第7話 マルク群島攻防戦終結
今まで休んでいた分を取り戻そうとするかのような猛烈な砲撃がガレオンを襲った。
「そうら、おいでなすった。時間稼ぎは終わりだー。砲手は全員砲撃をやめて、甲板から船室に退避―。観測員はもう要塞の砲撃を観測しなくていい。もう一方の方だけ見とけ」
ジェフリーの指示に砲手はわらわらと船室に集まる。
「うおおおおお」の悲鳴。一段と大きな「波濤」の魔法がガレオンにかかり、大きく揺れ動いたのだ。
「えーい。『安定』『安定』。くっそー、やはり、
「ジェフリー兄さま。あたしも魔法防御に加わります。『安定』」
「おお、そうしてもらえると助かる。『安定』」
「ふふ。初めての共同作業ですわね。『安定』」
「反論入れてえが、その余裕がねえ。『安定』」
そこを更なる「波濤」が襲う。ジェフリーとアミリアは何とか踏みとどまったが、多くの者が船壁に叩きつけられた。
「くっ、被害状況を報告してくれ」
「はっ。お頭。死亡者ゼロ。負傷者多数」
アミリアが顔色を変える。
「重傷者はおられますか? 『治癒』の魔法をかけましょうか」
笑顔を見せる海賊団員。
「
「ありがとう。あたしたち二人の共同作業で必ずこの艦を守ります。『安定』」
「もう突っ込む気力も残ってねえよ。『安定』」
◇◇◇
それから昼に再開された要塞からの砲撃は日が沈んでも、そしてまた日が昇り、再度の日没を過ぎても続いた。
ガレオンは操舵員と観測員は椅子などに体を縛り付けて、その役目を果たし続けた。
他の船員は床にへばりついて、艦の大きな揺れに耐えた。
ジェフリーとアミリアも床にへばりついて、体力を温存し、魔法防御を行い続けた。だが……
「アミリアー。あとどのくらい魔法力が残ってるー? 『安定』」
「多分、もう残っていません。でも魔法防御は続けます。『安定』」
「そうか。
「『あんて……』。あ、あたしもです。魔法が発動しない」
「みんなすまねえ。もうちょっと『波濤』攻撃を耐えてくれって、おっと、でかい揺れが来たあ」
「みなさんすみません。耐えてください」
「くそっ、まだかまだか。観測員。まだなのか」
◇◇◇
「おがじらー。見えまじだー。後方に火の手をがぐにんじまじたー」
観測員からガラガラのやっと絞りだした声が聞こえた時、ジェフリーは体を何とか起こした。
「この魔法だけは発動してくれよ。『千里眼』」
その願いは叶った。ジェフリーの目にはマルク群島の一つの島でクローブとナツメグの林が赤々と燃えているのが映った。
「やった! やったぞっ! 全員立てっ! 撤退だっ! 目標はメレッカ港!」
「「「「「へいっ!」」」」」
床にへばりついていた海賊団員たちは立ち上がった。これから先は全力で逃げるのみ。
◇◇◇
「総督。東マルク島で火災。どうやら敵の別働隊が放火した模様です」
「何? やられたのは東マルク島だけか」
「はっ、確認したところ、そのようであります」
東マルク島。それはマルク群島の南東の端にある小島。群島の中でも北西寄りに位置する要塞からはいささか遠い位置にある。
「千里眼」
アドルフの眼にも確かにクローブとナツメグの林が燃えているのが見えた。
「総督。どうなさいます。消火のための部隊を派遣しますか?」
「いや、ちょっと待ってくれ」
アドルフは考え込んだ。
(一番懸念されるのはこの放火がジェフリーの陽動であることだ。離れた小島に
そんなアドルフのところに続報が届く。
「総督。敵ガレオンが撤退を開始しました。追撃しますか?」
「何?」
アドルフは更に混乱した。
(要塞から最も離れた小島に放火する。そして、要塞を攻撃してきたガレオンが撤退する。分からん。ジェフリーの狙いが読めん)
焦燥感から言葉を失うアドルフ。だがすぐに自分を取り戻す。
(いかん。ここで焦ってはそれがすぐ周りに伝わる。ここで一番警戒しなければならないのは要塞を手薄にした隙を狙われることだ)
「監視員」
「はっ」
アドルフの呼びかけに答えはすぐ来る。
「撤退していくガレオン一隻の他に敵影はあるか?」
「ありません。その一隻のみであります」
「むう」
アドルフは一声唸り、すぐ指示を出す。
「一部隊だけ東マルク島に派遣して消火作業に従事させろ。但し、敵兵と遭遇したら、絶対無理せず、早急にその情報を報告したうえで、交戦せずに待機。援軍を待て。そして、撤退していくガレオンは追撃するな」
「はっ」
「それでだ」
アドルフはひとりごちた後、一羽の鳩を放つ。
(今回はさんざんジェフリーの鳩に振り回されたからな。せめてものお礼だ)
◇◇◇
「おがじらー。ざっぎがら変な鳩がづいでぎまずぜー」
艦の観測員の喉はまだ治ってないらしい。
「変な鳩? どれ『千里眼』」
休養で少し回復した貴重な魔法力を使ってジェフリーは見る。
「ああ、ありゃあアドルフの放った『偵察鳩』だな。こっちが何考えているんだか知りたいんだろうよ」
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