです。今は3年生ですね」


「探索者ってうのか。そういえば昨日ネットでチラッと見たような」


 ユウトはダンジョンを調べていた時に、そんなような文字があったことを思い出した。


「危ないから反対したんですけどね。保有魔力量が平均よりも高かったことと、娘の影響や色々と思うところがあったのでしょう。探索者になるのを止めることができませんでした」


「そうなんだ」


 遣る瀬無さそうに話す美鈴に、孫が探索者になる時に色々あったんだろうなと思ったユウトは短くそう返すことしかできなかった。


 そして少しだけ沈黙の時間が流れ、ユウトは話題を変えるべく美鈴へと話しかけた。


「娘の影響って言ってたけど、大叔母さんの娘さんも探索者だったってことだよね? 俺から見たら叔母になるのかな? いや、なんか違うな」


 ユウトから見て叔母とは母親か父親の兄弟姉妹を差す。祖父の妹の娘ではそうは呼ばないだろう。


「ユウトさんのお母様の歳はおいくつなんですか? それによって呼び方が違ってきますね」


「お袋? いくつだったかなぁ、歳のこと聞くと魔法で絞め殺されるんだよね。多分80歳は超えてると思う。ああ、婆ちゃんが特殊な種族でさ、お袋はそのハーフだから人族より寿命が長いんだ。見た目も若いしね」


 ユウトの母はサキュバスのハーフなため、サキュバスほどではないが寿命は長い。そこに成人すると死ぬまで見た目の変わらないサキュバスの特性も重なり、見た目もかなり若い。ユウトもその血を引いているので老化速度は今後はゆっくりとなっていくだろう。


「そ、そうなんですね。色んな不思議な種族がいるんですね。そうなると娘より年上ですので、従伯母じゅうはくぼになります。ですがユウトさんは私の養子になる予定ですので、義姉になりますね。みどりという名前ですので、翠お姉さんと呼んであげてください。倍ほど年が離れてしまっていますが、ふふふ」


「なんか怒られそうな予感がするんだけど。でも俺ってあんまり歳とか気にしないんだよね。あっちだとドワーフの女性なんかロリっててさ、10代前半だと思ってたら50歳だったとかザラだし。エルフなんか見た目じゃほんとに年とかわからないし。だから会ったら義姉さんと呼んでみるよ」


「そうしてください。今は九州に単身赴任で勤めてますが、度々戻ってくるのでその時に紹介しますね」


「わかった、頼むよ義母かあさん」


「あら? ふふふ、可愛い息子ができて嬉しいですね。うちは女所帯なので」


「ん? てことは孫って女の子なの?」


「そうですよ? 探索者は女性しかなれませんし」


「え? あーそうか、男は魔力が無いんだもんな。こっちじゃダンジョンで戦うのは無理があるか」


 ユウトは地球の男性には魔力が無いことを思い出し、それじゃあダンジョンで魔物と戦うのは無理だろうと納得した。


 ダンジョンで発生する魔物は、魔界の魔物をコピーし魔力にて作り出されたいわば魔力体だ。見た目や色、そして皮膚やその硬さが本物と変わらないうえに、魔法などの特殊能力まで使えるが根本的には魔力で作られた存在である。このように生物ではなく魔力で作られている存在なので、魔力を伴った攻撃以外ではダメージを与えることができない。当然銃火器での攻撃は無効化される。つまり魔力を持たない地球の男性では魔物と戦うのは自殺行為に等しい。


「ポーターの仕事をしている方はいますけどね。ただ、仕事はあくまでも荷物持ちで、野営の準備や見張りなど探索者の補助に特化してますので基本的に戦闘には参加しません」


「ポーターね。異世界にもいたなぁ」


 リルにもポーターは存在した。そのほとんどが子供で、冒険者見習いという位置付けだ。冒険者は安くポータを雇う代わりに、ポーターに冒険者のノウハウを教える。そうして時代の冒険者を育てていくという仕組みになっている。


