第46話 変わらないもの 1
真夜中だと言うのに、広樹おじさんは僕ら二人を温かく迎え入れてくれた。特に増田さんを気にかけてくれた。
「もうここに泊まりなさい。なにかあったらどうするの?危ないなあ」
叔父さんの丸眼鏡と優しい性格は変わっていない。
僕が勝手口の外で叫んだり、嬉しさのあまり抱きついたりしたことは特別変とは思ってないみたい。
夜中に訪ねてくること自体おかしいから、思春期だし情緒不安定だと思われたかな。
なにも聞いてこない優しさに涙がまた出そうだった。
「すみません。ありがとうございます」
増田さんは深くおじぎをした。
「いやいや、本当に可愛い彼女-」
「違うから!」
全力で否定する僕。
増田さんとおじさんは顔を見合わせて笑った。
「そんな否定しなくても」と増田さん。
「だって……違うからさ」
僕たちは順番にシャワーを浴びさせてもらって、パジャマまで貸してもらった。感謝してもしきれない。
広樹おじさんは冷たい麦茶を出してくれた。
「健太君、三ヶ月会ってないだけでこんなに背が伸びるんだね」
「…………広樹おじさんもすごいガッチリして背が伸びたよ」
感無量で言う僕にあっけにとられるおじさん。でももうなんでもいい。
「……相変わらず面白いなー、健太は」
三ヶ月か……。
前の未来では、一週間に一回叔父さんの家に行き、買い物や掃除を手伝っていたのに。
……本当に未来は変わっている。
おじさんは車椅子がなくても、ちゃんと歩いていて生活している。だから予備の鍵も缶に入ってなかった。僕はここに来る用事がなくなったんだ。
あの事故……叔父さんは西里老人会館の階段の下敷きになることはなくなったんだ。
「博子おばさんの足は大丈夫?」
「なあに、たいしたことないよ。雨の日は滑るからね。全くどんな転び方したんだか」
車椅子は叔母さんが使っていたなんて。本当に紛らわしい。雨の日にスーパーで転んで、叔母さんは現在骨折中だ。
「子供に気を取られてたんだろ……」
「え?!」
思わず大きな声を出した。叔父さんたちに子供はいなかったから……。
「大丈夫大丈夫、子供は怪我はしてないよ。今もお母さんとぐっすり寝てるし」
「ああ…………良かった」
そうか猫のみーこがいなくて、子供がいるんだ。
いつの間にか増田さんが隣にいなかった。
「愛さんは寝ちゃったのかな?」
「どうかな……」
隣の和室を開けると、真っ暗な部屋に増田さんが横たわっていた。相当無理させちゃったからな……。
「横になってる……僕も寝ようかな」
もちろん増田さんとは違う部屋でだ。
おじさんの寝室に一緒に寝かせてもらうことになった。予備の布団をもう一つ出すのも大変なので、同じベッドで。
叔父さんの家に泊まるのは何年振りだろう。小学生のとき以来かな。二人で横になるのは嬉しいけどちょっと照れくさい。
目をつぶっていると、広樹おじさんが囁いた。
「健太君、またなにかあったら……今度は迎えに行くから。いつでもおいでよ」
「……いや……はい。ありがとう」
過去から戻ったなんて言えないし……。
「ちょっと家に帰るのが気まずいときってあって……」
そう言うと、叔父さんはわかるわかると言ってくれた。君たち家族変わってるもんなーと付け加えて。
しばらくして叔父さんの寝息が聞こえた。
そう言えば携帯……どこだろ?
叔父さんと話をしていて触っていない。寝室へ持ってきた記憶もなくて、そっとリビングに戻った。やはり見当たらない。
以前は気付くと携帯電話ばかり見ていたけど、過去にいたせいで生活の一部ではなくなっていた。
あ…………。
ノックをして増田さんの寝ている部屋を開けた。女の子の寝てる部屋を開けるなんて非常識だけど仕方がない。
「ごめんくだい……失礼します……」
増田さんはやっぱり横を向いて寝ていた。部屋の明かりは豆電球だけでほとんど見えないけど、枕元に黒い塊が置いてあった。僕の携帯……増田さんを起こさないようにそっと掴んで部屋から出る。
嘘だろ?
携帯の充電を見て驚いた。ファミレスでフルに充電していたのに、今は50%以下になっている。増田さんが長い間携帯を見ていた証拠……検索履歴をすぐ確認する。
一つも残ってない。消し方も覚えたんだ……いろいろ調べていたのか……。
上原駿。
広樹おじさんのことで頭がいっぱいで忘れていた。上原君が生きているかは携帯で調べられるかもしれないと、未来に帰れたときは調べるつもりだったのに……。
上原駿……検索したが出てきたのは別人。坂上楓もついでに調べたが、やはり別人が出てきた。こちらは女の子ばかりだった。
上原君が生きていることがわかれば……僕たちの計画は成功なんだけど。
まあ、検索しても出てこないってことは生きているってことになるかも。
上原君は21歳に自殺してしまう。
1989年に14歳ってことは、21歳は1996年……2023年の27年前……ややこしい。
それにしても昔過ぎて。
僕は恐る恐る「上原駿 自殺」で確定してみた。
明るい携帯の画面を見て、心臓が止まりそうになった。
上原駿……は……自殺している。
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