第42話 Back to the 2023 2

 二人乗りの派手でダサいバイクが目の前を通った。


 そして女の子の悲鳴-。 


 増田さんと上原君になにかあったに違いなかった。全力で追いかける僕たち三人。


「増田さん!」

「愛!」

 僕と香織さんが叫ぶ。


「くそっ、こんなときに限って」

 柏木が悔しがる。


「なに?」

「いつも携帯している折りたたみナイフ、今日は持ってない」


 クラスの副代表の柏木がナイフをいつも持っていたなんて……。


 暗い路地を走ると、二台のバイクが止まっていた。通ったバイクは一台だったのに。挟みうちしようとしたのか……。


「あ……怖い、もう一台いるよ」

 香織さんを柏木が隠すように前に出た。

 

 道路に倒されている上原君。

「上原君!」


「随分ゆっくりしてたなぁ。待ちくたびれたじゃねーか」


「今度から遊びの計画を立てるときは、教室以外がいいんじゃない?」


 バイクを運転しているヘルメットの男と……その後ろから、聞き覚えのある女の声が聞こえた。どこかで聞いた声……。


「神田さん!」


 クラスの女子だった。神田さんは長い髪をかき上げた。濃い化粧もしていて中学生には見えない。

 目つきはキツいけど、凛とした女の子だと思っていたのに……。

 楓が言っていたのは本当だった。増田さんを睨んでいたグループ……。


 香織さんたちが話していた女の先輩はいない。カラオケボックスにいた頭の悪そうな男三人……。神田さんはこいつらに待ち伏せさせていたんだ。


「上原君を助けて」


 増田さんは、バイクの後方に無理やり乗せられている。あの前髪金髪逆立ち男の後ろに!


 相手は四人。前髪金髪男。もう一台のバイクを運転しているヘルメットを被った男。その後ろの神田さん。そして上原を押さえている大柄の男。


「お前が大人しくしていれば、彼氏には手を出さないからさぁ〜」

 金髪が増田さんにニヤつきながら言っている。もう許せないし気持ちが悪い。


「神田、クラスメイトだろ? こんなことやめろよ」

 柏木が叫ぶ。


「クラスメイトだから気に入らないんだろうが。いろんな男に色目使ってるアバズレが!」


 ひぇー、増田さん酷い言われよう。

 同性からは嫌われるタイプなのかもしれない。いや、そんなことはどうでもいい。


「離せ! やめろ!」

 乗っかられている男から逃れようと暴れる上原君だったけど、がっちり押さえられていて動けない。


 僕は一体何ができるだろう?


 誰か……誰かに知らせないと-。


「柏木……僕、警察に行くよ」

 

 僕が踵を返した途端、キャアと言う声。増田さんに金髪がナイフを当てている。


「動くなよ!助けなんか呼んだら、お友達がどうなっても知らねえぞ」


「……わかった。ここにいて河井」

 柏木は一歩前に出た。


 なんて卑劣な奴らだ。携帯電話がこの時代にあれば……武器もこっちはないし……。


 あ……。


「柏木、なんか話してて」


 僕がそう言うと、柏木が声を落として話しかける。


「なにがそんなに……増田のこと気に入らないんだよ」


「全部に決まってるだろ! 全部! まぁ強いて言うなら最近調子に乗ってやがるからな」

 神田さんが吐き捨てる。漫画に出てくる昔のヤンキー少女そのままだ。


「そんなっ……」

 増田さんが震える声で言う。


「てめえは黙ってろ。彼氏なんか作って、いい気になってるんじゃねえぞ。カラオケボックスでも告白されちゃったぁって騒いでたんだろ? 全部がムカツー」


「伏せて!!」

 僕は叫んだ。


 ヒューと、高い音がバイクの方向に飛んでいく。


 ロケット花火を次々と僕は点火させた。


「ギャー!!」

「こいつら馬鹿なの?!」

 前髪金髪逆立ち男と神田さんが叫ぶ。


 ヒュー、ヒューと高い音と煙を吐き出すロケット花火。住宅街に響き渡る。


 ロケット花火は威力がある。とてつもない速さで発射されていく。

 もう誰に当たるかはイチカバチカだ。


「河井! バカ!愛や上原がいるのよ!」

 香織さんは耳を押さえてる。


 もうどうだっていい!誰か出てきてくれ!


 上原君を押さえ込んでいた大柄の男の方角に数本飛んで、男に命中した。

「熱っ!」


 大柄の男は逃げ出し、頭を抱えて丸くなった。

 上原君はすぐに立ち上がって、増田さんを救出しようとしている。


 僕は怯えたふりをしていたけど、ロケット花火をこっそりセットしていたんだ。もう全部使ってやる。残りにも火をつけた。


「ふざけたことしてんじゃないよー!」


 神田さんがバイクから降りて、上原君を掴んで阻止していた。前髪金髪はバイクのエンジンをかけようとしている。


 増田さんが連れて行かれる!


 上原君を押さえ込んでいた大柄の男が起き上がりかけ、柏木が男の背中に飛びかかった。

 そこにブォーンブォーンと凄い音が響いた。

 アクセルを吹かしたバイクがもう一台やってきた。僕達の後ろから。


「見ろ! 援軍が来たぜ。終わりだ」

 前髪金髪男が笑いながら言った。


「香織さん後ろ、危ない!」


 畜生……終わりだ。


 後ろから来たバイクはスピードを緩めることなく突っ込んでくる。


 轢かれると思ったそのとき-。

 ヘルメットの透明のシールドが開いた。


「河合、どいてー!」


 突っ込んできた原付バイクは楓だった。 


「か、かえで!?」

「楓君?」


 楓の原付バイクは、スピードを落とさずに、少し宙に浮いた。


「キャー!」

「誰だお前!」


「うわぁぁぁ」

 叫ぶ楓。原付はそのまま金髪と増田さんのバイクの前方に突っ込んだ。


 金髪男は、楓の原付の下敷きになる。

 楓はそのまま空中を舞って、もう一台のヘルメットの男に衝突した。

 

 増田さんは前の方に放り出されていた。

 僕は走って増田さんを起こした。


「楓、走れ!」

 柏木が叫び、僕は言で増田さんの手を取って、そのまま前方に走りだした。

 

 後ろは振り返れなかった。


 楓は大丈夫だろうか?香織さん、上原君……柏木……みんなどうなる?


 僕はだって……ちゃんと逃げれるだろうか?


「ねえ、サイレンの音が聞こえる」


 息を切らして増田さんが言った。誰かが警察を呼んでくれたと思いたい。

 僕らは全力で走っていた。

「家はどこだっけ?」


「家はあいつらに見つかりたくないの」


 バイクの音が後ろから聞こえてきた。


「こっちへ」

 細い路地に僕たちは入った。家と家の間で、バイクも通れない道をひたすら走る。


 これでひとまず大丈夫……か?


 その路地から出ると、西里中学校の目の前の通りだった。





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