第9話 イース国王エリザ登場
一日で出港? と驚くアドルフの部下たちの声に港の者は賛同した。
「わしもそう思うよ。既に着岸していたラ・レアルの横にガレオンを着けて、ラ・レアルに積んであった貨物を大急ぎでガレオンに移していた。ラ・レアルは喫水線が下がるほど貨物を積んでいたからね。移し終わったら、また大急ぎで弾薬に水と食糧を積んで出港していった。ガレオンは結構傷んでいたから修理した方がいいよって言ったんだけど、『急ぐから』って言って行っちゃったよ。出るときはガレオンとラ・レアルで艦隊組んで出て行ったね」
(一隻ではなかった。ラ・レアルもいた)
アドルフは少し驚いたが、ある意味当然だった。ラ・レアルには放火した別働隊が乗っていたのだ。そうとしか考えられない。
しかし、逆に謎は深まった。二隻で来たなら何故二隻で攻撃しない? 何故貴重な一隻を大して効果の望めない小島の放火に回す?
「王室の諜報部に調べさせましょう」
レオニーは淡々と言った。
◇◇◇
その艦がイース王国王都の外港イースタンプトンに入港せんとした時、港の役人はそれを止め、しばらく沖合に停泊するように命じた。
艦種こそは一線級の戦闘艦ガレオンだったが、艦体は損傷でボロボロ。艦長は黒髪を自分で短く刈り込んだらしい虎刈りで無精ひげをはやした男。周囲も見るからに海賊だったからだ。
同行していたラ・レアルの方は艦体は綺麗で、艦長は役人も知っている女王付の特別秘書アミリア オブ グランヴィルだったものだから丁重に迎えられた。
しかし、アミリアから今回の入港の目的を知らされると港の役人の態度は一変した。
「これはこれは失礼いたしました。国王陛下の依頼を受けての戦闘だったそうで、お疲れ様でございました」
ジェフリーは内心うんざりしたが、相手も宮仕えだからと思い直した。
「詫びはいい。そんなことよりこの艦とラ・レアルの貨物を急いで大学まで運んでくれ。国家の命運を左右する代物だぞ。気を付けて運んでくれ」
「はっ、それはもう丁寧かつ迅速に運ばせていただきます。ところでジェフリー様は今夜のお宿はお決まりで?」
「俺は海賊の頭目だぞ。そんなもん決まっているわけがない」
「では。ではでは」
役人はもみ手を始めた。
「当方で最高級のお宿をご用意させていただきます。それでどうか先程の失礼は女王陛下にはご内密にいただけると」
(はあっ)
ジェフリーは内心溜息を吐いた。しかし、相手は宮仕え。やむを得まい。だけど、自分はもう二度と宮仕えはしたくない。そう思うジェフリーだった。
「俺に最高級の宿は用意してくれなくていい。その代わりに俺も含めたガレオンとラ・レアルの乗員全員にちゃんと雨風しのげる宿とそこそこ旨い飯を用意してくれ。こいつらはイース王国のため戦って、長旅から帰って来たんだ。それに俺は女王には何も言わん。頭下げたらそのままアジトに帰る」
「ありがとうございます。本当に皆様と同じ宿でよろしいので?」
「ああかまわん「待ちなさい」
へ? とジェフリーが振り向くとそこには仁王立ちしたアミリアが。
「この方は
途端に笑顔になる役人。
「そうでございましたか。それは無粋を申し上げました。早速に馬車の用意を……」
「待て待て待ていっ!」
慌てて止めに入るジェフリー。
「
「えっ、えーと」
役人は困惑するが、アミリアの仁王立ちは変わらない。
「多少の順番の前後は許容範囲です」
「そんなわけあるかっ! おい役人っ! 知ってのとおり、
役人の顔色は蒼白になった。
「どっ、どっ、どうすればよろしいので?」
「ちょっと待っていろ。『睡眠』」
魔法力はまだジェフリーの方が上だ。瞬間的に眠りに落ち、崩れ落ちそうになるアミリアをジェフリーが支える。
「よしこのまま馬車に乗せるぞ。乗せたら王宮まで送り届けろっ! 俺はその後他の連中と一緒に指定の宿に行く」
「はっ、はい」
かくしてアミリアは王宮に送り届けられたのである。
◇◇◇
アミリアが目覚めた時にいたのは王宮内の自分の部屋だった。
ガバリと飛び起きたアミリアは同時に叫んだ。
「ここはどこ?」
「ご自分のお部屋ですよ。お帰りなさいませ。アミリア王女様」
声をかけたのは侍女のマリアである。アミリアが生まれた時からの彼女専門の侍女である。
「あ、マリア。ただいま。ねえ、あたしどのくらい寝ていたの? 今の時刻は?」
「そりゃあもうぐっすりお休みになられていましたよ。何しろ遠征からのお帰りですからね。疲れも出たんでしょう。もう真夜中ですが、よろしければ何か食べるものをお作りしますよ」
「真夜中!」
アミリアはベッドから飛び降りる。
「こうしてはいられません。私は出かけてきます」
「こんな真夜中にどちらに? 馬車を用意しましょうか?」
「馬車は不要です。食事も要りません。ではちょっと出かけ……
自らの部屋のドアを開けたアミリアの目に入ったのは、腕組みをした実の姉イース王国国王エリザだった。
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