第41話 Back to the 2023 1

 地元の西里駅に着くとほっとして、みんなの顔も穏やかになった。


「気にしすぎだよ〜」


「……でも店も暗くてジメジメしてた」


 香織さんに言われると、楓が呟いた。楓の声も同じくらい暗いけど。 


「なんか薄気味悪かったし」

 僕も付け加えた。カラオケ店の受付横で見た金髪前髪逆立ち男は、やっぱり西里中学校の先輩だった。

 店を出た後で上原君が教えてくれた。


「それと香織さんたちが話した女の先輩も仲間だね、きっと。男三人、女一人……もっと人数いたら怖かったね」


 ラウンジにいたあの金髪一人でも十分怖いんですけど……。


「釣り具屋さんには俺と河井で行くから、楓の家に先に行ってて」


「はーい。ダブルデートしてますー」

 香織さんがそう言って、楓の腕を掴む。棒人間みたいに引っ張られている楓。

 上原君と増田さんはゆっくりとその後ろを歩いている。


 そういえば増田さん、以前は僕にいろいろ話してきたのに……。

 上原君のこと好きだったなんて、ちょっと教えてくれても良さそうなのに。 


 それは無理か……。僕が増田さんに好意を持ってることバレバレだったもんな。


 増田さんたちを見送りながら、そんなことを考えていた。


 西里駅から海岸の方に歩いてしばらくすると、古い釣具屋が見えてきた。

 パックになった花火セットを買うことはすぐに決まった。


「ちょっと柏木、なに買ってんの!」

 柏木はロケット花火を買おうとしていた。まさか楓の家でやるなんて考えてないよね?


「わかってる。これは次回用だよ。河原でやるためだよ。あ、ねずみ花火なら大丈夫だろ」


 実はネズミ花火をやったことがなかった。飛び跳ねるってどんな風になるのだろう。



****


 先に着いていた楓と香織さん、そして増田さんと上原が庭のベンチに座っている。

 遠くからみると本当にダブルデートしてるみたいだ。羨ましい…………いや、微笑ましい。


 相変わらず楓の家はイングリッシュガーデン風で素敵だった。前より低木が青々と育っている。

 僕たちはお茶やお菓子をご馳走になったり、駐車場のスペースを借りて花火をしながら雑談をして過ごした。


 ネズミ花火はどこに飛び跳ねるかわからない。おとなしい楓や、普段は斜に構えてる柏木が慌てて逃げているのは面白かった。

 それを見た女子たちも大笑いしていた。



「あ、忘れてた!これこれ」

 

 香織さんと柏木、増田さんと上原君がペアになって線香花火を始めた。

「どっちが長く花火がもつかやろう」

「落としたらダメだよ」


 なぜかよくわからないが、僕と楓も2人で向き合って線香花火をしている。


「僕たち真似しなくたっていいんじゃない?」

僕が言うと、苦い思い出作りだよと楓が言って笑った。


「そうそう河井君、さっき聞いたんだけど、上原君がカラオケボックスで公開告白したんだって?」


 牛乳瓶の底のような眼鏡を動かしながら楓が言う。

「あ、そうなんだよ。楓は外にいて見逃しちゃったね」


「……上原君、そんな人じゃないと思ってたのに。随分過去は変わったんだな」

 楓がまるで探偵気取りで話すのはなんなのだ。

 楓は顔を必要以上に近づけ、小さい声で言った。

「……だって本当なら、夏休みは上原君は学校に嫌気がさして、家に閉じこもっているんじゃないか」


 多分そうなるはずだった。でも僕たちや上原君自身の頑張りで、社会のゴン先生たちから目をつけられなくなったんだ。


「僕は二学期までいるつもりだよ。学校に来るの見届けないと」


「うん、わかってる。僕もいるよ」

 僕は楓に同意した。


「上原君、急にかっこよくなったよね」


 僕が言うと楓はフンと鼻を鳴らした。


「顔はもとから整っているじゃないか。髪も直毛じゃなくてふわっとして……なんだか昔のジャニーズみたいだろ?」


「昔のって言うか、だけどね……こっちで言うところの」


「そうだね。まぁ、はなから河井君に勝ち目はなかったんだよ」


「なんだよ、それー」

 と僕は本気じゃないが一応怒るフリをした。


香織さんも柏木も電話を借りて、少し遅くなると伝えたようだった。

 僕は特にそんなことはしない。しなくても心配はされないのはわかっていた。


 多分それは、令和の本当の家族とリンクしていると感じたから。

 僕の本当の家族もかなりドライで各々好きなことをしているし。


 夜の二十時になって僕たちは花火を片付け始めた。楓のお母さんはまだデザート出そうとするけど、やんわりと断った。


「随分長くいたね。楽しかったー」

「また集まろう!今度はうちに来てよ」 

 増田さんと香織さんが続けて言う。


 楓に見送られて、坂上家を後にして、僕たちは大通りまで歩いた。


 上原君と増田さんと四つ角で別れた直後、派手な二人乗りバイクが僕と柏木と香織さんの目の前を横切った。


 え?


「あっ!あの金髪」


 そう僕が言った瞬間−


 女の子の叫び声がした。


「増田?」

「愛?」


 増田さんの声-。


「増田さんだ!」

 僕も思わず叫んだ。


 僕たちは急いで逆方向に走り出した。


 


 










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る