 異世界ではそういった位置付けのポーターだが、昨夜の男性差別とも言えるべき記事の数々を見たユウトは日本の場合は違うんだろうなと考えていた。


 しかしそんなことよりも、ユウトは気になったことを聞くことにした。


「それで孫たちって言ってたけど何人いんの? 高校生って何歳からなるんだっけ?」


「二人います。二人とも3年生で17歳ですね。双子なんですよ」


「17歳の双子か、義母さんの孫なら絶対美人でしょ。写真とかないの?」


 ユウトは17歳の双子と聞いて双子姉妹プレイとか最高だよな。などと内心ではエロいことを考えていたが、表面には出さず美鈴をおだてながらハトコとなる双子姉妹の写真をリクエストした。


「ふふっ、嬉しいことを言ってくれますね。確かに孫たちは二人とも美人ですよ、えっと、ちょっと待ってくださいね。ああ、これです。真ん中が娘のみどりで、右が長女のれい。左が次女のかえでです。二人とも優しくて良い子ですよ」


 美鈴はユウトの褒め言葉に機嫌良くテーブルの下に置いていたスマホを拾い、中に保存していた娘と孫の三人が写っている画像をユウトに見せた。


「か……かわいい」


 写真に映るハトコにあたる双子の姉妹を見たユウトは、その画像に目が釘付けとなった。


 中央の翠は30代前半くらいの見た目で、ブラウンに染めた髪を肩の長さで切りそろえている。顔は整っており美人なのだろうが、恐らくダンジョンで受けた傷なのだろう。片目を茜色の眼帯で覆っているせいで威圧感のある見た目になってしまっている。


 右に立っている玲は黒髪のショートで母親に似て顔立ちが整っており、切長の目には力があってそのせいか凛とした印象を受ける。ユウトは『くっ殺騎士っぽいな』と、しょうもないことを考えていた。


 左に立っている楓は長い黒髪を後ろでひとまとめにしており、顔は姉に似てはいるが瓜二つというほどではない。恐らく二卵性双生児なのだろう。整った顔立ちは同じだが、笑顔を浮かべていることから姉よりも接しやすい雰囲気を感じる。姉が大和撫子タイプなら、妹は清純派の美少女という感じだろう。


 しかしユウトの視線はそんな三人の美女と美少女の顔よりも、その胸部に集中していた。


(デ、デカイな。翠さんはE、いやFはあるんじゃないか? 玲ちゃんはDくらいか? 楓ちゃんはEはありそうだ)


 夏に撮った写真なのだろう。三人とも薄着で、その胸部がこれでもかと盛り上がっていた。


「あらあら、ふふふ、見惚れてしまいました?」


「あ、うん。三人ともあまりにも綺麗でさ」


 ユウトは慌てて視線を美鈴へと向け、胸なんて凝視してませんよと言わんばかりに三人の容姿を褒め称えた。


「そうでしょう? ユウトさんがどちらかもらってくれればいいんですけどね。二人とも結婚しないと公言していて」


「そうなの!? もったいねえ……こんだけ美人なら選びたい放題だろうに」


「お父さん子だったんですよ。でもまだ二人が幼い頃にに……それで自分より先に死ぬ男の人はいらないと」


「あー、そりゃそうもなるか」


 ユウトは美鈴の言葉に納得した。男の寿命が短い世界だ。そんな中でお父さんっ子てのはキツイ。そりゃもう好きな人に先立たれたくもなくなるわなと。しかしそれは裏を返せば、それだけ情に厚い子だということだ。ユウトはそんな二人に余計に興味が湧いた。


「ユウトさんは魔力を持ってますし、それならあの二人も受け入れるんじゃないかと思うんです」


「まあ長生きはするつもりだよ。間違いなく二人より長くは生きるけど、二人にも好みがあるだろうしね」


「ユウトさんの好みはどうなのですか?」


「ドンピシャ! 特に楓ちゃんは胸……じゃなくて笑顔が可愛いよね! 玲ちゃんも凛としててかっこいいし、惚れた相手には尽くしてくれそう」

 

 やや遠回しに孫は好みかと聞かれたユウトは、満面の笑みを浮かべ答えた。つい胸と口にしてしまったのはサキュバスの血のせいだろう。どうしても下半身にあるもう一つの脳の判断が先に来てしまう。ユウトの生態は永遠の16歳と言えばわかりやすいだろうか。


「あら、ふふふ、確かにうちの家系は大きいものね。男の子なら気にもなりますよね。でも外では気をつけてくださいね。女性の権利が強い世の中なので。昔はここまでじゃなかったんですけどね……いつの間にかこうなってしまって」


