一之五
その名の通り城から見て
「なるほど……。この
と言った。
昨晩、この城の中庭に現れた肉人が指し示した方角に建っているこの
「ふむ……」
「なに?
うーん。なあんか見た感じ……別に、なあんも、無さそうですぜえ……」
幽鴳の隣に立っていた陸吾も、
「確かに、幽鴳の言う通りだ。華胥の地へ行く手がかりが、この
だが、夢の中の蒼頡がこの城に俺たちを呼んだ。そして、その城に数年ぶりに現れた肉塊の
どっちみち俺たちはこの導きを信じて模索するしか、他に手立ては無えってこった。
取り敢えずまあ、この中をちょいと手分けして探ってみてもいいんじゃねえか」
陸吾のこの言葉によって、五人はすぐさま
見張り番に事情を伝えると、蒼頡達五人は華胥の地へ行く糸口を見つけ出すため、
しかし幽鴳が言った通り、特段異常なものは、
何も成果の無いまま、時刻は昼四つ(午前10時頃)を回った。幽鴳が
三階にいた蒼頡が何かに気づき、ふと、
蒼頡のすぐ横で床板の隙間を覗き込んでいた与次郎が、蒼頡の動きが止まったことに気づき、顔を上げた。
見ると、蒼頡は窓の外の景色にじっと目を向けたまま、釘付けとなっていた。
蒼頡の隣に立っていた城の見張り番が蒼頡の見つめているものに気づき、少しだけ表情を
「
与次郎が立ち上がり、蒼頡と見張り番の二人と同じように、窓の外を眺めた。
物見窓の外を覗き見ると、遠くに大きな川が見えた。
「
見張り番が、続けて言った。
「江戸殿の命によって今、大掛かりな
この城が建てられるのと同じくして、城下の町も人が住みやすいよう、みるみるうちに開拓されて整っていっておるんです。川付近では新田も次々と作られておるんですが、昔からこの辺りは雨が多く、雨や嵐がくるたびに安倍川はしょっちゅう氾濫して洪水が起きるんで、
川に
見張り番の言葉を聞きながら、与次郎は今一度川付近を眺めた。
すると、
「向こうから、安倍川と合流するもうひとつの川が流れておりますね」
と、蒼頡が言った。
与次郎と見張り番が、確かめるように窓からまじまじと川を見つめ直した。しかし与次郎は、蒼頡の言う合流してくるという川がいったいどこから安倍川まで流れてきているのか、この物見窓からでは正直よく見えなかった。
「へえ。旦那は目が良いですね。
もうひとつの川というのは、
見張り番が答えた。
「
見張り番がそう説明すると、
「ふむ……なるほど。
それでその、ふたつの川同士がぶつかるその合流地点に、何か島が見えますね」
と、蒼頡が目をきらりと光らせながら言った。
見張り番が、驚いた様子で蒼頡を見た。与次郎は目を凝らしつつ物見窓から川をじろじろと眺めていたが、川の合流地点と思われる付近は、与次郎の目にはやはり、ぼんやりとした情景しか見えなかった。
「へえ。ここから見えるなんざ、あんたよっぽど目が良いや。
二つの川の合流地点には
ちなみに、藁科川の中洲にも“
実は、この“
見張り番はそう言うと、蒼頡と与次郎に向かって、その伝説というのを、生き生きと語り始めたのである。
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