第8話 レオニーもただ者にあらず
「どうします。撃ち落としましょうか?」
アミリアの言葉にジェフリーは首を振る。
「やめとこう。魔法力使うのがもったいない。この艦は今回中立であるポルト王国の港であるメレッカに入る。メレッカに入ってからも『偵察鳩』飛ばしたとなりゃあ、今度はアドルフのいるホラン王国がポルト王国にケンカ売ったことになる。アドルフもそれは出来ないさ」
その通りだった。
ジェフリーの指揮するガレオンがメレッカに入港するところまでしか「偵察鳩」は追跡できなかった。
そして、ホラン王国の要塞を攻撃したイース王国の艦が最寄りの中立港であるメレッカに入港し、修理を行うことには何の不思議もない。
アドルフの放った「偵察鳩」は新しい情報を何も得られなかったのである。
それでも「偵察鳩」が去ったことを確認したジェフリーは安堵した。
「アミリア。『偵察鳩』はいなくなったよな?」
「はい。
「アミリアが
「そうですね」
アミリアはにやりと笑う。ここまで策がはまった会心の笑みだろう。
「ともかく早いとこ作業を終わらせてイース王国に戻るぞ。帰路ケチがついたら、今までの苦心が水の泡だ」
「そうですね。私は
「まあとにかく急いで作業をしよう」
「露骨に話題を逸らさないでください」
◇◇◇
アドルフ配下の一部隊が東マルク島に到着した時にはもう既に燃えるものはほぼ焼き尽くされていた。また、敵兵の姿も全くなかった。
もともと東マルク島は群島の中でも離れたところに位置し、風向きによっても火の粉で他の島に影響を与える心配は要らなかった。
そして、東マルク島のクローブとナツメグの林を丸焼きにされたのは確かに打撃ではある。
但し、マルク群島全体から見れば東マルク島のクローブとナツメグの生産量は3%あるかないかくらいだ。生産販売には全く影響がないと言っていい。
更にはジェフリーが指揮したガレオンの砲撃による要塞の損傷は修理の必要もないくらい軽微だった。
(これではまるでジェフリーもエリザも『いやがらせ』をするためだけにマルク群島に来たかのようだ)。
もちろん「いやがらせ」が全て無意味ということはない。相手方のメンタルは削れる。
但し、あまりと言えば効率が悪い。ガレオン一隻だけでもイース王国からマルク群島まで回航すれば、安くない費用がかかる。
更に女王まで同船させるとなると。
他に可能性としてあるとすれば、エリザはともかくジェフリーがメレッカ港を策源地として、この「いやがらせ」を繰り返し行うことだ。
だが、今度はこちらも別働隊に放火されないよう気を付けるし、繰り返し行うということはジェフリーもガレオンごと沈められる可能性が上がるということである。
それが分からないジェフリーではあるまい。
(分からない)
一人司令室で考え込むアドルフ。
そこでゆっくりと扉が開く。
「レオニー」
「アドルフ様。お疲れのようです。見張りは部下の方たちにお任せしてお休みになられては?」
「気遣いはありがたい。しかし、どうにも気になることがあってな。寝付けそうにない」
「あのそのお話。私には分からないかもしれませんが、お話していただけませんか。話すだけでも救われることもあるかもしれません。私たちは夫婦ですし」
「…… 分かった。実はな。今回、攻撃してきた艦の提督はジェフリーと言って、昔から知っている男だ。だが今回の攻撃は腑に落ちないことが多すぎる。一つはたった一隻で攻撃してきたことだ。今までこの要塞は大艦隊による攻撃も全て撥ね返してきた。そのことを知らないはずがないのに何故一隻で攻撃をしてきたのか分からない。もう一つは何故東マルク島だけ焼いたかということだ。あの島一つだけ焼いたところで大勢に影響がないことは分かっているはずだ」
「……要はそのジェフリーという男の行動の理由が知りたいのですね」
「そうだ」
「今、そのジェフリーはどこにいるのです?」
「メレッカ港に入るところまでは確認したが、それ以上は『偵察鳩』で追うことは出来なかった。ポルト王国に警戒されることになるしな」
「ならば……」
レオニーの目が光る。
「こちらも今回の戦いで消費した弾薬や食糧を補充するという名目でメレッカ港に船を入れてはどうでしょう。取引に行ったということであれば、ポルト王国を挑発したことにならない。いくらかこちらで取れたクローブとナツメグを持っていき売りたいと言えばより良いでしょう」
「おおっ」
妻のアイデアにアドルフの心に希望が湧いていく。
「それでもジェフリーとやらの意図が分からぬのなら、私が
レオニーの目は今度は暗く光った。
「アドルフ様を悩ませる者は何人たりとも許せないのです」
翌朝、日の出と共にアドルフ麾下の商船はマルク群島の港を発ち、その日のうちにメレッカ港に入った。
アドルフの部下たちはジェフリーとガレオンの行方を捜したが、何と既に出港した後だったのである。
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