第5話 マルク群島攻防戦開始

「私はこれからときの声を上げます。ついてきてくれる方は合わせてときの声を上げてください。いいですか。いきますよ。エイエイオーッ!」


 ???


「エイエイオーッ!」


 エイエイオーッ!


「エイエイオーッ!」


 エイエイオーッ! エイエイオーッ!


 ワーッ


 場は一気に盛り上がる。どうやら全員参加のようだ。


(何なんだよ。これ)

 ジェフリーは当惑した。

(何で海賊団員たちこいつらジェフリーの言葉よりアミリアの言葉で盛り上がってんの。頭目、ジェフリーだよ)


「うおおおー、やったるぜい」

「ホラン王国何するものぞー」

あねさん、ついていきますぜ」


(だから、頭目はジェフリーだってえの。それにあねさんって、アミリアはまだ十八歳だぞ)


 ジェフリーのそんな思いとは全く関係なく、出航準備は大盛り上がりで進んだ。もちろん、海賊団の戦闘艦ガレオンばかりでなく、アミリアが乗ってきたラ・レアルもである。

  

(でもまあ、こんだけ盛り上がってるんなら俺もやったるか)

 ジェフリーは思い直した。


 ◇◇◇


 その時、マルク群島総督アドルフ公爵は全裸で就寝中であったが、その気配に起き上がった。脇には彼の妻レオニーがやはり全裸のまま安らかな寝息をたてている。


 視線の先には一羽の鳩。


(暗殺鳩か? いや……)


 鳩は鳴くわけでもなく、その腹部を堂々と見せつける。


(イース王家の紋章。暗殺鳩にそんなもの付ける馬鹿はいないか。ならば、伝言鳩か)


 アドルフは右手の小指を振る。

(イース王家が今更何の用だ? まあ話だけは聞いてやろう)


 鳩はくちばしを広げ、そこから発せられた光が画面を作る。


 画面はジェフリーの姿を映し出した。金髪の長髪であるアドルフと対照的な短く刈り込んだ黒髪は昔から変わっていない。


(ジェフリーがイース王家の伝言鳩を使う?)

 当惑したチャールズだが、話を聞いてみることにした。


「おい、アドルフ。随分とやりたい放題やってくれたじゃないか。不意打ちでエリザと婚約したあげく、婚約破棄して、ホラン王国の王女と結婚して、亡命だあ? 俺もエリザも舐められたもんだぜ。だがな今回キッチリお礼をさせてもらうぜ。俺もエリザもな」


 そこまで言い終わると画面は消え、伝言鳩は一声鳴くと壁をすり抜け飛び去って行った。


(ふん。どうやら察するにエリザがイース王国からの依頼という形でジェフリーを動かしたってとこか。海軍力が弱いイース王国が海賊に依頼を出すのは今に始まったことじゃあない。しかし……)

 アドルフは当惑する。

(ジェフリーは何故こんな挑発をする? 俺のことが面白くないというのは分かる。だが、こんな攻撃予告をして得することは何もない。それが分からないジェフリーではないはずだ。何を考えている?)


「千里眼」

 アドルフはジェフリーの率いる艦隊の姿を確認せんとする。だが、その両目に映し出されたのは……

(馬鹿な。あのガレオン一隻でこの要塞に挑もうというのか。いや、そんなはずはない)


 アドルフの統治するマルク群島。他では産しないクローブとナツメグを産する。そのため今まで数多くの国から奪取せんがための攻撃を受けてきた。


 ある時はフラン王国、またある時はポルト王国、海軍力世界最強をうたわれるヒスパ王国の挑戦を受けたこともある。


 その全てがアドルフの守る要塞を攻め落とすため大艦隊を組んで攻撃してきた。


 戦闘艦とはいえ、ガレオン一隻で攻めてくる? そんなはずはない。


「監視員」

 アドルフは念話を使い、通信する。


「何でしょう」


要塞こちらに向かっている艦。全てについて報告せよ」


「はっ、確認出来るのはイース国旗を掲げたガレオン一隻のみであります」


「それだけか?」


「はっ、現在確認出来るのはそれのみであります」


「ふむ。だが、伏兵もおるやもしれん。引き続き厳重に監視し、状況が変化したら、すぐ報告してくれ」


「はっ」


(本当に単艦での突入なのか? 交渉するつもりか? いや、ならば伝言鳩を使った挑発などしてこないはずだ。分からん)

 アドルフの心は波うちはじめた。


 ◇◇◇


「お頭。そろそろカルバリン砲の射程距離に入りやすぜ」

 部下の言葉にジェフリーは頷く。

「ご苦労。射程内に入ったら要塞に向けて、三発も撃ってやれ。アドルフの奴に目覚ましサービスだ」


「三発でよろしいんで?」


「かまわん。目覚ましサービスだからな。三発でも多すぎるくらいだ」


 ガレオンの右舷のカルバリン砲三門が火を噴く。


 最大射程なので一発は要塞に届く前に着水。もう一発は見当外れのところに飛んだが、要塞は大きいだけあって一発は命中した。


 要塞は堅固なので、大したダメージは受けなかったが、その震動にアドルフは敏感に反応した。

「撃ってきやがった。監視員」


「はっ」


「再度確認を求める。敵の艦影の数は?」


「前回の報告と変わっておりません。ガレオン一隻であります」


(なっ……)

 アドルフは絶句する。

(何を考えているっ? ジェフリーッ! それにエリザっ!)


 ◇◇◇


「お頭。どうやら一発だけ当たったみたいですが、要塞は応射してきませんね」


「ふーむ」

 部下の言葉にジェフリーは少しだけ考え、また指示を出す。

「もうちょっとだけ要塞に近づいて、もう三発だけ撃ってみてくれ」


「はっ」


ガレオンの右舷のカルバリン砲三門が再度火を噴く。


今度は少し近づいたせいか二発が命中した。


「総督」

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