第35話 芸術鑑賞会の時間 1

 二時間目が終わった中休み-


 七月も気づくと十日以上経っていた。もうすぐ夏休み。


 上原君は夏休みも一緒に会ってくれるのだろうか?これが一番の課題だ。


 今日は芸術鑑賞会があって、オーケストラの楽団が招待されていた。

 音楽の演奏は苦手だけど、聴くのは好きだ。みんなも朝から嬉しそうにしている。


「毎年交互にオーケストラの演奏か演劇鑑賞があるだろ?今年はオーケストラだね」


 前にいる高崎が教えてくれた。あんなことがあったけど、高崎も普段と変わらなく過ごしてしている…………ように見えた。


 今日、芸術鑑賞会があって良かった。

 秋の行事っぽいけど、秋は体育祭や文化祭などがあって忙しいので、毎年夏休み前にあるらしい。

 

 体育館に移動する前に、香織さんが隣の空き教室に僕と楓を呼んだ。中には増田さんもいた。


「ごめんね、脅迫状のこと……」


 香織さんはノートを開いた。

 手にしているノートは、あの脅迫状を書いてノートを定規で破ったページだった。ノートは少し斜めに切れている。


 不思議だね。証拠を処分する気持ちになれなくて……ずっと取っておいた。


 香織さんは静かにそう言った。


「悪いことはできないや。私と柏木が上手くいかなくなっちゃって……みんなを巻き込んで」


 僕は柏木から聞いた話を香織さんにした。


「誰も気にしてないよ。柏木は自分がお父さんと仲悪くて、みんなに迷惑かけたって謝ったよ。香織さんは夜に抜け出す柏木を止めたくてやったんでしょ?お父さんに怒られないように」


 一昨日貯水槽のある空き地で、柏木は深々と謝罪した。全部自分の問題だったと。

 

「……あぁ……うまいこと言ったなぁ。柏木のお父さん、あいつが夜に家を抜け出したり、勉強をしなくなったのは私のせいだって思ってるって話したよね?自分のせいなのに。電話で息子と別れてくれなんて言ってきて」


 増田さんが怒りだした。

「なにそれ! 酷い! 酷すぎる」


「愛はちょっと黙ってて」

「あ、ごめん」

 増田さんは一歩下がった。


「老人会館に上原君や河井君も誘って楽しかったよ。でも楓くん、建物に人が入るのを見たって言ったんでしょ? 怖くなって。もうやめたいなって。柏木が夜、家を抜け出すこともやめさせたかったのもあるけど」

 

「香織さん、優しいんだね」

 ボソッと楓が言った。


「……そんな。楓君、ほんと申し訳ない。柏木に嫌がらせもあってやったんだから」


「いや、あれは柏木が悪いのよ! 探偵気取りかよって。あっ香織、時間!学級代表だから声かけないと」


 皆が正面の時計を見た。

「本当だ、中休み終わるね」

「ヤバいっ」


 廊下に出ると目の前に矢作が立っていた。

心臓がギュッとなる。


「なんですか?」

 僕は矢作と目があって、矢作をじっと見てしまっていた。


「あっ、いえ……」

 うわっ怖っ。怒られる。


「河井、やること遅いですよ。あなたのクラス綺麗に並んでますよ」


 並ぶのが遅いって全員が怒られると思ったら、矢作の後ろには僕たち以外のクラスメイトがほとんど並んでいた。副代表の柏木がちゃんと前に立っている。


「はい、体育館履き持って行くよー」


 さすが副代表……。


「B組! あなたたち馬鹿ですか?」

 矢作の声が響いている。隣のクラスは全然並んでいない様子。

 

 て言うか、ガスバーナーを炎上させたせいで、僕は矢作に完全に名前と顔を覚えられたみたいだ……。

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