第15話 優秀なる海賊指揮官アミリア

 アミリアの顔も赤面する。しかし、すぐに真剣な表情に戻った。

「だったら、どうしてあの場でアミリアを選ばなかったのです?」


 ジェフリーは赤面したまま、アミリアから目を逸らす。

「だってアミリアおまえ。あの流れじゃジェフリーは海賊稼業続けるしかないじゃねえか。こんな危ない仕事。いつまでもアミリアおまえにさせられるかっ!」


 その言葉を聞くやいなやアミリアはジェフリーに飛びかかり、その首を絞めた。

「もうっ、いつまでアミリアを子ども扱いすれば気が済むんですかっ! マルク群島でも一緒に戦った仲じゃないですかっ!」


「うぐぐぐ。まっ、待てっ! 首を絞めるなっ! 一緒に戦ったからこそ、アミリアおまえをあんな目にもう遭わせたくねえんだっ! うぐぐぐぐ」


「何度も言わせないでくださいっ! 私は十八歳ですっ! 一人前ですっ!」


「うぐーっ、そうは言ってもだな。ジェフリーから見ればアミリアおまえは守られるべきものなんだー。ケガとかさせたくないんだよー」


 パッ


 アミリアは急に締めていたジェフリーの首を離す。ジェフリーは呼吸を整える。

「よろしいです。そこまで言うというのなら、私が一人前である証拠を示しましょう。監視員の方っ!」


「はっ、はい」

 アミリアの呼びかけに監視員が対応する。


「南南西の方角に喫水線の下がった商船キャラックが一隻視認出来ますか?」


「はっ、はい。確かに視認出来ます。ホラン王国の国旗を掲げています」


(何だと)

 ジェフリーは慌てて自身に「千里眼」の魔法をかける。確かにいる。

「アミリア。いつから気がついていた?」


「今さっきですよ。でも、ジェフリー兄さんより早く気づいたみたいですね。操船の方。静かに気づかれないように、それでいて迅速に接近してください。大丈夫。商船相手は相当無理な積み方をしています。十分に追いつけます」


「「「「「へいっ、あねさん」」」」」

 アミリアの指示に海賊団員は手持ちの部署に散る。


「おっ、おまえらあ。頭目はジェフリーだぞ」


「まあまあ、ジェフリー兄さん。ここはアミリアに任せてみてください。あの商船キャラック……」


「?」


「相当やばいもの積んでいますよ」


 ◇◇◇


 「姿なき海賊団」の名の通り、あっという間に標的の商船キャラックに近づいた。


 気がついたらそこにいたガレオンに、商船キャラックは速度を上げて離脱しようとするが過積載が災いし、距離が取れない。


「操船のみなさん。見事な接近です。砲手の方、威嚇砲撃をしてください」


「「「へいっ」」」


ズドーンズドーンズドーン


 アミリアの命令一下、三門のカルバリン砲が火を噴き、砲弾がそれぞれ商船キャラックの至近の場所に着水し、大きな水しぶきを上げる。


 しかし、商船キャラックは一時的に停船するが、すぐにまた速度を上げ、離脱を図る。


「ふふふ。なおも逃げようとしますか。やばいもの積んでいると白状しているようなものですね。砲手の方、もう一度威嚇砲撃をしてください」


「「「へいっ」」」


ズドーンズドーンズドーン


 アミリアの二度目の命令に三門のカルバリン砲が再度火を噴く。三発の砲弾の着水地点はさっきより商船キャラックに近い。


「いいでしょう。海賊旗を揚げてください」


「へいっ」


 高々と掲揚される海賊旗。商船キャラックは観念したように停船する。


(ほうっ。鮮やかなやり方だねえ)

 ジェフリーはまるで何かの映像を見ているかのように感心して見ていたが、やがて、我に返る。

(いかんいかん。アミリアは第二王女だぞ。本来前線で海賊やるような人間じゃないんだ。認めちゃいかん)


 ◇◇◇


 ガレオンと商船キャラックは繋がれた。これから「姿なき海賊団」は商船キャラックに乗り込む。


「みなさん。くれぐれも油断しないように。相手方にはよくない輸送をしているというやましい気持ちがあります。そして、その気持ちから起死回生の逆襲を試みる可能性があります。相手方全員を武装解除して、縛り上げるまでは気を抜かないでください」


「「「「「へいっ、あねさん」」」」」


(何だよ、この気合いの入りよう。ジェフリーが指揮している時より凄いじゃないか)

 

半ば呆れて見ているジェフリーにアミリアが声をかける。

「ジェフリー兄さま。これからが肝心です。ついてきてください」


「あ、ああ」

 ジェフリーは頷いた。


 ◇◇◇


 アミリアの言葉通り、商船キャラックの乗員には不審な行動も目についた。


 しかし、事前のアミリアの指示が効いてか「姿なき海賊団」の者は誰一人気を抜かず、隙を見て襲いかかろうとする者は容赦なく手持ちの小銃の銃尻で殴り倒した。


 「姿なき海賊団」側の本気が伝わったのか、商船キャラック側は大人しくなった。


「船長は誰です?」


「あ、ああ。俺だ」

 かなりの肥満体の男が一人名乗り出る。


「船倉に案内してください。貨物を確認します」


「その前にこの縄をほどいてくれよ。案内しにくい」


「あなたたちが誠実だということが確認出来ればほどきます。それまでは我慢してください」


「俺たちは誠実だよ」


「それは船倉を見てから判断します」


「ちっ」

 船長は聞こえよがしの舌打ちをした。それは彼らが不誠実であることを示していた。

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