第14話 サヨナラ 

 

 ふらふらと、重たい足取りで裏門を抜ける。


 夜の校庭は冷たくて、空気が澄んでいてとても気持ちがよかった。

 フェンスに沿って奥までゆっくり歩く。フェンスの向こう側、街灯の下、遠くに小さな小川が流れているのが見えた。

 行ってみたかったな……。


 真っ黒な鉄の塊-。

 僕はそっと触った。熱くはなかった。


 よくわからないけど、今夜なら帰れるような気がした。

 焼却炉の出入口を開く-。


 中はやっぱり汚かった。何回か覗いていたけど、中に入りたいとは正直思わなかった。でも今夜はすんなりと入ることができた。


 僕はここではやっていけない。 


 先週もどうでもいいことで矢作に殴られて、鼻血を出していた生徒をみかけた。

 ほとんど話題にすらならなかったな……。


 まぁ、もういいや-

 

 そのときコトッと音がした。


 誰かがいる…………。


 外に気配を感じた。


 「こんにちは」


 「うわっ」


 夜だと本気で怖かったので、僕は大袈裟な声を出してしまった。

 増田さんが微笑んで、中を覗いている。

 くせっ毛の髪がいつもよりくるりとしていた。それはとても可愛らしかった。


 今はこんばんはか……と言って、彼女は笑った。

「斬新な自殺するんだ?」

「いや、違います……」


「……人間を焼却炉で燃やしたらどうなるのかな?」


 初めて会ったときと同じことを、増田さんは言った。


 ああ。そうか。


僕を笑わせたいんだ-


 目の前がぼやけて少し見えにくくなった。自分が泣いていることに気づいた。


「別に……火、つけてもいいよ」


「……残念だけどライターがない」

 

 僕たちは少し黙っていたけれど、あのときと同じように僕はぶつぶつと言いながら外に出た。


「あのさ、付き合ってほしいんだけど、いいかな?」



 え?

 今なんて?

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