第28話 テスト直しの時間 2

 テスト直しのため集まっている6人全員、9教科分のノートを持ってきていた。

 今更隠せない。そのページが残っているなら、顔を突き合わせている状態で証拠隠滅することもできない。


 柏木が鞄の中から、折りたたんでいた紙を広げた。


 ニシザトロウジンカイカン

 シンニュウ ヤメロ


 全部カタカナ。定規を使い直線で書いた文字。まるで小学生が書いたようなノートの紙切れ。


 全員が黙った。確かに定規で切った端は少し斜めになっている。そのページを捨ててなければ、犯人がわかる。

 家に置いてあるノートの場合もあるけど、今ここにある可能性も十分ある。


 全部のノートの最近使ったページを開いてくれと柏木が言った。


 指紋を取ると言ったのも、本気じゃないとはわかってるけど、柏木がそんなこと言うとは思わなかった。

 大人っぽく見えるけど、やっぱり同じ中学生なんだよな……。

 柏木がこちらを向いた。


「河井か……楓……君だと思ってる」


 僕と楓はお互いの顔を見合わせた。

「最近加わったのお前ら二人だし」


「ちょっと待って、最近なら上原君もよ」と香織さん。


「いや、上原は忍び込むこと嫌がってないじゃないか。今度いつ行くの?なんて楽しみにしてるし」

 上原君は、恥ずかしそうに頭を掻いて下を向いた。


「河井は老人会館に侵入することはやけに嫌がってる」


「だ、だってバレたら警察沙汰じゃないか。それに先生たちに怒られるよ」


「あんな奴ら、クソ食らえなんだよ」

 と柏木。


「……でも、河井、お前じゃないだろ? 」


 え?

 僕が不思議そうな顔をすると、柏木が説明した。


「脅迫文は、期末テストが終わった日の下校に入ってたんだ。でもその日の昼間、河井にテスト直しは別の場所でやるって教えてる。だから下駄箱にこんなのいれないだろ?」


 僕は激しく首を上下に動かした。


「それに、そろそろあの階段撤去されるっぽいよな。なぁ河井」


 柏木が言うと、みんなが僕の顔を見た。


「え?そうなの?」


「天井裏で勉強したとき、下にいたおっさんたちが話してたよ。傷んだ階段を取り壊せって町に言ってる奴がいるって」


 柏木もちゃんと聞いてたんだ。

 その話に触れないから、聞いてないのかと思ったけど。

「あのおっさんたちの話を聞いてる奴なら、脅迫文はやっぱり入れない気がする……俺だってみんなのノート調べるなんて、そんな風紀委員みたいなのやりたくないからさ、名乗り出てよ」


 柏木の口調が柔らかくなった。


 名乗り出ないなら、俺が全部チェックすることになるからと、サラッと付け加える。


「あのさ……柏木さ、あんた何様なの?」


 黙っていた増田さんがいつもの声ではなく、少し凄んだ声を出した。初めて聞く声。

 増田さんは全員に優しいから、犯人探しみたいなことは嫌なのだろう。


「下駄箱にこんなの入れられたら頭にくるだろ?」

「だからってこんなこと、友達にする?」

「陰険なことする奴がいるからだろ?」


「ちょっと落ち着いて、二人とも。あともうちょっとだから先にテスト直し終わらせよ」

 香織さんが2人を宥めた。


「増田、直し終わったなら、お前から見せて」

「……だから、なんで柏木が決めるのよ! 言い方ってもんがあるでしょ?」 


「上原、河井、楓君を次々誘ったのは増田、お前なんだからな……」

「ちょっと二人とも」



「俺は楓君を入れるの本当は-」


「柏木!」

 僕は言葉を遮った。

「あのさ……」


 そのときだった。

 いつも、自分は関係ございませんと飄々としている楓がノートを一冊持って立ち上がった。


 え?


 そして和室の外に走って出て行った。いつもの楓の所作の倍の素早さ。


「え?! 」

「あ、楓君?」

 香織さんと増田さんが声をかける。

 

 僕と柏木も慌てて、靴を履いて追いかけた。楓の靴がそのままある。

「やっぱりあいつだ」と柏木。

 

「靴履いてないよ、楓君」

 増田さんの声。

 いや……それどころじゃないけど。


「あ、柏木、見て!」

 楓はそのまま、隣の大きな図書館の中に入り込んだ。靴も履かずに。


「河井、二手に分かれよう」 


「わかった」


 どうしよう!思わず柏木に居場所教えちゃったけど、僕だけ図書館に行きたかった。


 とにかく先に楓を捕まえたい。聞かないといけないことがたくさんあるんだ。


 


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