第17話 今日は欠席
老人会館に忍び込んだ次の日、僕は学校を休んだ。
昭和に来て2週間が経っていたけれど、休みたいと思ったのは初めてだった。
昭和にタイムスリップして、家にこもってるなんてもったいないって昨日までは思っていた。
あぁ……今頃ガスバーナー炎上事件で僕がへこんで休んでるって……みんなにそう思われているのか…………違うから。
でもそんなことはもうどうでもいい。
吐き気がする。胃がひっくり返りそうになった。とてもみんなの顔を見る気になれない。
西山香織、柏木徹……増田愛。
みんなと会って話がしたい。
でもそれと同じくらい。会いたくない。
「西里老人会館」なんて名前だったから気づかなかったけど、僕はこの建物をよく知っていたんだ。
何度も、何度も写真を見た。実際に見に行っている。
周辺の建物、公民館の壁の色や植え込みが違っていたので、すぐには気づかなかった。
そして僕のいた未来では、外階段はもうない。
この建物にある外階段は十年後、1999年に老朽化で崩れる。
建物の名称は「中里子ども公民館」
たまたま下にいた小学5年生が下敷きになってしまう。重症だった。
その小学生が僕の叔父、広樹おじさん。
広樹おじさんは、このときの事故で車椅子になってしまったんだ。
****
僕は食欲もなく、昼から夕方まで寝たり起きたりを繰り返していた。
部屋のドアが叩かれる音で目を覚ました。
「柏木君から電話よ」
扉の向こうでお母さん2号が言った。
「いないって言っといて」
「喧嘩でもしちゃったの?」
「違うよ。今、勉強してるだけ」
勉強と聞いて嬉しくなったみたいで、お母さんはすぐ階段を降りていった。
友達の電話を無視してまで、勉強するわけないのに。
昨日老人会館からの帰り……。
この階段なんだか壊れそうだねって上原君が言うと柏木はこう言った。
-ね、やばいよね、ボロボロ。まあ、俺たちには関係ないけど-
わかってる。柏木に悪気はない。全く。
階段を見て、そのままの事を言っただけだ。
みんなはこの先に、子供が下敷きになることを知らないんだから-
それから、またすぐにドアが叩かれた。
「健太、今度は友達が来てるんだけど。お見舞いかしら? 気にかけてくれてるのねぇ」
柏木のやつ、今度はわざわざ来るなんて。公衆電話からかけてたのかな?
「今度は女の子よ。同じクラスの」
女の子……。
「増田愛子さんて」
玄関のドアを開けると、増田さんは学校指定のダサい緑のジャージを着てー
誰?
誰、この人。
髪の毛は増田さんみたいに、遠慮がちな可愛らしいくせっ毛ではなく、もじゃもじゃの髪の毛。ひょろっとした猫背。
目の前にいるのは増田さんの名前を語った別人。顔も前髪で隠れていてよくわからないけど……。
その正体不明の生徒は、ポケットから黒縁眼鏡を出した。
「……お前!」
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