第17話 クローブとナツメグをめぐる駆け引きいろいろ
「そうだったのか。それはすまなかった」
ジェフリーの頭は自然に下がっていた。アミリアの頭も下がっている。
「いやいい。
「……」
ジェフリーは当惑した。何と言っていいか分からなかったからだ。しかし、アミリアは違った。
「そうであればやっていただきたいことがあるのですが」
◇◇◇
「やってもらいたいことだと?」
「ええ、あなたたちは森エルフでしょう」
「いかにも」
「ならば木を育てたり、その実を収穫するのは得意ですよね」
「うむ。わしらは森の民だからな」
「良かった。では私たちの島に来てもらえませんか? 育ててもらいたい木と収穫してほしい実があるのです」
(あっ)
ジェフリーの頭の中で繋がったものがある。
「アミリア。育ててもらいたい木と収穫してほしい実って、あれのことか?」
アミリアはにやりと笑う。
「ご名答です。ジェフリー兄さま」
◇◇◇
実はマルク群島で奪い取ってきたクローブとナツメグの実に苗と挿し木用の枝は全部を王宮に献上したのではない。
半分はアジトに置いてから、献上に向かったのである。この事実はホラン王国はおろかイース王国も知らないことだ。
「しかし、アミリア」
ジェフリーは疑問をぶつける。
「結果的にこういうことになったからいいが、『
その質問にアミリアは頬を染める。
「そっ、そりゃあ、ジェフリー兄さまがエリザ姉さまを選ぶ可能性もゼロではないと思っていましたから。もしそうなったら、ジェフリー兄さまとエリザ姉さまがいちゃつくところなんか見たくもないですからね。私が艦奪って、
「
ジェフリーは右手の平で額を押さえる。
「前も言ったが、庶子とはいえ第二王女だろう。何でいつもそういう無茶を」
「侯爵令息から海賊の頭目になった人に言われたくないですよ。それに……」
アミリアは右目をウインクして見せる。
「結果的に良かったじゃないですか」
「まあ、そりゃそうだけど」
どこか納得がいかないジェフリーである。
◇◇◇
ガレオンと
久しぶりの自由を得、島に上陸したエルフたちの目に入ったのは、置かれていたクローブとナツメグの苗と挿し木用の枝だった。
エルフたちは顔を見合わせ、頷き合うと苗と枝に向けて駆け出した。
そして、苗と枝を前にあれこれ議論しだしたのである。
その光景を見たジェフリーはエルフの老人に問うた。
「どういうことなのだ? あれは?」
老人は微笑んで返した。
「ああ、
「ああ、俺はジェフリー。こっちの女の子はアミリアだ」
アミリアは「女の子」と言われたことに口を尖らせたが、ジェフリーはそのことには気づかなかった。
「そうか。よろしく。ジェフリーにアミリア。わしのことは『長老』と呼んでくれ。それでうちの部族のことだが……」
長老はエルフたちの様子をもう一度確認してから言う。
「わしらは森の民。木が大好きなのだ。みな初めて見る木に興味津々なのだよ」
「そうか。だが……」
ジェフリーはチラリとエルフたちを振り返る。
「船倉は薄暗かったから気がつかなかったが、気のせいか女性ばかりにも見えるが」
「ああ」
長老の顔が曇る。
「男衆はみんな他の部族との戦いに出かけていった。多くの者が死んだ。まだ戦っている者もいると思う。わしらは男衆たちの留守を狙われて捕らえられたんだ」
「そうだったか。つらいことを聞いて悪かった」
ジェフリーは頭を下げる。
「ところでクローブとナツメグの栽培はお願いしても大丈夫かな?」
長老の顔はまだ曇ったままだ。
「任せてもらいたいと言いたいところだが、なにぶん初めての木だ。不安がないわけではない」
そこに満面の笑みで割って入ったのはアミリアだ。
「そこは大丈夫です。長老。私がイース王立大学のナイト博士からクローブとナツメグの栽培について情報を集めてあります。メモ書きにしてありますので、これをエルフ語に訳して、エルフのみなさんに伝えてもらえれば」
「おおっ、それは助かる」
大喜びの長老を尻目にジェフリーは渋い顔。
「アミリア。クローブとナツメグのことはまだ国家機密だ。ましてや栽培方法などといったら、最高機密だ。どうやって聴き取ったんだ?」
「ふふふ。知りたいですか?」
不意に小悪魔のような表情を見せるアミリアにジェフリーはギクリとしたが、極力平静さを保つようにし、再度問うた。
「ああ、知りたいね」
「それは私が色仕掛けでナイト博士から聴き出したのです」
「なっ……」
ジェフリーの顔は真っ赤になる。
「おまえっ! 何やってんだっ! もっと自分を大切にしろっ! いくらなんでも無茶しすぎだっ! で、何をされたんだっ?」
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