第44話 Back to the 2023 4


 令和に来て1時間しか経ってないのに、すっかりこちらの世界に染まっている増田さん。

 「なにこれー、なにこの猫すごい!」


 携帯電話を普通に操作しているし、ファミレスのネコロボットに感動して写真を撮っている。


「やっぱり河井君て普通の中学生じゃなかったね。出会った時に気付いてたのよ」


 そう言って美味しそうにミニチョコパフェを食べている。



****

 


 昭和の世界で追いかけ回され、焼却炉に逃げ込み、扉を開けたらなぜかショッピングモールの中だった。

 ゲームセンター横の非常口の扉から僕たちは飛び出た。


 外に出ると、若い男女が流行りのぬいぐるみを嬉しそうに抱えて歩いていた。


「ぴいきゃわたん」と言う今年ブームになった鳥をイメージしたキャラクター。


 2023年に流行った物で、それ以前には存在しない。ここは令和4年、2023年以外に考えられない。


 増田さんが僕の腕を掴む。

「ここどこ?」

「静かに……僕が前に住んでた場所だ」

 

 タイムスリップのことはまだ隠したかった。

「本当なの?」


「うん…………ちょっと歩こう」


 ショッピングモールの中をふらふらと歩いてみた。確かに令和に戻っている。僕の町のショッピングモール……。


 増田さんは目がキラキラしている。


「河井君、服が汚れてるね」

「あ、ほんとだ……服とか、荷物とか……取りに行ってくるよ。家が近くにあるんだ」


「え? ……誰の家 ?親戚の家とか?」

「あ……そうそう」

 僕は適当に相槌を打った。

 

「一緒に行くわ」

「どこかで……少し待っててもいいよ」


「え? それは怖いな」


 さすがに怖いか。肝が座っている増田さんでも。

「ごめん、そうだね。知らない場所じゃ増田さんだって不安だよね」


「場所は別に平気よ。知らない時代だから怖いかな」


「え?……」

「タイムスリップしたんでしょ?私たち。河井君のいた時代に」



****



 増田さんはミニチョコパフェを食べながら、僕の携帯でいろいろ検索している。


「ねえ、かわいい!このUSJって所に行きたいー!」


「…………」


 携帯画面を僕の顔面に押し付けてきた。


 いやいやいや、それどころじゃないだろ?過去に帰れなかったらどうするんだ?


 トンネルから出て、僕はすぐに家に戻って、物置きに隠してある予備の鍵で家に入った。

 夜遅い時間なのに家には誰もいなかった。それはとても都合がよかったけど。


「お父さんのところかな……」


 家族は単身赴任中の父親のところに行っているのかもしれない。

 自分の部屋に入ると、リュックと携帯が机の上に置いてあった。確か学校に起いたままのはずだけど。 

 誰か届けてくれたのだろうか?


 急いで外で待っている増田さんの所に戻り、二人でファミレスに入った。お腹が空いていた。



「あー、お腹いっぱい……上原君たち大丈夫かな……帰れたかな?」


「大丈夫だよ。上原君も香織さん、楓、柏木もみんなきっと無事だよ…………ねえ増田さん」


「なに?」


「なんで僕が未来から来たって思ったの?」


「……それは、焼却炉に入っている河井君とと目が合った時……いろんな情報? 河井君の情報も……頭の中に沢山流れてきたの。それで幻覚みたいなのを見て……あのとき質問されたけど、上手く話せなくなって棒読みになってしまったのはそのせいなの。整理できてなかった」


 初めて会ったときの事はよく覚えてる。増田さんは無表情で、話し方も確かに棒読みだった。


- なにをしているの?

- 斬新な自殺かと−


 懐かしい会話……。

 ほんのちょっと前に出会ったのに、随分長く知っているような気持ちになった。


「その後、矢作先生が来たじゃない?私の知っている情報が、バァーって矢作先生とか、校舎の中に流れていった気がしたの。それでなんだか頭の中が一回、空っぽになった感じ」


 なるほど……。

 きっと柏木も体験したんだろう。柏木はあまりにも強烈過ぎたのか倒れてしまったんだ。


 もしかしたら初めてタイムトラベラーがあの時代に来たせいで、増田さんよりも柏木の方が、脳や体に負担があったのかもしれない。


「増田さんを通して、僕は昭和の世界にいることができたんだね……」


 僕は一人納得していた。増田さんが今度は質問をする番だった。


「いつも焼却炉のこと考えてたよね? 河井くん。それが強いとね、たまにこっちに伝わるの。その理由はわかったんだけど……あと老人会館のことも……老人会館になにかあるの?」


「あっ!」


 周りの客が振り向く位、大きい声を出してしまった。


なにをしてるんだ、僕は!


未来に戻ってきたからって、ほっとしてご飯を食べてる場合じゃない。肝心なことを忘れていた。 


「河井君、大丈夫?」

「増田さん、今から広樹おじさんの所に行かないと!」


「おじさん? 河井君の叔父さん?」

 

 僕はレシートを持って立ち上がった。

 



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