第16話 秘密の反省会

 

 西里老人会館からこっそり家に帰ってきた。夜の十時半だった。

 お母さん2号は夜は遅くまで起きていられない人なので、公衆電話で先に寝ていてと伝えておいた。


 僕は湯船に浸かりながら、思い出し笑いさえできてしまうほど、気持ちは回復していた。 


 秘密の集会に呼んでもらえて、本当にありがたかった。


 今日、ガスバーナーを炎上させ、ビーカーまで割って散々で、正座をさせられ、矢作にあんなことを言われ-


 それが全部核をついていて傷ついて、もといた所に帰りたくなって……。


 そんな自分にがっかりした。

 誰にもこんな気持ちを打ち明けられないし、知られたくもない。

 どうしようもなく一人なのだと。

 

 矢作のことは恨んではなかった。彼は火を使う実験のときは、危ないので生徒を殴ったりしないのだと思った。


 一度ホースで軽く打ったのは、ビーカーを割ったことに対してだと思う。

 本当に危ないときは打たないのかも……と。それとも殴る価値すら僕にはないとか……どちらにしても、いつもみたいに打たないことで、あのときは本当に危険だったんだと感じている。


 僕は殴られて、チャラにしてもらう気でいたんだ。

 でもそうはならなかった。

 だからあんなに惨めだったんだと。


 上原駿君と僕が、今日秘密の集会に呼んでもらえた理由はなんとなく察しがついた。

 立て続けに二人とも先生に酷い目にあったからじゃないかなと。


 社会で8点を取った上原君はゴンにこれでもかとみんなの前で貶された。

 今日、ガスバーナー炎上事件を起こした僕は言うまでもない。

 二人とも見せしめって言うか……。

 

 そう思うと、増田さん、柏木、香織さんには感謝しかない。ありがとうと何度も言いたい。


 でも気になるのは公民館の不法侵入。

 小窓は鍵が壊れてるし……天井裏なんて生まれた初めて入ったし。

 それに外階段……一つ抜け落ちていて、今にも壊れそうなのに。


 ザ・昭和を感じた瞬間だった。

 不良などでもなく、むしろ優等生三人がこんなことをするんだと驚いた。

 ガスの元栓まで勝手に開けて……。


 シュワレツネッガー食べるってなに?

 まあそれはいいけど。


 これが令和の世界だったら、すぐSNSでバレるんじゃないか。だれか窓から侵入してる!なんて動画撮られたり。

 それとも自ら投稿しちゃうとか。ライングループで自慢しちゃったり。拡散も怖いし。


 それに夜の十時まで、中学生が家にいないなんて、親のグループラインがうるさそう。

 僕たちの親は何気に繋がっているみたいだった。


 子ども公民館…………じゃなくて、老人会館を使わないようにしたい。いつからあそこに集まっているんだろう?

 さっき見たとき、どこかで見た気がしたんだ。まあ、公民館なんてどこもあんなもんだろうけど。


 増田さんが法律を破って怒られるなんて、僕が怒られるより何十倍も悲しい。


 公民館に予約して昼間に入れないのかな?

そーゆーの違うからって香織さんに言われそうだけど。


 あれ? 


 え?……待って。なんで今、公民館だと僕は言っているのだろう。

 なんだかずっとそう思っている。


 あの老人会館……なんだか枯れた名前で言われていた建物……令和の僕のいた未来で、少し似た建物があったんだ。

地元にある中里子ども公民館…………。

 

 え?待て。ちょっと待て。

 あのこと……どう言うこと……。


「嘘だ……」


 僕は気づいた。


「西里老人会館」は令和では「中里子ども公民館」と呼ばれている!同じ建物なんだ。 


 名前が違うだけ。なぜなら-。


 そしてこのままいくと、1999年にあの場所で、もしかして……。


 あの事件が起こってしまうってことなんだ。

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