第18話 今日は欠席 2 - 楓の告白

 こいつ、嘘だろ?


 見覚えのある黒縁眼鏡をジャージのポケットから出して、当然のようにかけた。


「…………」


「増田さんて……そう言わないと出てこないかなって」


「えっ……」


 いや、だからなんで増田さんの名前……。

 聞くに聞けない。


「ごめんなさい」


 坂上楓は深々と頭を下げた。言葉とは裏腹に、堂々とした態度に僕は面食らってしまう。楓は眼鏡をかけた瞬間に、いつものひょろひょろでオタク全開な楓になった。


なんで今、女子に見えたのかさえ、もうわからない。


「ええと、用件は二つある。一つは謝罪。もう一つは告白かな。そう、まずは河井君に謝らなくちゃ」


 驚いた。学校ではまともに口をきかないくせに。先生に指されてもおどおどしてるし。僕にはピーナッツがどうのとか言うし。


「ビーカーが割れたのは申し訳ない。僕がビーカーを受け取る側だったら、絶対に割れていない。僕はあんなふうに、雑に実験道具を受け取らないから」


 これが謝罪?

 完全に喧嘩売られてるけど。


「……喧嘩しようっていうのか?」


 人が悩んでるのに、わざわざこんな嫌なことを言いに来たのか、こいつ。


「違うよ。謝罪はもういいや……僕はね、中学二年生でもない。もう少し歳上」


 はい?

 僕は呆気に取られてしまった。こいつ何を言っている?


「あと、今日僕がここに来て、河井君に話すこと、絶対誰にも言わないでほしい」


 僕たちは玄関の前で二メートルくらいの距離を保って話していた。


「誰にも言わないし。君と仲が良いと思われたくないから」


「あ……近所のシュークリーム。お土産です」


「いらないけど」


「お勧めなんだって。一緒に食べよう。部屋に入れてくれないか?」


 そう言って紙袋を突き出してきた。

 強引すぎる。


「嫌です。僕は、君が苦手なんで。こっちも、今いろいろ大変なことになってるんだ」


「ほんとにそうだね」 

「は?」


 ブッハッハッといきなり吹き出して楓が笑い出した。

「いやいや、すごかったね」

 腹を抱えている。


 最悪だこいつ-


「令和ではネットが炎上するけど、君はこっちでガスバーナー炎上させちゃって」

 

 こいつ-

 僕は楓の襟元を無言でつかんで締め上げた。

「やめてよ。僕、体が弱いんだ」

「嘘つけ! そうやって体育をずる休みして………」

 

 え?


 えええええっ?今なんて?


「やっと気づいた?……俺は未来から来たの。君と一緒だよ、河井君」


 嘘だろ?

でも令和って言葉を口にできるのは未来の人間だけだ。


「僕は嬉しくて、たまに河井君を見てニヤニヤしてしまって……」


 僕を見て、何度か気持ち悪い笑い方していたのは知っている。馬鹿にされているのかと思ったけど。


「誰にも未来から来たことを言うつもりはなかった。一人で解決したかった。でも河井君をを少し傷つけてしまったみたいで。君だけじゃなくて、クラスのいろんな人も」


 今頃?……少し傷つけた……少し?


「それに誰かに助けてもらわなくちゃならないかもしれない。確実に成功させるために」

 

 さっぱり意味がわからない。

 なにを言っているんだろう。わからないけど、なにか深刻なのかもしれない。 


 僕と同じように……。


 楓は言った。


「僕たち、これから協力しないか?」



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