第45話 未来は変わる
昭和から令和に戻ってきた僕。
昭和から令和にやってきた増田さん。
一番に最初に行かなければいけない所があった。
夜の23時-
自転車を必死に漕いでいる僕。
女の子を自転車の後ろに乗せるなんて、初めてだよ。
私も初めてよ、ふふふ。河井君、ごめんね。あたし重いでしょ?
全然! 重くなんかないよ。さぁ急げ-。
なんてことには全くなってない……。
二人乗りをして、そんな台詞を言うのは映画や小説では素敵だけど、そんな悠長なことをしてる場合じゃないんだ。
本当はやってみたかったけど。
ちゃんと僕たちは自転車二台を使っていた。
ファミレスから家に戻って、庭にある僕の自転車と親の自転車を二台引っ張り出した。
「これに乗って!」
「は、はい!」
必死にペダルを漕ぐ僕たち。
「……家に誰もいないって言うから……私を匿ってくれるもんだと思ってたのに……」
増田さんは息も絶え絶えになにか言っていたけど、僕はさらにスピードをあげた。
「もうちょっと早く漕げる? 増田さん」
「鬼ね! 河井くんはー!」
後ろから叫ぶ増田さん。
赤信号に引っかかる。増田さんが僕に追いついた。
「はぁ………青春映画みたいに後ろに乗せてくれるのかと期待しちゃったじゃない。足がパンパン……休みたいわ。令和ってところに来ても自転車はやっぱり疲れるのね」
「ごめん、付き合わせちゃって。休むつもりだったけど、とにかく早く広樹おじさんと会わなくちゃ」
ほんの数分……数秒でも早く会いに行きたかった。この時間はもう絶対寝てると思うけど、叩き起こしてでもいいから、叔父さんがどうなっているか確認したい。
大丈夫……きっと大丈夫だ。あの外階段の事故は回避し、叔父さんは車椅子生活にはなってない。だって僕らはあんなことしたんだから……。
「そういえば楓君、バイクに乗ってたよね?……中学生なのに」
楓は本当は二十歳を超えてるから、法律的には大丈夫なんだけど……彼もタイムスリップしたことは増田さんにはまだ言っていないし、気づいていないようだった。
「楓君も知ってるのよね? 河井君がタイムスリップして昭和の時代に来たこと。気づいたんでしょ?」
「あぁ……そうなんだ。相談に乗ってもらって……」
これは嘘ではない。
「楓君、私たち急にいなくなって、どうなったかわかるかな……」
「うん、楓は僕が戻ったこと気づくかも……あと少しで着くよ。行こう」
「あぁ、上原君は大丈夫かなぁ!」
「大丈夫だよ!」
信号が青になった。僕らは最初、ペダルをゆっくりと漕ぎ出した。
叔父さんの家は前とそのままで、変わらず古い家だった。
増田さんと僕は肩で大きく息をする。
門を開けて庭に入る。違和感は少しあるものの、その違和感は暗くてよくわからない。
ほとんど変わっていないとは思う。
僕たちは自転車を並べて玄関の横に置く。
「夜中に玄関のピンポンを押したら周りに響くかな?」
僕はドキドキしながら増田さんに聞いた。急にドアを開くのが怖くなってしまったんだ。どうしよう-。
叔父さんが車椅子に乗ってたら?子供のとき事故に巻き込まれていたら?
それじゃ今までやったことは全て無駄ってことだ。
増田さんは躊躇しないでチャイムを押した。
「……反応ないね」
そう言ってすぐに二回目を押す増田さん。
「なんかやっぱり響くよね。合鍵の場所知ってるから、それで開けるよ」
「そうなの? 信頼されているのね」
「叔父さん車椅子だからさ。だから僕はたまに買い物とか掃除とか手伝いに行ってたんだよ」
そう言って裏口に回る。
外にある洗濯機。その横の棚にある粉石鹸の箱やハイター。いろいろな空き缶。
ワックスの空き缶の中に、ハンカチにくるんでいる鍵がある。
僕はどれかも覚えていたし、迷わずに開けた。錆びて開きにくくなっているけど、なんとか開いた。
「あれ? …… 鍵がない」
「本当?」
「いつもここに置いてあるんだ」
「……入れ忘れ?」
……入れ忘れることはない。予備の鍵だからいつもここに入ってて、僕が使うくらいだもの。
周りを見渡して、さらに奥に進む。ぐるっと回って玄関に戻る途中……そこには絶対に見たくない物が置いてあった。
「え?」
そんな…………。
車椅子が……。
車椅子がある。
「なんでだよ! なんで!」
僕は思わず大きな声をあげてしまった。
「河井君、落ち着いて。声が」
僕は車椅子に手をついて膝から崩れ落ちてしまった。
使い込んでいる車椅子……。
楓が罪を犯してまで……火までつけたのに。増田さんが僕の肩に手をかけて慰めてくれたけど、僕はその手を振り払った。
「落ち着いていられないよ……こんなの。だって。あんまりじゃないか」
「わからないよまだ。会ってないし」
「じゃぁ、これはなに?」
僕は増田さんに八つ当たりをしてしまった。
そのとき裏口に明かりが付いて、勝手口のドアがガチャガチャと開かれる-。
「河井君!……誰か出てくる」
増田さんが僕の腕にしがみついた。
「誰だ!」
太い声が聞こえた。
勝手口のドアから出てきたのは-。
「広樹おじさん!! 」
広樹おじさんが仁王立ちで立っていた。
立ってる!立っている!
「あぁ!おじ、おじさん!」
僕は広樹おじさんに抱きついた。
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