第12話 王宮攻防戦開始

「……」

(さすがエリザだ。本当に良くも悪くも知恵が働く。こういうふうにすればジェフリーが断りにくくなるというのをちゃんと分かってやがる)

 ジェフリーは唇を噛んだ。

(だが舐めるなよ。こっちだってジェフリーが王配になるのを断っても、エリザはアダムの扱いを酷くは出来ないのは分かっているんだ)


 決戦の時は近づいていた。


 ◇◇◇


 馬車が王宮の正門前に着くと両サイドにずらりと並んだ衛兵。


「女王陛下の大事なお客様をお連れした。みな礼をもって迎えるように」

 アダムが声を張り上げる。


(何だ。アダム君。普通にしゃべれるんじゃん)

 ジェフリーが突っ込みを入れる間もなく、衛兵たちは持っていた銃剣を立て、直立した。


(やれやれ)

 うんざりしてきたジェフリーはアダムに声をかけられる。


「こちらに。お召し物をお替えします」


(ああ、さすがにこの格好じゃまずいもんな)


 そう思ったジェフリーはアダムに促され、控え室に入る。


「ふっ、普通ならば、じっ、侍女がお召しかえをするところなのですが、じょ、女王陛下からご、ご自分以外の女性にお体に触れさせてはならぬと言われており……」


(すまんなあ、アダム君。つーか君、俺と二人きりになると緊張するのねって、おっ?)


 さすがのジェフリーもアダムがジェフリーの着替用に取り出した服を見て驚いた。

「アダム君。その服は?」


「はっ、じょ、女王陛下が、おっ、王配殿下には、こっ、この服を着用願うようにとのことで」


(くっ、エリザめ)

 その服はエリザがカール、当時のアドルフと婚約発表する二日前。エリザがジェフリーに結婚したい意思を伝えた時。その時にジェフリーが着用していた服だった。

(あの時に戻そうってのかい。エリザ)


 初めて見るジェフリーの緊張した顔はアダムを当惑させた。

「あっ、あああ、あのっ、王配殿下?」


「!」

 ジェフリーは我に返った。そうだ。アダムを困らせても始まらない。

「すまん。さすがに久々の大舞台だからな。ちょっと緊張しちまったわ」


「そっ、そそそ、そうですか。王配殿下でも緊張されるのですか?」

 こころなしかアダムはホッとしたような表情になる。


「当たり前だよ。俺だって人間だぜ」

 ジェフリーは笑顔を見せた。

(まあお互い人間だからタチが悪いんだが)

   

 ◇◇◇


 アダムの誘導で、王宮の大広間にゆっくり入って行くジェフリー。


 礼儀としてあまりキョロキョロ出来ないが、両サイドには宰相、財務大臣、海軍大臣、産業大臣と言った国の重鎮がずらりと座っている。


 その中に座っていたアミリアはジェフリーと目が合うと片目をつぶってみせた。


(うーむ)

 ジェフリーの緊張感は更に増した


 ゆっくりと前に進むとそれぞれ盆に載せられたクローブとナツメグが山と積まれている。今回の戦果の一部だ。


 その手前でジェフリーはひざまずく。やや後ろでアダムも続く。


 そして、向こう側の高いところに置かれた椅子にはイース王国国王エリザが座る。


 その声が響き渡る。

「『姿なき海賊団』頭目ジェフリー、このたびの功績見事でした」


 ◇◇◇


 ジェフリーは跪いたまま、淡々と答える。

「お褒めのお言葉を賜り、恐悦至極」


「それにしても見事でした。事前に敵を挑発し、ガレオンの方に敵兵力を引きつけておいて、時間を稼ぐ。その間にラ・レアルに乗った別働隊が最も離れた島に上陸し、クローブとナツメグの実ばかりでなく、苗や挿し木用の枝まで奪取する。そして、最後は証拠が残らぬようにその島を焼き払う。普通では考えつかない。賞賛に値します」


「恐れながら私は『海賊』。普通の手口では正規軍に力及ぶものではございませぬ。苦肉の策でございます」


「そのようなことはないでしょう。ナイト博士」

 エリザは大学に在籍する植物学者ナイト博士に声をかける。

「このたび取ってきた苗に挿し木用の枝。使えそうですか?」


 指名されたナイト。白鬚を蓄えた白髪の老博士はゆっくりと立ち上がる。

「ありがたいお話です。これだけたくさんの苗と枝を取ってきてもらえば、イース王国わが国での栽培もきっと成功するでしょう。イース王国わが国の気候はマルク群島より寒冷ですが、わが大学には最新鋭のガラス温室があります故」


「そうですか。期待しています。ナイト博士」

 エリザはナイト博士の回答に満足したように何度も頷く。


 そして、またジェフリーの方を振り向いた。

「では、このたびの大功に対する恩賞ですが、最初にクローブとナツメグの販売で上がる収益の三割ですね。これについては財務大臣」


 財務大臣が立ち上がり、軽く頭を下げてから答弁する。

「配当が本格化するのは生産が軌道に乗ってからなので、何年か後にはなってしまうでしょうが、収益が上がったら必ず配当します」


「とのことですが、よいですか? ジェフリー」


「ははっ、ありがたき幸せ」

 ジェフリーは深々と頭を下げる。


 エリザはそれを気にとめる様子もなく話を進める。

「では、二つ目の恩賞です。『姿なき海賊団』のイース王国わが国の海軍への編入ですが、これについては海軍大臣」


海軍大臣も立ち上がり、軽く頭を下げてから答弁する。

「島国であるイース王国わが国の防衛のための軍人と艦船はいくらあっても足りないくらいです。我が海軍は『姿なき海賊団』の編入を歓迎します。既にある三つの艦隊に加えての新しい第四艦隊としたいと考えています」


「そうですか」

 エリザは海軍大臣の答弁に満足したかのように微笑む。

「これもよいですか? ジェフリー」

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