第27話 テスト直しの時間 1 ー 脅迫文の一件


 テスト直しは、教科書やノートを見ながら解いていいのだけど、その代わり全部満点で提出しなきゃいけない。次の授業までに。


 やってみてすぐに思った。ある意味、本番のテストより大変なのでは?


「そうだよ。俺はテスト直しのほうが嫌い」

柏木が言った。


 僕のいた2023年の学校は、間違えた箇所だけやってくればよかったし、ノート提出することもなかった。先生によってはテスト直しなんて、全く求められなかったり。

 昭和の西里中学校は相当厳しい。


「あー!間違えた、あたし間違えた」

と香織さんが頭を抱えた。みんなも解きながら急に声を出す。

「あー、そうだ〜これ思い出せなくて」

「間違えた。マイナス付けるの忘れた!」

 なんて言っている。


 国語は僕、理科は楓、英語は増田さん、数学は柏木、美術や音楽は香織さん、社会は上原君が直しをやることに決めていた。

 

 上原君は地理も歴史もあって問題も多くて大変だけど、得意になってもらったほうがいいと僕が言ったら、みんなもそれがいいと賛成してくれた。


 ゴンに目をつけられないようにしないと。


 いつも協力してやっているのだろうか?他の仲良しグループもそれぞれ集まってやっているらしいけど。

 自分のためにならないような……なんて学級委員みたいなことを思っていると、香織さんが自分に言い聞かせていた。


「中間テストは自力で全部やったし、たまにはいいよね! ね? たまには」

 増田さんや上原君が大きく頷く。


 そのうちテレビやラジオの話、流行の歌を歌ったり、先生の悪口を言い合って全く進まなくなった。

 まぁこうなるよね。


 雑談になると、僕や楓は黙って聞いていることが多かった。


 音楽の先生ってカツラ?カツラじゃない?なんてことをずっとみんなで言っているんだけど……。


「楓君さぁ、今度転ぶふりして、川センのカツラ取ってくれないかな?」

 柏木が言うとみんなが笑った。


「できる! 楓君なら許される」と香織さん。


「…………いいよ」

 楓がボソッと言ったら、みんなは爆笑した。本当にやりそうで怖いよって、上原君までつっこんでいる。


「そうだなぁ、転ぶのうまいもんなぁ」

 と、冷めた口調で柏木が言った。


「え?」

 思い詰めたように上原君が反応した。


「いや、なんでもないよ。ところで……西里老人会館に侵入するのやめろ……って脅迫文が俺の下駄箱に入ってたんだけど」


「えっ !?」

「嘘?」


 僕もみんなも驚いて声を出した。柏木が全員を見回す。増田さんが怯えながら言う。

「ばれちゃったのかな? 誰かに見られてたの? 同じ中学の子に?」


 柏木は大きく息を吐いた。


「この中に犯人がいるかも」


 全員が一斉に声を上げた……楓以外。

楓は全く動じない。


「……坂上楓君、ちょっと君が信じられないんだけど」

 柏木が言うと香織さんが反論した。

「ちょ……なんで決めつけるのよ? 酷いじゃない」

「なんだよ。お前が坂上楓は怖いとか怪しいって言ってただろ?」

「そ、それは最初の頃よ。今はそんなこと思ってない」

 

「最近頻繁に侵入しちゃったから、見られちゃったのかな」と増田さん。


「見られたとしても、それがなんで俺だってすぐわかる? あんなに暗くて? 」

 柏木は続けた。


「そうだ、ノート全部チェックすれば犯人がわかるかもな。ノート見せてもらって、指紋とれば」


 指紋!?と、皆が大げさに驚いた。


「なに言ってるのよ」

 香織さんがため息混じりに言った。


 脅迫文はノートの切れ端に書かれているそう。ノートの一枚を定規のようなもので切っている。ハサミではなく。

「今日テスト直しで幸いなことに全員、9教科分のノートを持ってきている。切ったページが一致するかもな」


「本当に?」と僕。


「ああ、やってみる価値はある」


 全員が黙った。


「みんなノートを開けよ。全部のノートをだ」

 

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