第29話 楓の家 - 柏木の告白
図書館は広く、柏木と僕は1階と2階に分かれた。僕は2階に上がった。なんとなく僕なら2階に逃げるからだ。
しかも2階の吹き抜けのような場所から、1階がよく見えた。これなら1階も探していることになる。柏木が中央にあるゴミ箱を覗いているのが見える。
楓はノートの切れ端を捨てるために走って逃げた……みんなそう思っているだろう。そのためにノートを抱えたと。 でも……聞かないといけないことが……あ……。
トイレかもしれない。紙を捨てちゃうとか……それか窓……外に投げる?
奥にあるトイレに行ってみた。楓はいない。
一通りぐるぐる回った。見当たらなかった。1階に降りると、日曜日なのでそこそこ人がいる。
「柏木……」
勉強ブースを覗いている柏木に声をかけた。
「2階は見つけられなかった」
「ああ……出口は一箇所だけだから……出入り口にいてよ河井は」
それは……。
「いや、柏木がいて。僕見てくるから」
そのとき、チンと横のエレベーターが開いて、中から楓が出てきた!
「あ……」
楓が声を出した。危機感のない声。だけどすぐ後退りし、閉のボタンを押した。エレベーターの扉が閉まりそうになる。
「お前!」
そう言って柏木はエレベーターの扉を押さえ、中にいる楓を引っ張って外に出した。楓は転びそうになった。
「ちょっと! 図書館だから」と僕は小さい声で言った。
やばいやばい喧嘩勃発だ-
「ごめんなさい」
楓がすぐに謝って頭を下げる。柏木は極力声を押さえ、楓の腕を掴んだ。
「お前さー……なにしてんだよ……」
楓は黙ったまま。僕は柏木の腕をそっと押さえた。
「ねえ、もう戻ろう……彼、靴下だし」
「待て、お前が書いたんだな?あの変なカタカナの脅迫状……」
すぐに楓は頷いた。
「ノート今、破っちゃいました」
ぼそぼそと楓が呟く。
「あの……あの建物は危ないから、もう行って欲しくないから」
「…………」
「クラスメイトが怪我するの嫌だから」
わかったと柏木は冷静に言って、楓を見つめた。
「最後に言わせてほしい……」
なに?柏木怖いよ……馬鹿野郎とか言って、殴るとかやめてよ。
「ごめんな、楓君」
そう言って、柏木は急に楓をガシッと抱きしめた。
………え?
なに?これ?
柏木は暫く楓を抱きしめていたが、慌てて体を離した。
「はっ、俺……え?ごめん」
柏木は自分で抱きしめておいてパニックになっている。
楓はノーリアクション。
柏木なんか反省した?にしても……どうしたのかな?今、キャラ変わったけど?
「あの……」
楓が消えそうな声を出す。
「僕、みんなに迷惑かけたから、みんなをうちに招待したい」
「はい?」
急転直下、僕たちは楓の家に招待された。
なにかなんだか……どうなっているんだ?
****
立派な外壁と門を抜けると、草木が生い茂る庭が現れた。
女子二人は可愛い〜を連発している。
あの後、三人で仲直りしたからと休憩室に戻ったら、香織さんは良かった〜って涙ぐんでいたから。
「楓君のうち素敵じゃない〜!」
「こーゆーとこ住みたいね。あれ、ぶどうの木?お洒落ー」
アメリカ?イギリスの庭みたいだね、などと言って家に入る前から盛り上がっている女子二人。
楓がインターホン押すと、中から絵に描いたような可愛らしい年配の女性が出てきた。
母親と言うには年が上な気がする。でも祖母と言うほど年配ではないし。
どんな設定?
「おかえりなさい。あらあら友達たくさんねぇー」
人を疑ったことなど一度もない感じ。
似ている……僕のこっちの世界の母親。お母さん2号に似てる……穏やかな
人柄。
もしかして、彼女たちは宇宙人?
そんなことを言ったら……増田さんも山口先生も矢作も柏木もクラスメイト全員が宇宙人になってしまう。
僕や楓を平然と受けいれているのだから。
リビングでお茶とクッキーを出してもらい、ずっと興奮している増田さんと香織さん。漫画の話を熱心にしている上原くんと楓。
なんだかみんなが楽しそうだと、僕も嬉しい。とてもいい感じだ。
僕は一人、リビングから外の景色を見ていた。
「ちょっと……いいか?」
柏木に呼ばれて廊下に出た。
「図書館でのこと……自分がおかしい気がするんだよ。誰にも言ってないんだけど」
「どうしたの?」
柏木は、楓が転校してきたときから、ずっとイライラしていて、なんでこんなに執着するのかわからないと言ってきた。
「ざわざわするというか、イライラって言うか……」
「そうだったんだ」
「河井はなんで楓のこと……嫌いに見えたのに、急に仲良くなった?」
うわ……。
いろいろわかってるんだな、柏木は。
「俺、ずっと嫌いなのかと思ったけど……楓のこと好きなのかな?初めて会ったときから」
は?……なに?
図書館で急に楓を抱きしめた柏木の姿がフラッシュバックした。
柏木の独り言のような声が聞こえた。
「焼却炉の後ろにいる楓を見た時から」
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