 ユウトの発言に笑って答えた美鈴は、一転悲しそうな顔で外ではそう言った言動をしないようユウトへ注意を促した。


「わかってるよ。昨日ネットで色々調べたんだ。正直行き過ぎだとは思うけど、義母さんには迷惑かけないから」


「私はいいんです。ただ、ユウトさんが傷つかないか心配で」


「あはは、異世界は貴族社会だったし、女性も結構気が強いんだ。だからそういうのは慣れてるから大丈夫だよ」


 ユウトは心配してくれる美鈴にを安心させるように答えた。


「そう、ごめんなさいね。私たちの世代が不甲斐ないばっかりにこんな世の中になってしまって」


「義母さんのせいじゃないさ。そういう時代の流れだったんだよ。民主主義国家で選挙に行く男女の数に差ができればさ、どっちかに偏ることもあるさ」


 民主主義は多数決だ。男性より女性が多くなり、政治家も女性ばかりとなればどうしても女性優位の社会ができてしまうのは仕方がないことだろう。日本も女性に選挙権が与えられるまでは、男尊女卑社会だったのだから。


「それはそうなのでしょうけど……異世界にも民主主義国家が?」


「いや? 専制君主国家だけだよ。ただ爺ちゃんがさ、領内で街や村の長を選挙で決めさせてたんだ」


「そう、兄さんが……兄さんは異世界で本当に色んなことをしていたんですね」


 美鈴は兄の異世界での生活を思い浮かべ微笑むのだった。と、その時。


「痛っ……」


「ど、どうしたの義母さん!」


 突然美鈴がこめかみを押さえ痛がる姿にユウトは慌てて立ち上がった。


「大丈夫……ただの頭痛よ……いつものことだから」


「頭痛か、なら俺に任せてよ。命の精霊よ義母さんを癒してくれ」


 ユウトはただの頭痛と聞いて安心し、美鈴の痛みを取り除くために精霊魔法を発動した。するとエメラルドグリーンの色をした小人サイズの少女たちが現れユウトの足もとへと集まってきた。ユウトは精霊たちに美鈴の頭の痛みを取るように頼むと、精霊たちは美鈴の頭に向けてに両手を向けた。すると美鈴の足もとから緑色に輝く蔦が現れ頭部を包み込んだ。


 数秒の後、治療を終えたのだろう。緑色の蔦と精霊が消えていった。


「え? 痛みが無くなった? すごい……これが精霊魔法」


「よく行く宿屋の看板娘がさ、頭痛持ちでよく精霊魔法で治してあげてたから慣れたもんだよ」


 宿屋の看板娘ではなく娼館の娘なのだが、女性にそんなことを口にするほどユウトも馬鹿ではない。


「そうだったんですね。ありがとうございますユウトさん。すごく楽になりました。いつもなら薬が効くまで動けないのですが、こんなに早く痛みが引くとは思いませんでした」


「精霊魔法は即効性がウリだからね。また痛くなったらいつでも言ってよ。すぐに治してあげるからさ」


 ポーションでも痛みは治るが、精霊魔法ほどの即効性はない。ユウトは一刻でも早く痛みを取り除いてあげたかったので精霊魔法を使った。


「はい、その時はまたお願いしますね。ありがとうございますユウトさん」


 それから二人で少し話した所で少し話し、美鈴が友人と約束があるため出掛けると言うのでユウトは部屋へと戻った。


 ユウトも外に出て日本観光をしてみたかったが、美鈴に戸籍が取得できるまでは外に出るのは控えて欲しいと言われ大人しく従った。なにせ不法入国者なのだ、警察に職務質問されたら終わりの身である。それに美鈴が既に孤児院の管理をしている友人と、役所で働く友人にすでにユウトのことを相談してくれており、それほど時間が掛からずに養子縁組までいけそうだと言われたのもある。


 ここで下手に外に出て何かトラブルに巻き込まれ警察のお世話になったり目をつけられたりしたら、戸籍の取得自体が難しくなる可能性が高い。そうなったら自分のために動いてくれている美鈴に申し訳ないとユウトはそう考え、家で大人しくしていることにした。


 その日は部屋で日本社会や外国のことを色々と調べたりして過ごすのだった。





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